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包丁を向ける--それは“単なる”夫婦げんかなのか?

青山さくら・児童相談支援専門職員
 
 

 児童相談所(児相)で児童福祉司として働く青山さくらさんは、ある日、子どもが親から「心理的虐待」を受けた疑いがあるとの虐待通告を警察から受け、家庭調査を行うことになりました。児相には、子ども本人や保護者・親族から寄せられる相談が多いと一般的には思われがちですが、実際は、警察からの「相談・通告」が半数以上にのぼるといいます。

土日に多い「面前DV通告」

 日曜日の夕食どきのこと。父と母が口論となり、父が母の椅子をけったので、転倒してテーブルに頭をぶつけた母が興奮して、台所から包丁を持ち出し父に向けた。

 驚いた父が110番して警察官が臨場した。警察は、姉(小学3年生)と弟(小学1年生)に夫婦げんかを見せて心を傷つけた「心理的虐待」として、児相に通告。児相はすぐに受理して家庭調査を行うことになった。

 このような警察からの虐待通告が年々増えている。

 全国の児相が1年間に受理した虐待相談件数は約22万件(2022年度)。その6割を心理的虐待が占め、なかでも110番通報により警察が介入した、「(子どもの)面前でのDV(ドメスティックバイオレンス)による心理的虐待」のケースが目立って増加している。

 「面前DV通告」は、家族が一緒に過ごす時間が長い土日に多い。月曜朝、出勤すると警察が対応した通告ケースの書類が積みあがっていることがある。世間には、こんなに夫婦げんかが多いのか、と驚いてしまう。

 児童相談所というと、子ども本人や保護者・親族から寄せられる相談が多いのだろうと一般的には思われがちだが、実際は、警察からの「相談・通告」が半数以上にのぼる。「警察相談所になっている」と自嘲気味に言う職員もいるくらいだ。

 児相は、こうした警察からの相談や通告にどう対応しているのか――。

 まず、父母に連絡して、子どもと一緒に児相に来てもらうか、家庭訪問するなどして、子どもの様子を確認したり、夫婦げんかになった事情を聴いたりする。しかし、児相からの連絡や通知に全く応じなかったり、「警察に相談したのに、なぜ児相が来るんだ!」と怒鳴られたり、「もう仲直りしましたから」と面接を拒否されたりすることも多い。

「包丁のことはどうなったんですか?」

 冒頭のケースでは、父母がふたりの子どもを連れて児相に来てくれた(こんなことはまれだ)。

 父と母は別々に面接したい。DV加害親による精神的支配が、被害親の発言を封じ込めてしまう可能性があるからだ。しかし、母は…

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児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子