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ステゴザウルスが70億円!「恐竜オークション」何が問題か

青野由利・客員編集委員
米テキサス州のヒューストン自然科学博物館にあるアクロカントサウルスの展示=米デポール大学の島田賢舟さん提供
米テキサス州のヒューストン自然科学博物館にあるアクロカントサウルスの展示=米デポール大学の島田賢舟さん提供

 東京大学出版会が2025年4月に発行した「恐竜学」は分厚い専門書だ。編者は「むかわ竜(カムイサウルス)」の全身骨格発掘で知られる北海道大学の小林快次さん。

 価格は6380円で、決して安くないが、これが予想以上の売れ行きらしい。出版会に聞くと9月の時点で4刷3800部。10月にはさらに増刷予定で、一般の恐竜ファンも手に取っている様子だという。

 かつて恐竜とは縁遠かった日本だが、各地で化石が発掘されるようになり、身近な存在になった。福井県立大学に日本初の「恐竜学部」が開設されたり、日本の研究者が海外で新種の恐竜を発掘したりと、話題に事欠かない。

 ところが、こうした恐竜人気の裏側で科学者にとって困ったことが起きているという。

 富裕層を標的とした「恐竜オークション」だ。

 「化石は科学的証拠であり、個人のバイヤーを対象に数百万ドルでオークションにかけられるべきではない」

 25年8月、こんなタイトルのオピニオン記事が科学ニュースサイト「The Conversation」に掲載された。

 著者は「古脊椎(せきつい)動物学会」のスチュアート・スミダ会長ら、カナダと米国の学会員4人。史上最大の絶滅した古代サメ、メガロドンの研究で知られる米デポール大学の島田賢舟さんも名を連ねている。

 島田さんによれば、この問題は日本とも無縁ではない、という。どういうことだろう。

ステゴザウルスが70億円で落札

 恐竜がオークションにかけられるのは、今やめずらしい話ではない。

 25年7月には、肉食恐竜ケラトサウルスの幼体が米ニューヨークのサザビーズのオークションにかけられ、3050万ドル(約45億円)で落札された。1996年に米ワイオミング州で発掘されたもので、落札者は公表されていない。

 24年7月には「エイペックス」の愛称を持つ草食恐竜ステゴザウルスの全身骨格化石が4460万ドル(約70億円)で落札された。

 落札者は、コレクターのケン・グリフィン氏といわれる。

 20年には「スタン」と呼ばれる大型肉食恐竜ティラノサウルス・レックス(T・レックス)の化石が米ニューヨークのクリスティーズの競売で3180万ドル(約33億円)で落札されている。

 落札者は匿名だったが…

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客員編集委員

東京生まれ。科学ジャーナリスト。好きな分野は生命科学と天文学。著書に「インフルエンザは征圧できるのか」「宇宙はこう考えられている」「ゲノム編集の光と闇」(第35回講談社科学出版賞受賞)など。20年日本記者クラブ賞受賞。