「次世代を守り育てる心」をもつ人は幸福感が高いうえ、寿命も長くなる――。米ハーバード大学などの研究から意外な事実がわかっています。逆に自分のことで精いっぱいのまま壮年期を過ごしてしまうと、深刻な心の危機にハマってしまう場合も……。子どものいる人もいない人も発揮できるという「ジェネラティビティ(generativity)」について、安田女子大学心理学部講師の田渕恵さんに聞きました。
幸せな「人生の最終章」の決め手
人間の女性はなぜ閉経後も長く生きるのか、生物学の世界では長く謎とされてきた。通常、あらゆる生物は生殖期を過ぎると生体リズムを保つ「ホメオスタシス」という機能が低下し、死に至るからだ。
ひとつの答えが、米ユタ大学の人類学者、クリステン・ホークスらが唱えた「おばあさん仮説(祖母仮説)」である。
人間の赤ちゃんはほかの生物に比べて未熟な状態で生まれてくる。そこで高齢女性たちは自らの経験を生かし、若い世代の子育てを助けてきた。「人類の存続のためには彼女たちのサポートが不可欠であり、だからこそ女性は長く生きる必要があったのではないか」というのがホークスらの主張だ。
「シニアが若い世代を育て手助けすることは、社会のためになるばかりではありません。心理学では、人間が幸福な人生を送るうえで重要なこととされています。もちろん性別は問いません」。生涯発達心理学が専門の田渕さんはこう話す。
広く次世代の人々に自らの経験や知恵を伝えたり、教え導いたりすることを、心理学では「ジェネラティビティ」と呼ぶ。米国の心理学者、エリク・H・エリクソンによる造語だ。
「generate」はラテン語源で「生み出す」という意味。日本語では「世代継承性」「世代性」などと訳される。
「人間は乳児期、幼児前期、幼児後期、学童期、青年期、成人期、壮年期、老年期と、一生の間に八つの段階を踏みながら発達するとエリクソンは考えました。段階ごとにぶつかる課題を克服することで成長していくわけですが、7番目の壮年期の課題として彼が挙げたのがジェネラティビティです」
壮年期といえば40~65歳ごろに当たるが、長寿化や晩婚化が進んだ現代では、高齢期においても重要な課題と考えられている。
ジェネラティビティを発揮すると、人は命が次の世代に受け継がれることを実感できるようになる。「自分の人生には意味があった」と感じ、やがておとずれる死も穏やかな気持ちで受け入れられるようになるそうだ。
実際、ジェネラティビティの高い人は幸福感が高いばかりか、寿命も延びることが米ハーバード大学公衆衛生大学院「健康と幸せセンター」の研究からわかっているという。
「逆に自分のことにのみとらわれてジェネラティビティを発揮できないと、次に訪れる高齢期、そして死に対し、強い拒否感を抱く場合もあるとされます」と田渕さん。
身体や容姿が急速に変化していく壮年期は、…
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