「ギャング集団」がんの正体を暴く フォロー

「体内警察」には賄賂ですり抜け、「資金集め」で組織拡大…がんがギャングに似ているこれだけの理由

大須賀覚・がん研究者/アラバマ大学バーミングハム校助教授
 
 

 日本では2人に1人ががんにかかり、3人に1人はがんで亡くなるといわれます。がんはとても身近な病気です。

 一方で、がんは非常に複雑な病気でもあるので、現実にはきちんと理解されている方は多くなく、むしろ不正確な情報に振り回され、実態を誤解している人も少なくないでしょう。

 私自身、がんの正体と治療法に迫るべく研究を続けてきましたが、その複雑さゆえ、いまだ全てをつかめていません。ただ、身近な病気だけに、少しでも理解を進めることがとても大切だと考えています。そこで装い新たに連載を立ち上げることにしました。

 名付けて「ギャング集団 がんの正体を暴く」。がんというものは考えれば考えるほど、あのギャングに似ているのです。

信じがたいほどの複雑さ

 がんとはどんな病気でしょうか。

 悪性腫瘍ができる、早期発見で治るなど何となく知っていて、それなりにイメージを持っている方がほとんどだと思います。

 非常に大まかに言うと、がんはこんな病気です。

 正常な体の中に突然、がん細胞が発生して、どんどん増殖する。そのがん細胞が周囲に広がって、やがて全身に転移してしまう。治療としては手術で取り除いたり、放射線や化学療法を用いて殺したりするが、倒しきれない細胞が残っていると患者さんの命を奪ってしまう――。

 しかし実際は、そんなにシンプルなものではありません。

 かつて私は脳神経外科医として、脳にできるがん(悪性脳腫瘍)の患者さんの治療にあたってきました。大変に難しい病気で、治療の限界を感じたため米国に渡り、現在はがん研究者として、悪性脳腫瘍を治療する新薬の開発をしています。がんとはどんな病気で、どう治せばよいのかを20年近く考え続けてきました。そこで分かったのは、がんという病気の信じがたいほどの複雑さでした。

ダイナミックに変身する

 正常な体に突如として現れたがん細胞が1種類で、それが単純に増えた結果、大きな塊の腫瘍となる――。

 もし、そのようなシンプルな話であれば、がん治療は簡単なもので済みます。しかし、そうは問屋が卸しません。実際のがんはもっともっと複雑にできているため、簡単には治療ができないのです。

 がんは、何百という異なる特徴を持つがん細胞が複雑に集まってできています。さらに、その不均一な塊はとてもダイナミックに変化していきます。

 たとえば放射線や化学療法などで攻撃されると、がん細胞の大部分は殺されますが、一方で殺されまいとするがん細胞も存在していて、生き残ります。

 また、その細胞は生き残るだけでなく、ダイナミックに性質を変化させることがあるのです。まるで変身するように以前とは異なる性質の細胞に変化し、急に転移するなどして予測がつきません。

悪賢く、隠れて逃げて増殖する

 このようにがんという病気はとても複雑なので、医学の専門知識がない人にとっては正確に理解することが大変難しいものです。

 しかし、がんをあるものにたとえると、比較的すんなりと全体像をとらえることができます。それがギャングです。

 私自身、がんの勉強をすればするほど、がんがギャングに似ているという思いを強くしてきました。

 映画や小説にあるギャングをイメージしてみてください。

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がん研究者/アラバマ大学バーミングハム校助教授

筑波大学医学専門学群卒。卒業後は脳神経外科医として、主に悪性脳腫瘍の治療に従事。患者と向き合う日々の中で、現行治療の限界に直面し、患者を救える新薬開発をしたいとがん研究者に転向。現在は米国で研究を続ける。近年、日本で不正確ながん情報が広がっている現状を危惧して、がんを正しく理解してもらおうと、情報発信活動も積極的に行っている。著書に「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社、勝俣範之氏・津川友介氏と共著)。Twitterアカウントは @SatoruO (フォロワー4万5千人)。