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すーっと手が通るネコ、天井に浮かぶ土偶--伝えたい、レビー小体型認知症のこと
中澤まゆみ・ノンフィクションライター- 保存保存
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9月の「世界アルツハイマー月間」に合わせ9~10月、各地で認知症関連イベントが盛んに行われています。レビー小体型認知症の三橋昭さん(74)も大忙し。豊島区立中央図書館、所沢市役所ロビー、八王子市図書館、目黒区立大橋図書館での展示やトーク、たまプラーザ「ある人・ない人カフェ」でのバンド演奏への参加、10月20日には渋谷区が開催する「認知症なっても展」でも展示とトークを行います。当初は、知らない人には認知症のことを言えなかったという三橋さん。どうして、多くの人に体験を伝えようと思うようになったのでしょうか。
「見えちゃった、幻視」
三橋さんが各地で展示しているのは、自分の見てきた「幻視」を描いたイラストの数々です。2019年3月に診断を受け「この先どうなるのだろう」と考えていたころ、「記録をつけてみよう」と思い立ったのが描き始めたきっかけでした。シャープぺンと色鉛筆で描いたイラストは4年間で1000点を超えたそうです。
三橋さんはトークに「見えちゃった、幻視」というタイトルをつけています。
「何が見えちゃったかというと、朝起きて目を開けたら、天井や壁に幻視が現れるようになった。僕は朝一番に見えるけど、ほかのレビーの人たちの話を聞くと、夕方に見えたり、時間に関係なく見えたり、見える幻視もさまざま。認知症にもいろんなタイプがあり、症状も一人ひとり違います。だから、これは僕の例として聞いていただきたいということを、最初にお話ししています」
幻視やパーキンソン病症状の表れる認知症として知られるようになったレビー小体型認知症は、認知症の約2割を占めるといわれています。早期には認知機能障害、特に記憶障害は目立たないことが多く、薬剤過敏症も特徴の一つとされています。診断が難しいため誤診が多く、診断が遅れたり適切な治療が受けられなかったりすることで、悪化して苦しむ当事者や家族からの声を、私も数多く聞いています。
認知症VR体験、つながった早期発見
東京都大田区の区立図書館で館長をしていた三橋さんに、突然の幻視が現れたのは、18年11月の明け方のことでした。部屋に入ってきた飼い猫「たまちゃん」をなでようとしたら、手がすーっと猫の体のなかに入っていきます。その3週間後、今度は目覚めてボーッとしていたら、天井に縄文時代の土偶が浮かんでいました。
たまちゃんの出現にはびっくりしながらも「なぜ?」という思いでとどまっていましたが、この土偶の出現で「幻視だ!」と危機感を抱き、「もの忘れ外来」のあるクリニックをインターネットで検索し、受診しました。
三橋さんが認知症を疑うことができたのは、その1年ほど前に何度か通っていた「超高齢社会と図書館研究会」(筑波大学呑海研究室主催)で、ゴーグルをかけて身を動かすと認知症の人が見ている世界を体験できる、VR(バーチャルリアリティー)体験をしていたからです。
「そこではレビー小体型の人に見える幻視も取り上げられていました。印象に残ったその体験のおかげで『もしかしたら?』と気がついたので、機会があったらVR体験をするといいと、皆さんに勧めています」
本人に受診を説得することに苦労している家族がいる一方、認知症専門医によると、三橋さんのように「認知症ではないか」と自分で予約を取って、医療機関を受診する人も増えてきたそうです。認知症の家族を介護した経験や、地域での高齢者関係の活動で認知症について学んだことで自分から受診し、「早期発見」につなげた人も少なくありません。
認知症VR体験に加え、認知症の当事者が自ら書いた本を読むことも、認知症に対する理解を深めるきっかけになります。どんなときに「おかしいな」と感じたか、それをどう受診につなげたか、認知症に対する恐れや周囲の偏見をどう乗り越えたか、そして、どんな工夫をしながら日々の暮らしを続けているか……。図書館にはそうした本人の書いた本を中心にした「認知症コーナー」を設けるところも増えてきました。
認知症へのイメージ変えた地域の「居場所」
三橋さんは最初の幻視を見てから約4カ月という短期間に、もの忘れクリニックから紹介された大学病院で「レビー小体型認知症」と診断されました。検査入院の数日前には図書館スタッフ…
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