厚生労働省は、3年に1回、医療機関を受療(入院・外来)した患者さんの実態を把握するために「患者調査」を実施しています。
2002年と17年のデータを比較すると、精神科の受療患者は258.4万人から419.3万人に増加。15年でおよそ1.6倍になりました。そのうち、外来患者数は223.9万人から389.1万人に増え、入院患者数は34.5万人から30.2万人に減っています。
入院患者数を疾患別に見ると、統合失調症(統合失調症型障害および妄想性障害を含む)が4.9万人減です。その他の疾患については大きな増減はないため、入院患者の減少は統合失調症患者の減少だけで説明できます。
外来患者の増加人数で最もインパクトの大きいのは、気分障害の56.1万人で、これに認知症の47.3万人、神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害の33.4万人が続きます。統合失調症は10.8万人の増加です。
今回は、これらの数字が意味するところを考えてみようと思います。
患者調査を読み解く
患者調査が公表しているのは、医療機関に受療している人の数です。特定の集団を対象にさまざまな病気の頻度や分布を調べる「疫学調査」の結果とは当然異なります。
例えば、認知症の患者数は、疫学調査の結果から現在500万~600万人と推定されます。一方、17年の患者調査の結果では、認知症患者の入院・外来の合計が70.4万人ですから、認知症患者の10%強だけが、定期的な外来診療や入院診療を受けているということになります。
患者調査における02年と17年の認知症患者数を比較すると、入院・外来の合計で3.1倍増加していますが、この15年における65歳以上の高齢人口の増加は1.4倍。17年の方が有病率は上がっているという条件を勘案しても、医療機関を受療する高齢者数の増加率の方が高いと言えるでしょう。
これは、認知症の診断を受けに外来通院する高齢者の割合が増えたことを意味します。00年に導入された介護保険のサービスを受けるためには医療機関での診断が必要なので、受診のインセンティブが高くなったせいでしょう。
つまり、認知症という疾患については、精神医学的ニーズは限られていて、10人に1人ぐらいしか医療にかからないが、その中には福祉サービスを利用するための社会的ニーズも含まれているということになります。
同じ視点から統合失調症の患者数を見てみましょう。
統合失調症の有病率は国や人種に関係なく、人口1000人に対して7人、およそ0.7%程度と考えられています。02年、17年の外来患者と入院患者をそれぞれで合計するとどちらもおよそ70万人程度で、これは人口のおよそ0.7%になります。
そうすると、日本では、統合失調症の患者さんの大部分は医療を受けていると考えられます。つまり、疫学的に推測される患者数と、実際に医療機関にかかっている患者数がほぼ同じです。これは、認知症とは違って、統合失調症という病気が医療を必要とする病気だからです。
私が医師になったばかりの1980年代には、時々、「未治療の精神分裂病(当時はこういう病名でした)」とカルテに記載された患者さんがいました。精神医療に対する偏見が今よりずっと強く、精神疾患の息子や娘を家族が囲い込むという風習が残っていて、医療機関へのアクセスが遅れるというケースがあったのです。
統合失調症は適切な薬物療法を行えば社会的機能を維持できるのですが、未治療で長年放置されると荒廃状態に陥ります。そのため、精神分裂病という病名が一般的になる前は、「早発性痴呆」と呼ばれていました。
統合失調症については、日本では60~70年ごろに「病気」として医療に結び付けるべき状態と認識されるようになり、抗精神病薬の進歩、精神医療に対する偏見の緩和、さらには世帯規模の縮小によって家族で抱え込むことが難しくなったという社会的要因も相まって、発症すれば医療にかかるというようになったのだと考えられます。
気分障害増加の背景にあるもの
さて、外来患者が激増している気分障害はどうでしょうか。
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