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実家が売れない? 親の認知症で知った複雑な現実

元木翼・司法書士法人・行政書士法人ミラシア代表
=Getty Images
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突然、実家が「空き家」に

 「こんなに大変だとは思っていませんでした」

 神奈川県在住の50代女性Bさんは、父名義だった自宅マンションの売却手続きを終えた今、その過酷なプロセスを振り返ります。

 すべては、80代の父が自宅で突然倒れ、救急搬送されたことから始まりました。

 一命は取り留めたものの、父は長期入院が続いて寝たきりとなり、その後、認知症が急速に進行。母は認知症で施設に入所しており、両親が暮らしていたマンションは空き家になりました。

 しかし空き家でも、固定資産税や管理費、修繕積立金はかかります。Bさんはフルタイムで働きながら、両親の入院費や施設費を負担していました。

 「このままでは自分の生活が立ち行かない」

 不安が募り、Bさんは両親の生活費を捻出するために、両親の住んでいたマンションを売却することにしました。

 インターネットで見つけた不動産会社へ早速相談に行くと、担当者から思いがけない言葉を返されました。

 「お父様には契約内容を理解する判断能力がないため、このままでは売買契約が結べません。『成年後見人』の選任が必要です」

 父の単独名義のため、本人の意思確認ができない以上、売ることはできないと不動産会社から説明を受けました。Bさんはこの時はじめて「成年後見制度」という言葉を知ったのです。

 成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下してしまった人に代わり、家庭裁判所に選ばれた「成年後見人」などが財産の管理や契約手続きを行うための制度です。本人の判断能力が低下後に申し立てる「法定後見」と、判断能力が十分なうちに将来に備えて契約を結ぶ「任意後見」があります。

 Bさんは自身が成年後見人(法定後見人)になるべく、慌てて司法書士に相談したところ、新たな壁に直面します。

 家庭裁判所へ成年後見人の申し立てを行うには、父の財産目録、診断書、住民票、戸籍謄本、親族関係図、収支予定表に加え、後…

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司法書士法人・行政書士法人ミラシア代表

 早稲田大学教育学部英語英文学科を卒業し、2010年司法書士・行政書士登録。大手司法書士法人にて支店長などを務め、 17年独立し、司法書士法人・行政書士法人ミラシアを開業。千葉商科大学大学院特別講師。著書に『親の財産を凍結から守る 認知症対策ガイドブック』(日本法令、2021)など。