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本当に「事故」だったのか? Aさんのお通夜

青山さくら・児童相談支援専門職員
 
 

 児童福祉司の青山さくらさんが、児童相談所(児相)や子ども・子育て支援の日常をつづる連載「ジソウのお仕事」。今回登場するのは、ある事件の1カ月後、薬物の大量摂取で倒れているところを公園で発見された中学1年の男の子です。青山さんは「あの時、強引に一時保護すべきだった」と悔やみます。

さい銭泥棒の見張り役は12歳

 仕事で関わった子どものお通夜に、これまで3回出席したことがある。

 どのお通夜も悲しかったが、Aさんのことは、その不可解な死とともに、あの時、一時保護しておけばよかったという後悔がずっと残っている。

 もう10年くらい前のこと。Aさんは中学1年の男の子。入学したばかりの春だった。非行による要保護児童として身柄付き通告となり、数人の警察官に連れられ、児童相談所の一時保護所に来た。私はちょうど当番日だったので、一時保護所の職員と一緒に「ガラ受け(身柄を受け取ること)」に立ち会った。

 相談室でひとり座っているAさんは、風体も不良っぽくなく、態度も反抗的じゃなかった。体格もひょろっとしていて、そのまま見ればフツウの子という感じだった。色白で、表情もなくぼおっとしていて、取り囲んで立っている警察官たちから何を聞かれても返事もしない。ただじっと座っていた。

 「君はなぜここに連れてこられたのか、自分で言える?」と私がたずねたら、私の顔をじっと見つめるだけで言葉は何も発しなかった。

 傍らの警察官がいらだって「黙秘してるつもりか! こいつはずっとこんな感じなんですよ」と言った。「おまえが何をやったのか、先生にちゃんと説明しないか!」と、べつの警察官が怒鳴るように言っても、うんとうなずくだけで、しゃべらなかった。

 私は、「この子、(特定の場所で話せなくなる)場面緘黙(かんもく)なのかな」と思った。

 Aさんは、地元の不良グループのパシリ(使い走り)的な存在だった。地域で最も大きな神社のさい銭を、何人かのグループで盗もうとした。

 さい銭箱に細い針金を突っ込んで、中のお札を突き刺して引き上げるという手口だ。これまで何回も夜中に忍び込んで、さい銭泥棒を繰り返していたようだった。神社が警察に通報して、張り込みをしていた警察官が取り押さえようとしたが、他の子たちはうまく逃げてしまい、Aさんだけが捕まった。

 「この子は、見張り役をさせられていたみたいで、主犯格じゃないし、まだ12歳なので(14歳未満は触法少年として児童相談所に)身柄通告することになりました。逃げてる他の子たちは(14歳になっているので)家裁(家庭裁判所)送りかな……。では、私たちはこれで失礼します。あと、よろしく」と言って警察官たちは引き揚げていった。

 警察は、すでに詳細に少年たちのことを調べ上げているようだったが、私たちには事件の概要など「捜査中なので」と教えてもらえなかった。

誰も涙を流さないお通夜

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児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子