精神医療に関する三つのインタビュー
先月、新聞に掲載された日本の精神医療に関する有識者インタビューで、印象に残った記事が3本ありました。
一つは、「精神科の強制入院の課題」と題し、毎日新聞に2回にわたり掲載されたもので、その前編、7月5日付朝刊の八尋光秀弁護士へのインタビューです(https://mainichi.jp/articles/20230705/ddm/013/040/018000c)。
精神障害者の人権擁護のために長く闘ってきた八尋弁護士は、精神保健福祉法による強制入院の制度を人権侵害だと断じます。
さらに、「政府は(医療が必要だが患者さんが同意しないとき、資格のある医師が家族等の同意で強制入院を決める)医療保護入院による人権侵害を検証し、患者や家族の尊厳を回復させ、地域で平穏に生活する権利を等しく保障していく義務がある」と述べます。
二つ目は、「精神科の強制入院の課題」の後編として7月12日付朝刊に掲載された、千葉県精神科医療センター名誉病院長、平田豊明先生へのインタビューです(https://mainichi.jp/articles/20230712/ddm/013/040/012000c)。
平田先生は千葉県精神科医療センターの長として、精神科救急医療の場で長く活躍しました。強制を伴う救急医療は、手厚い医療スタッフによるチーム医療が提供できる病院のみにすべきだという考えです。
医療保護入院を減らすための条件として、入院の対象患者を絞り込むこと、あらかじめ入院期間を決めること、入院できる病院を限定して良質な医療を提供すること、外部審査機関を強化することの四つを挙げました。
同時期に報じられた三つ目の記事は、7月7日付の東京新聞に掲載された日本精神科病院協会(日精協)の山崎学会長へのインタビューです(https://www.tokyo-np.co.jp/article/261541)。SNSなどを中心に話題になったので、お読みになった読者も多いかもしれません。
日精協は民間の精神科病院が加入する協会です。8期にわたり同協会の会長を務める山崎先生は、親の代から長く民間精神医療の中心に身を置いてきました。“業界のドン”として日本の精神医療行政にも強い影響力を持っています。
このインタビューでは身体拘束、強制入院、滝山病院の虐待事件などについて持論を展開しています。
山崎会長の発言をどう捉えるか
山崎会長の物言いは乱暴で傍若無人ですが、正鵠(せいこく)を射る発言もたくさんあります。
身体拘束で心が痛まないかと質問されると、「はあ? 治療の一環で拘束しているわけで、それを全然現場を知らないきみが土足で入ってきて、心痛みませんかって何なの? 失礼だよ」と切り返します。
病院ではなく地域で障害者を見守ることが大事といわれれば、「地域で見守る? 誰が見てんの? あんた、できんの? きれいごと言って、結局人ごとなんだよ」と反論し、社会構造を変えないと、という質問には、「変わんねえよ! 医者になって60年、社会は何も変わってねえんだよ。みんな精神障害者に偏見もって、しょせんキチガイだって思ってんだよ、内心は」と逆襲します。
虐待事件のあった滝山病院についても、「滝山への入院は全部他院からの紹介だ。透析患者や難しい案件の患者をなぜ(都道府県や市町村などの自治体が運営する)公立病院がやらないんだ。それを言えよ」と反撃します。
悪評を知りながら、透析になったら滝山病院という方針を止めなかった元公立病院長としてはぐうの音も出ません。
実際、先に挙げた三つのインタビューのうち、平田先生や八尋先生のお話に、私は反論できませんが納得もしません。山崎会長の言葉を借りれば、それじゃ何も「変わんねえよ!」と思うのです。
一方で、山崎会長のご高説に同調するかといえばもちろんそんなことはありません。現状、日本の精神医療は、大きな問題を抱えており、これを変えようとしなければ変わるわけがないからです。
日本の精神病床は多すぎるのか?
日本の精神医療については、これまでも多くの問題が国内外で指摘されてきました。
精神疾患のある患者さんが入院する精神病床数が多いこと、その平均在院日数が長いことは、半ば常識になっています。一方で、西欧諸国とは病床数の数え方が違うのだという主張をする人もいます。
では、実際のところはどうなっているのでしょうか。
OECD(経済協力開発機構)が2014年にまとめたリポート(※PDF)では、日本における精神医療の脱施設化の遅れを指摘。人口10万人に対する精神病床数は、OECD加盟国の平均68床に対し、日本は269床であると報告しています。この数字は、日本の精神病床の多さを問題視する人たちの重要な根拠になっています。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所の研究員だった菊池安希子さん(現・武蔵野大学教授)は、英国のNHS Benchmarking Networkが実施する国際的なメンタルヘルス指標ベンチマークプロジェクトに参画。19年に、精神病床数に関するデータなどを国際比較した「精神保健医療福祉制度の国際比較」(※PDF)をまとめています。
急性期医療を担う病床数では、日本はプロジェクト参加国の平均とほぼ同じ(人口10万人に対し52床)でしたが、平均在院日数は120日を超え、平均の42日、中央値の32日を大幅に上回りました。
また、リハビリや長期ケアを担う病床数は、人口10万人に対し120床超(平均…
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