「なぜ、何度も同じことを言わせるの」「どうしてこう、いつも口うるさいんだろう」。
うまくいかない夫婦の会話には、じつは独特のコミュニケーションパターンがあることが、心理学の研究からわかっています。3組に1組が離婚するこの時代、心地よく結婚生活を送るためのコツを立命館大学総合心理学部准教授、三田村仰さんに聞きました。
夫婦のやりとりがワンパターンに陥る理由
源頼朝と北条政子、ロシアの文豪、トルストイとソフィアなど、歴史をひもとけば恐妻家と鬼嫁の組み合わせは少なくない。古代ギリシャの哲学者、ソクラテスは妻であるクサンティッペの口やかましさに閉口し、「セミは幸せだ。なぜならものを言わない妻がいるのだから」と嘆いたとも伝えられる。
一方が相手に詰め寄り、もう一方が引き下がる――。
うまくいかないカップルによく見られるこのやりとりは、「要求と撤退パターン」と呼ばれる。1930年代と古くから知られていたパターンだが、80年代になって初めて米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドリュー・クリステンセン教授が実証研究を行い、不幸なカップルに特徴的であることをあらためて明らかにした。
「なんで毎日、帰りが遅いのよ」となじる妻に、「勘弁してくれよ、疲れているんだ」と寝室に引きこもる夫。ドラマではありがちのシーンだが、なぜ夫と妻は毎度おなじみの役回りを演じてしまうのか。
三田村さんは次のように説明する。
「女性がパートナーと親密になろうとするのに対し、男性は自立と自由を確保したがる傾向がある、とする研究結果もあります。 ただし、これは性差ではなく、性別役割分業(性別によってつくられた生活上の行動様式)による負担が原因、という説もあります。家事や育児に追われて疲弊した妻たちは、要求のかたちでSOSを発信しているのかもしれませんね」
実際、最近は家事や子育てを担う夫が、仕事で帰りの遅い妻に不満を抱く事例も増えている、と三田村さん。
なお、クリステンセンの研究によると、パキスタンなど家父長制の根強い国では、夫が要求し、妻が撤退する男女逆転バージョンが多く見られるそうだ。
また、三田村さんは「要求と撤退パターン」はうまくいっているカップルでも起こりうる、と説明する。ただし、パターンが過剰になったり、たがいに抜け出せなくなったりすると、カップルは最悪、破局へと向かってしまう可能性があるという。
「あの日のことを忘れない」要求側が抱え続ける恨み
「要求と撤退パターン」を放置していると、夫婦関係は悪循環に陥る。
「要求する側が逃げる相手を追い詰めると、撤退する側は燃えさかる火から身を守るかのごとく、ひたすら自己弁護を繰り返します。逃げたところで問題は解決しないので、要求する側はますます激しい言葉で相手を非難、侮辱するようになってしまいます」
批判的な要求をすればするほど、あるいは逃げれば逃げるほど、二人の仲は悪化してしまう、というわけだ。
夫婦仲の悪化はストレスにつながり、健康にも影響を及ぼす。米ワシントン大学名誉教授で心理学者のジョン・ゴットマンの研究によれば、撤退する側の最高血圧は要求する側より高まることがわかっている。また、ミシガン大学の研究によると、不幸な結婚生活者は幸せな結婚生活を送る人より35%も病気になりやすく、寿命も4年短くなるとされる。
ただし、問題は火が燃えていることそのものではない、と三田村さん。怒りや悲しみは愛情の裏返しでもある。夫婦として共に生きていきたいという気持ちがあるからこそ、生まれるものでもあるのだ。
「夫婦のコミュニケーションは、言ってみればキャンプファイアのようなもの。火が燃えていても、楽しい音楽が流れていたら歌ったり、踊ったりできる。大切なのは、プラス感情が生まれるような体験、時間を共有すること。そして火事に発展しないよう、…
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