「母は糖尿病が原因で人工透析を受けるようになりました。私もいずれ、受けることになるのでしょうか……」。糖尿病の診療をしていると、たまにこのような質問を受けます。糖尿病が原因で腎臓の機能が損なわれる「糖尿病性腎症」は、糖尿病の3大合併症の一つです。この合併症が重くなって腎臓が全く働かなくなると、命を保つために、人工透析を受けることになります。そして、日本人が人工透析を受けるようになる理由の第1位が、糖尿病性腎症なのです。毎年1万6000人近くが、糖尿病性腎症が重症化して、人工透析導入にいたっています。人工透析を始めると、週に2~3日、医療機関に通院し、1回につき4~5時間の処置を受ける必要があります。こうなると生活の質を著しく損ないます。また透析のためには、年間500万円近い医療費がかかります。透析費用には公的助成制度が確立していて、患者負担はもっと軽いのですが、それでも医療費の社会負担を考えると、糖尿病性腎症の重症化予防は喫緊の課題です。そこで今回は、糖尿病性腎症と、その発症予防、重症化予防について解説したいと思います。
糖尿病性腎症とは
腎臓は、そら豆のような形をした、握りこぶしくらいの大きさの臓器で、腰の高さに左右一つずつ存在します。腎臓の働きの一つは、血液中の老廃物をこし取って、尿として体外に排出することです。また、体内の水分量や電解質、血圧を調整する役割もあります。さらに、赤血球を作るのに必要な「エリスロポエチン」というホルモンを分泌する▽骨を丈夫に保つ働きがある「ビタミンD」を活性化して、本来の働きを発揮させる――などの役割もあります。腎臓はこのようにさまざまな役割を担うため、健康に生きていくために欠かせない臓器です。
さて、糖尿病を放置して、慢性的に血糖値が高い状態が続くと、腎臓にある「糸球体」が傷ついて、糖尿病性腎症を発症してしまいます。糸球体は、腎臓に流…
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岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授
やべ・だいすけ 1973年生まれ。98年京都大学医学部卒業、2003年テキサス大学大学院修了。関西電力病院糖尿病・内分泌・代謝センター部長、関西電力医学研究所副所長、京都大学医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学特定准教授などを歴任し、18年から岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学、膠原病・免疫内科学教授。岐阜大学病院では副病院長や医療情報部長、国際医療センター長を務める。 糖尿病や肥満症、栄養が専門。糖尿病や肥満症の予防、治療として注目される「食べる順番」や食習慣と薬物療法の関係性など、食事療法を中心に臨床研究を展開する。血糖値をコントロールするインスリンを分泌する膵ベータ細胞、インスリン分泌を促す「インクレチン」という物質の基礎研究にも従事。日本糖尿病協会の活動を通して、糖尿病の正しい知識の普及啓発や糖尿病教育・支援にたずさわる人材育成、糖尿病の重症化を防ぐ地域連携にも精力的に取り組む。




