昨年12月25日付の日本経済新聞朝刊に、「『ひとり死』5人に1人、後顧の憂いどう断つ」というコラムが掲載されていました。
生涯未婚率が増加を続けており、2050年には現在の約3倍、32万人の高齢者が1人で亡くなる計算になる、異変が起きた時どうやって外部に伝えるか、亡くなった後の葬儀や埋葬をどうするか、家や財産をどうするか等について、事前に準備することが大切というのがコラムの要旨です。
しかし、精神科医という仕事を通じて私が見聞きする孤独死の多くは、このコラムにおける「ひとり死」とは異質のものです。
親族を捜し出して亡くなったことを伝えても、「骨にしてから連絡をくれ」「もう縁は切れている」と拒絶されるような人たちにとって、葬儀も埋葬も、自分とはかかわりのないことです。亡くなった後のために生前整理を行うモチベーションなどあるはずもなく、彼ら、彼女らにとって、死は苦しい生の終わりにやっと訪れる安息のように見えることさえあります。
現代の、そしてこれからの日本で、家族にみとられない「ひとり死」は増えていきます。また、結婚しても子供のない、あるいは子供とあまり付き合いのない夫婦は、いずれどちらかが1人になるのですから、当然「ひとり死」を迎えることになります。
おのおのが、生き方、死に方をコントロールすることは、自分の死後、周囲の人に迷惑をかけないという意味では重要なことです。問題は、苦難に満ちた生活の果てに人知れず死んでいく高齢者です。
ここでは、上記コラムの言う「ひとり死」と区別して、「孤独死」と呼ぶことにします。孤独死は、高齢者の貧困と密接に結びついているのです。
結婚したくてもできない未婚男性
22年における65歳以上の高齢者世帯構成を見ると、単身世帯31.8%、夫婦のみ世帯32.1%、親と未婚の子世帯20.1%、3世代世帯7.1%、その他の世帯9.0%となっています。私が大学を卒業した1980年には、単身世帯は10.7%、3世代世帯は50.1%でしたから、40年の間に日本の高齢者のあり方は大きく変わったことになります。
単身世帯の性別にも大きな変化が見られます。80年には男性19万3000人、女性68万8000人だった単身高齢者は、2022年にはそれぞれ257万7000人、479万3000人。女性の増加が7.0倍であるのに対して男性の増加は13.4倍になります。
この原因は生涯を未婚で過ごす人の増加です。50歳時の性別未婚割合を見ると、1960年ごろまでは5%未満でしたが、その後徐々に増加し、90年以降、急上昇します。特に男性の未婚率上昇が激しく、2020年には、男性の28.3%、女性の17.8%が未婚です。
男性の未婚率上昇は、非常勤労働者の増加と軌を一にしています。結婚という一生の重大事を決めるとき、バブル期までの年功賃金、終身雇用の方が計画を立てやすいことは明白です。男性未婚者の中には、結婚しないのではなく、安定した仕事やそれに伴う収入がないために結婚できない人がたくさんいるのです。
高齢者被保護世帯の9割以上が単身世帯
日本の高齢者の経済状況を平均値で見ると、決して貧困というわけではありません。
平均所得は、全世帯から高齢者世帯と母子家庭を除くその他の世帯のおよそ50%ですが、ローンや教育費関連の支出がないことを考えると、その他の世帯より貧しいとは言えないのです。
2人以上の高齢者世帯の貯蓄現在高は、一般世帯の1.4倍、上位20%の平均貯蓄残高は7000万円を超えています。わが国の金融資産の60%以上を世帯主が60歳以上の世帯が保有しており、世帯主が70歳以上の高齢者の持ち家率は93.2%です。そもそも、68.5%の高齢者が経済的な暮らし向きに心配はないと答えているのです。
一方、2021年の65歳以上生活保護受給者数は105万人、受給率は2.91%。全体の受給者が202万人、受給率1.62%で…
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