「先生、患者さんから電話がかかっています」
外来の看護師が私に声をかけてくれました。先日、あるかかりつけの患者さんに処方した薬が、メーカーの問題で欠品となり、薬局で渡されたのがいつもの錠剤ではなく、全く同じ成分のカプセル剤になっていました。自宅に帰ってそのカプセルを飲んだところ、頭から血の気が引くような感じがして、冷や汗や動悸(どうき)の症状も出た、という話でした。
この患者さんは以前、違う病気で治療中に薬を変更され、やはり同じような「副作用」の経験があり、治療を変えるのはもちろんのこと、薬を増やしたり減らしたりするのにもとても神経質な反応を示される方でした。薬剤師は「同じ成分だから変えても問題ないだろう」と思ったのかもしれませんが、患者さんはそんなに軽い受け止め方をしなかったようです。
食べ物でも薬でも、口の中に入れてのみ込む、というのはやや注意を要する行動です。手で持っただけ、触れただけでは何も問題を起こさなくても、のみ込んでしまうと命を落とす危険があるものは世の中にたくさんあります。ですから私たちは口の中に入れてもいいものなのかどうか、行動に移す前に判断をしなくてはなりません。
たとえば、賞味期限をほんの少し過ぎている食品で、「これを捨てるのは惜しい」と感じたとき、食品の表面に変化がないかよく観察したり、見た目だけでなくにおいをかいだりして、口にしてもいいか判断することがありますね。
では、薬の場合はどうでしょうか。漢方薬には独特の風味があります。「良薬は口に苦し」ということわざにもある通り、その風味は飲みにくさにつながることも多いのですが、患者さんにとっては、出された薬を飲むべきかどうかの判断材料を与えられている、とも考えられます。
その点、西洋医学の多くの錠剤・カプセル剤は無味無臭であり、患者さんは薬自体から何かを判断しにくくなっています。なので、医師や薬剤師から受けた説明や、ネットや本で得た情報、自分の医療や薬にまつわる経験や記憶などが、患者さんが薬に対して抱いている印象や、薬を飲むべきかどうかの判断を左右しているのだと思われます。
冒頭に挙げた患者さんのケースでは、カプセル剤に含まれる微量の不純物に体が反応してしまった可能性がゼロとは言えません。ただ、私はカプセルという剤型の薬全般に対して悪いイメージを持たれてしまい、「具合が悪くなるかもしれない」と緊張しながら服用して実際に気分が悪くなってしまった、ということもありうると思っています。
このように、…
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新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 鍼灸健康学科教授
1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科を経て、2023年4月より、新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科教授。聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 臨床教育アドバイザー 。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。





