外来で患者さんからよく「どうすればリウマチにならないですみますか?」という質問をされます。

 リウマチは遺伝的な要因や環境要因が複雑に絡み合って起きる病気なので、単純に答えることが難しいのですが、統計調査が出した答えはいくつかあります。それは喫煙と歯周病です。そこで、患者さんには禁煙や定期的に歯科検診を受けるよう説明しています。

 偉そうに説教を垂れるからには、自らが模範を示さねばなりません。私はたばこを吸いませんが、半年に1度は歯科の先生に診てもらっています。虫歯がないと褒められるものの、最近は初期の歯周炎の徴候が表れており、歯磨き指導の注意を受けるようになりました。

 歯周炎のメカニズムについては研究が進んでおり、ポルフィロモナスという歯肉炎菌が重要な役割を担っていることが明らかになっています。この菌は歯肉や歯を支える骨組織を破壊するだけでなく、免疫をかく乱しリウマチになる危険性を高めるともいわれます。

 先日、テレビ番組で、歯周病がテーマとして取り上げられていました。出演していた専門家によると、歯肉炎菌は10代の若者にはほとんど見られないそうです。年齢を重ねるに従い口腔(こうこう)内の細菌は種類も量も増え、40代以上の中高年になると歯肉炎菌を持っている人が増えてくるとのことでした。

 おそらく、他人の唾液に接触して口腔細菌に感染するのでしょうが、それを聞いた芸能人は「あのときのキスが原因かなー」と冗談めかして相づちを打っていました。

広がる交遊、増える細菌

 ひとは年を取ると身体にさまざまな変化が表れます。

 いわゆる「老化現象」で、歯が抜けるのは代表的な例のひとつです。歯が抜ける、髪の毛が減る、筋力が衰えるなど、老化には「若さ」や「活力」といった“何か”が少なくなっていくイメージがあります。

 漢方医学では、「腎気」「精」といった語で表現されます。両親から授かったこれらのものは、生まれ落ちた時が最大で、成長や生殖といった生命活動を行ううちに次第に減少。病気やケガ、不摂生で大いに消耗し、ゼロになった時点で寿命が尽きます。

 しかし、口腔細菌と歯周病の関係でいうと、細菌の種類が多くなり、数も増えることで歯周病という「老化」が進んでいくわけです。老化には、減るばかりでなく何かが増えるという側面がある、そういった視点に立つといろいろ面白い事実が見えてきます。

 例えば、肌にシミやシワが増えるという現象は、肌の白さやハリが失われ、美貌が損なわれると捉える向きも多いでしょう。一方で、長年にわたり労苦を積み重ねた人が表情に刻んだものからは、経験の厚みや思慮深さ、誇り高き人格が感じられます。

 陰陽五行説という東洋の伝統的な思想では、水が木を生み出し、木が火を生み出すと土になる、といいます。赤ちゃんのような白くみずみずしい肌は、成長するにつれ水分量が減り、紫外線に当たって小麦色の丈夫な肌に成長します。

 柔軟ではなくなるものの、木のように丈夫になり、傷の治りは遅くなりますが、樹皮のように傷つきにくくなります。そしてこの世で長く時間を過ごすうちにさまざまな微生物がすみ着き、私たちの身体の一部を栄養として少しずつ分解します。

 シワが経験と知恵の象徴なら、皮膚粘膜に取り付く微生物は「人生の交遊録」とも言えるでしょう。歯肉炎菌はなにも「あの時のキス」だけで移ってくるものではありません。誰かと食事を共にして、杯を交わしたり、口角泡を飛ばして議論したりして、「感染」することもあるでしょう。

 そうやって時間とともに身体に微生物を蓄えていくと、歯肉炎がおきたり、加齢臭の原因になったり、胃にピロリ菌がついて胃酸の出が悪くなったりするのかもしれません。しかし、そのような「老化」を嫌って誰とも付き合わないならば、無味乾燥な人生になってしまいます。

 ワインやチーズと同じように、ヒトも微生物にさらされるようなことをしないと円熟味が出ないというのは面白いですね。

経験を焼き払い、本質を見つめる

 私たちは死を迎えると、微生…

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新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 鍼灸健康学科教授

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科を経て、2023年4月より、新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科教授。聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 臨床教育アドバイザー 。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。