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重症化を予防する「適度」な運動量って?

矢部大介・岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授
 
 

 運動は健康的な食事同様、糖尿病の重症化を予防するためにとても重要です。運動不足は、喫煙や高血圧についで心血管死のリスクを増大させる要因ランキングの3番目に位置するという報告もあります。しかし、誤って行うと十分な効果が得られないばかりか、健康を害する恐れもあると矢部大介・岐阜大教授は話します。適度な運動量とはどの程度のことをいうのでしょうか。運動について正しく理解したうえで実践・継続することが重要です。

「強い負荷」の運動量はかえってマイナス

 「退院後、血糖値を良くしたくて、かなり強い負荷をかけてエアロバイクをこいでいたのですが……」。40代の男性が、半年近い入院治療をへて退院し、外来を受診した時に口にされた言葉でした。

 その男性は20年以上、健診を受けず、糖尿病があることを知らないまま合併症がすすみ、足壊疽(えそ)を発症していました。足壊疽は、血流の悪くなった足に、細菌や真菌が感染し、足が腐ってしまう状態のことをいいます。適切な治療を受けずに高血糖の状態が続くと、足の感覚神経が痛みを感じにくくなるため、発見が遅れることがあります。半年近く入院していただいた結果、治療が奏功して足の切断を免れ、自力で歩いて退院することができました。

 退院後も、血糖値を良くしたい一心で、自宅で運動されたのだと思いますが、やりすぎだったようです。

有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせる

 一般的に、糖尿病のある方にとって、運動は血糖値を良好に保つだけでなく、肥満や脂質異常症、高血圧症を改善することがたくさんの研究から明らかにされています。また、生活の質を向上させ、うつ状態を改善し、認知機能の低下を予防することも示されています。

 運動には、脂肪を燃やし全身の持久力を向上させる有酸素運動(ウオーキングやジョギング、水泳など)と、筋肉を増やし筋力を強化するレジスタンス運動(腹筋、腕立て伏せ、スクワット、ダンベルなど)があります。二つの運動は共に、血糖値を良好に保つことに有効で、組み合わせて行うことで、より大きな効果が期待できます。さらに高齢者なら、片足で立ったままの姿勢を維持する片足立位保持やバランスボールを用いた体幹バランス運動などが、自立した日常生活を送るための能力の維持や向上に有効です。

 さて、運動の強さの目安としては、メッツ(METs)という単位が用いられます。安静にしているときを1として、何倍のエネ…

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岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授

やべ・だいすけ 1973年生まれ。98年京都大学医学部卒業、2003年テキサス大学大学院修了。関西電力病院糖尿病・内分泌・代謝センター部長、関西電力医学研究所副所長、京都大学医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学特定准教授などを歴任し、18年から岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学、膠原病・免疫内科学教授。岐阜大学病院では副病院長や医療情報部長、国際医療センター長を務める。 糖尿病や肥満症、栄養が専門。糖尿病や肥満症の予防、治療として注目される「食べる順番」や食習慣と薬物療法の関係性など、食事療法を中心に臨床研究を展開する。血糖値をコントロールするインスリンを分泌する膵ベータ細胞、インスリン分泌を促す「インクレチン」という物質の基礎研究にも従事。日本糖尿病協会の活動を通して、糖尿病の正しい知識の普及啓発や糖尿病教育・支援にたずさわる人材育成、糖尿病の重症化を防ぐ地域連携にも精力的に取り組む。