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「熊本でラオスでボストンで」村上春樹は旅先で何してる?

重里徹也・文芸評論家、聖徳大特任教授
 
 

 村上春樹は旅する人だ。世界各地を訪れ、そのうちのいくつかは紀行文にまとめられている。村上の旅の特徴とはどういうものなのか。ここでは短期の旅行記について、2冊の文庫本で考えてみよう。

 「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文春文庫)には11の旅が収められている。行き先はアメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、熊本とさまざまだ。

 頻繁に書かれていることを列挙しよう。

 ジョギングをする。ボストンのチャールズ河畔。走りながら、水と風を感じ、水面が反射する陽光の変化を思う。そして、ボストンマラソンの魅力を語る。

 米国オレゴン州ポートランド近郊ではナイキの本社を訪ねる。完備されている1周1.5キロぐらいのジョギング・コースを走る。森を抜けて丘を越え、豊かな自然の中、コースは続く。「世界でいちばん素晴らしいジョギング・コース」という。熊本城周辺では地元の人たちとあいさつしながら走る。

地元の名産を普段着で

 おいしいものを食べる。アイスランドの新鮮な魚やシーフード・スープ。ギリシャのスペッツェス島でも、やはり新鮮な魚介料理。米国メイン州ポートランドのロブスター。ボストンのドーナツ。美食家というのとは少し違う。地元の名産のおいしいものを普段着で楽しんでいる。

 酒を楽しむ。イタリア・トスカナ地方のワイン。郷土料理のジビエと濃厚なワインがよく合うという。村上はワインに詳しく、相当好きなようだ。(ラオスのレストランのワインリストも「まずまず充実している」とのこと)。ただ、ワイン通によくあるようなウンチクは披露しない。舌で味わうだけだ。

 音楽に浸る。ニューヨークでは有名なジャズ・クラブを訪れる。次々と伝説的なジャズ・プレーヤーの名前が登場する。フィンランドではシベリウス(国民的な作曲家)が生涯の大半を過ごした山荘へ。ラオスの古都、ルアンプラバンでは地元の民族音楽を聴き、一種の「物の怪(け)」がついたようなすごみを感じる。深みのある音楽に土着の底力のようなものを肌に感じる。

 村上は「音」に反応する。もちろん、音楽の背後には歴史がある。米国の黒人の苦難。ラオスの人々の歴史。それを踏まえたうえで、文章では深入りせず、音そのものを味わう。

旅先でも猫をめでる

 猫をめでる。村上の猫好きは旅先でも…

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文芸評論家、聖徳大特任教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年聖徳大教授。23年4月から特任教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。