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北岡伸一氏「予測不能のトランプ氏、高市首相はリアリズムで」

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 米トランプ政権が「武力による国際秩序の変更」に相次いで踏み切る中、法による支配、平和主義を国是とする日本は、国際情勢の変化にどのように対応すべきか。日本の外交、安全保障政策に深く関わってきた北岡伸一・東京大学名誉教授に聞いた。(聞き手=稲留正英・週刊エコノミスト編集部)

── 日本の同盟国である米国が法的な根拠も不明確なまま、相次いでベネズエラ、イランを武力攻撃したことに、国内外で懸念が高まっている。

■これは戦後世界では極めて異常な行動だが、長い歴史の中では、強い国が膨張し、弱い国が虐げられるのは珍しいことではない。

日本の地政学は変わらず

── 日本への影響は。

■日本が直面する地政学は、昔から基本的に同じだ。米国は1776年の建国以降、東部13州からどんどん西進し、日本にとっては太平洋を挟んだ隣国だ。ロシアは18世紀以降、ウラル山脈の東に進出し、江戸時代から日本の周辺をウロウロしている。また、日本の西には中国がある。日本はこの三つの超大国に囲まれている。これに対抗して、「自分も超大国になるぞ」と挑戦し、敗北したのが戦前の日本だ。

── 戦後は一貫して、米国と同盟を結んだ。

■戦後の日本がこれらの超大国のはざまで生き残るには、どこかと組む必要がある。価値観や政治体制が違うロシアや中国とは組めないから、選択肢は米国しかない。そのために、日本政府もメディアも、「米国は立派な憲法を作ってくれた良い国だ」とせっせと持ち上げた。

 新憲法の狙いは、日本が米国に二度と刃向かわないよう、軍備を剥奪することにあり、問題の多い内容だった。だが、吉田茂首相がそれを逆手にとり、「軍事面で米国のいいなりになるから、経済に専念するぞ」と言い、それが「吉田ドクトリン」になった。

 これは日本に有利だった。自由貿易体制により日本は世界で一番安い鉄鉱石や石炭を買うことができた一方、軍事力に投資をしなくてよかった。しかし、それが最早、機能しなくなったのが昨今の状況だ。

── 戦後の安全保障体制の転換点となったのは。

■一つは、1980年代に米国と貿易摩擦が起こったときだ。日本は経済大国なのに、安全保障はただ乗りしているとの不満が米国内で高まった。当時、米国は日本に「ケイレツ」などのアンフェアな経済慣行があると言ってきたが、米国は同様に、軍事面で外国企業を排除していた。それなら、日本は独自で軍事面の充実をすればよかった。しかし、やらなかった。

 数年後に勃発したのが湾岸戦争だ。国民1人当たり1万円増税して、多国籍軍に巨額の資金を拠出した。しかし、「カネは出すが、血は流さない」と非難された。国際秩序のために、危険を背負うのは、国際社会の一員として必要な行動だ。その後、92年にPKO協力法もでき、動きは遅いが徐々に変わってきた。

 そして、2022年のウクライナ戦争で、一生懸命戦わなければ、外国は助けてくれないことが、国民にもようやく分かってきた。核の時代でも通常兵器で戦うことに意味があることも理解された。80年代から安保体制の転換を主張していた私としては、リアリズムとして当然の変化が起こりつつあると考えている。

集団的自衛権の意味

── 今年2月の衆院選挙では、中国に対するタカ派路線を表明する高市早苗首相が国民の圧倒的な支持を得た。

■今、日本国内で高まっている議論の中には、リアリズムというより、感情的な対外強硬論も見られる。中国には多くの問題があるが、軍事力の差を冷静に見れば、日本が単独で対抗するのは容易ではない。「米国がついているから大丈夫だ」という議論もあるが、「米国がいつでも当てになるのか」という視点が欠けている。

── トランプ政権でそのことが明確になった。

■軍事同盟は共通の敵に対抗するためのものだが、冷戦の終結とともに、ロシア(旧ソ連)という敵がいなくなった。日本にとり在日米軍基地は、「エッセンシャル(極めて本質的)」だが、米国にとっては、「ベリーインポータント(重要)」のレベルだ。なくても米国はやっていけるのであり、「いらない」と言い出す可能性がゼロではないと思っていた。それをつなぎ留めるためのカギの一つが、集団的自衛権だ。

── 北岡さんはその理論的支柱を担ってきた。

■米国は日本のために戦うが、日本は米国のために戦わないということでは、同盟がもつわけがない。我々の提言により、第2次安倍晋三政権時の14年に憲法解釈が変更され、15年に安保関連法が改正・新設された。

── 22年に反撃能力の保有を盛り込んだ安保3文書の策定もリードした。

■私がよく使う言葉に、セオドア・ルーズベルト米大統領の「Speak softly, and carry a big stick」がある。穏やかに話せ、でも、こん棒はちゃんと持っていろ、と。

 中国は元来、軍事的には慎重な国だ。短期間に簡単に勝てる…

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