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兄との間に何が? 性的被害の疑い

青山さくら・児童相談支援専門職員
 
 

 児童相談所(ジソウ)で働く青山さくらさんは「きょうだい間の性的被害の事例は決して少なくない」と言います。今回、連載「ジソウのお仕事」に登場するのは、中学2年生の女子生徒です。家庭での虐待を心配する彼女の担任から青山さんは話を聞きましたが――。

「大っ嫌い、地獄に落ちろ!」

 ある中学校の校長から、若いクラス担任が悩んでいるようなので、話を聞いてもらえないか、と連絡があった。この校長とは、過去にも何度か虐待対応でやり取りした経過があり、気心が知れた間柄だったので、気安く引き受けた。

 T先生は、20代の女性で教員3年目。担任は初めてらしい。校長室でT先生から話を聞いた。中学2年生の女の子・Fさんが時々、スカートの上から股間をかくような仕草をするのが男子生徒の間で話題になり、卑わいな言葉を使って、陰でFさんをからかっているという。

 「いじめについては、学年主任と話し合って指導していくつもりですが、私は、Fさんが虐待を受けているのではないかと心配で……」

 「かくような仕草」の原因に、皮膚病や婦人科系の疾患は考えられないだろうか?

 「養護教諭がFさんから症状を聞いて、かゆみや痛みがないので皮膚病ではないだろうと。先日、三者面談でFさんのお母様に専門医の診察をお願いしました。結果、疾患はなかった、とお母様から連絡がありました」

 もしかして、自慰行為では?

 「お母様にそのことも話したんですが、『そうですか』とおっしゃるだけで、お仕事が忙しくて、娘さんにあまり関心がないようなんです」とT先生は言う。

 Fさんは、両親と高校生の兄の4人家族。父はコンサルティング会社を経営していて帰宅はいつも深夜。会社に泊まることもしょっちゅうで、「最近、パパの顔をまともに見たことがない」とFさんは語っているらしい。

 母も服飾関係の仕事で多忙で、出張も多い。「家ではほとんど兄とふたり」とT先生に話したそうだ。

 「Fさんは兄のことをしゃべるときほんとうに苦しそうで、『大っ嫌い、地獄に落ちろ!』と言って、過呼吸を起こしたこともあるんです。きょうだい間でなにかあるんじゃないか……近親相姦(そうかん)とか」とT先生は言った。

 私は、近親相姦という言葉は適切ではないとT先生に説明し、兄からの性的被害の疑いと考えて、Fさんから「困っていること」を聞き出せるよう、考えていきましょうと話した。

性的虐待件数に含まれない近親者からの性的被害

 全国の児童相談所が対応した虐待相談件数の内訳では、…

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児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子