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「指示通りインスリン打ったのに……。低血糖は医師のせいだ!」 怒りをあらわにした患者と家族が見落としていた意外な事実

金子至寿佳・日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長

 ある時、買い物の出先で低血糖発作を起こし、意識もうろうとなったかかりつけの女性患者が救急車で運ばれてきました。途中でブドウ糖を補充し、病院に到着するころには意識も回復。しかし、患者は対応した看護師に対し、「先生に指示されたインスリンの量が多かったから低血糖になったんだ!」と文句ばかり言ってきます。患者の娘さんも「医師から説明をしてください!」とすごい剣幕。これまで問題なかったのに、この患者はどうして低血糖の状態に陥ってしまったのでしょうか。

カルテには……

 「先生(医師)の言う通りのインスリンの量を打っていた。それなのに低血糖になって死ぬほどつらい思いをしたのだから、指示した量が多かったはずだ」。患者はこう主張します。

 そこで、改めて患者のカルテ(診療記録)を確認すると、説明した量は患者が投与した量より少なかったのです。

 患者が自宅でつけていた血糖値の記録ノートを確認すると、ある日を境に急にインスリンの投与量が増えていることに気がつきました。それまできちんとできていたのに、どうして増やしたのでしょう? さっぱり分かりません。

 「低血糖を起こす前日まで私が説明したインスリンの量をノートに記録されていますが、(低血糖を起こした日に)増やしたのはなぜですか」

 こう尋ねると、患者ははっと気がついたようでした。どうやら、今は使っていないはずの、手元に残っていた別のインスリンを使い、多めに打ってしまったようです。引っ込みがつかなくなったのでしょう。その後も、患者は文句を言い続けていました……。

認知機能に陰りが

 この患者は80代と高齢だったこともあり、血糖値を低くしすぎては危険であると繰り返し説明してきたのですが、なかなか理解していただけませんでした。また、診察室を出た途端、私が説明したことを忘れてしまうこともしばしばあったため、家族とともに診察していただくようにしていました。それからまもなく、今回の問題が起きてしまったわけです。

 経緯を説明すると、娘さんは患者と一緒に診察したことを思い出し、こう言いました。

 「母はまだ(…

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日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長

かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。