一気にわかる! 池上彰の世界情勢 フォロー

池上彰氏「痛ましい中国の日本人学校男児刺殺事件の背景」

池上彰・ジャーナリスト
日本人男児の刺殺事件が起きた日本人学校付近。警察犬を伴った警察官らが警備にあたっていた=広東省深圳市で2025年1月24日、松倉佑輔撮影
日本人男児の刺殺事件が起きた日本人学校付近。警察犬を伴った警察官らが警備にあたっていた=広東省深圳市で2025年1月24日、松倉佑輔撮影

 2024年9月18日、中国の広東省深圳市で日本人学校に登校中だった10歳の男児が刃物で刺され、死亡するという痛ましい事件が発生しました。

 現場は日本人学校の校門まであと約200メートルの地点で、目撃者の話では、母親と思われる女性が「助けて」と泣き叫んでいたそうです。地元警察は44歳の男性を拘束して起訴しましたが、中国の外務省は事件について捜査内容を明らかにせず、犯行の動機は今なお不明なままです(注:深圳市中級人民法印院(地裁)は25年1月24日、被告に対し、死刑判決を言い渡した)。

 24年6月には江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた母子らが男に刃物で切りつけられ、襲撃を阻止しようとしたバスの案内係の中国人女性が死亡するという事件も起きていました。このときも、中国外務省は「偶発的な事件」というだけで詳細を明らかにしていません。いずれも、日本人としては納得しかねる対応です。

 中国当局の説明がありませんので、これらの残忍な事件が日本人を狙ったものかどうかはわかりません。ただ、深圳市の事件が起きた9月18日は、満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)が起きた日ですから、犯行の背景に日本人への敵意があった可能性はあります。在留邦人の間では「今後、第3、第4の事件が起きるかもしれない」という大きな不安が広がっています。

 江沢民政権以降、中国では過去30年余りにわたり反日教育を続けており、習近平政権下ではこれが一般国民にも広がっています。

 反日教育は、民衆の社会不満が一党支配する自分たち共産党に向かわないように、人々の不満の矛先を日本に向けて適度にガス抜きをするという意図で行われてきました。また、近年では、中国のSNS(ネット交流サービス)上では日本に対して過激な批判を行う「反日言論」の投稿が増加していますが、日本政府のたびたびの取り締まり要請にもかかわらず、中国政府が反日言論を規制する様子はありません。

 深圳市の事件後の記者会見で、中国外務省の報道官は「反日言論が問題だと、安全に関するリスクを騒ぎ立てる人もいるが、それは事実ではない」「中国に反日教育はない」と言い切りました。

 客観的に見て、近年の中国政府は民衆に対して反日誘導をしていたと思われます。ただ、表向きには反日的なことを言っている中国人であっても、24年上半期には300万人以上が日本を訪れています…

この記事は有料記事です。

残り913文字(全文1913文字)

ジャーナリスト

 1950年、長野県生まれ。ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業後、73年にNHK入局。94年から11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説が話題になる。2005年よりフリーのジャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍などで幅広く活躍。現在、名城大学、東京工業大学など6つの大学で学生たちの指導にもあたっている。