高血圧の薬を処方しても、血圧がなかなか下がらないことがあります。こうした時、「効果がない」としてすぐにお薬を増やそうとするお医者さんが多いと思います。
しかし同じ薬でも、飲むタイミングによってまったく効果がなかったり、大きな効果が得られたりすることがあります。一人一人に合った服薬のタイミングを見極めることができれば、薬を増やさずに血圧をコントロールできるかもしれません。
時間を変えれば効果が変わる
薬を飲むタイミングによって、その効果が変わってくるのはどうしてなのでしょうか。
生き物には約24時間周期のリズム(サーカディアンリズム)があります。サーカディアンリズムを提唱したのは、ミネソタ大時間生物学研究所のフランツ・ハルバーグ教授(1919-2013)で、私の恩師でもあります。ハルバーグ先生は、1時間ごとにラットの血液を調べて白血球を数え、その数がおよそ24時間ごとに変動することを見いだしました。
血圧や心拍数も24時間周期のリズムがあります。サーカディアンリズムに合わせて、必要な時に必要な治療ができれば、効果をより大きく、副作用は小さくすることができると期待できます。これは「時間療法」と呼ばれる手法です。私は、患者さんが薬を飲んでも血圧が十分に下がらないとき、飲んでいる薬に別のお薬を追加するか、時間療法を試すかを選んでもらうようにしています。
私が薬を飲むタイミングの重要性に気が付いたのは、35年ほど前のことです。高血圧の50代の男性患者さんに、1日1回服用の降圧剤を処方し、効果が出ているかどうか確認するため24時間血圧計を2日間着けてもらいました。
当初、朝食後に薬を服用してもらいましたが、昼の時間帯の血圧は下がるものの、夕方から夜にかけては上の血圧(収縮期血圧)が140mmHgを超えてしまいました。
そこで「薬を増やしましょうか」と提案したのですが、患者さんは「ええっ!」と言って嫌がられ、やむなく服薬時刻を変えてみることにしました。
朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の4通りの服薬時刻を2日間ずつ試してもらい、24時間血圧計を着けて効果を評価しました。すると、降圧効果が一番高かったのは就寝前に服薬したときで、上の血圧が140mmHgを超えることはほとんどありませんでした。
薬の量は変えていません。服薬時刻を変えることで薬の効果が大きく変わることに、私自身驚きました。
ハルバーグ先生に励まされて
私はその後、サーカディアンリズムの提唱者であるハルバーグ先生に、東京でお会いする機会がありました。ちょうど、24時間血圧計を腕に着け始めて2年が過ぎたころでした。私がハルバーグ先生に「24時間血圧計を2年着け続けている」とお話しすると、先生は「2年間! ビューティフル!」と驚いた様子でした。そして「研究を続けなさい」と私を励ましてくださいました。
当時、診療時も外さずに腕に24時間血圧計を着けていた私は、周囲の医師から「クレージーだ」と陰口をたたかれていました。ハルバーグ先生の「ビューティフル!」という言葉は、私のそれまでの鬱積した気持ちを吹き飛ばしました。
私は翌年、ハルバーグ先生を尋ねてアメリカを訪れました。驚いたことに、ハルバーグ先生をはじめスタッフ全員が腕に24時間血圧計を着けていました。先生も私から刺激を受けていたようです。
ハルバーグ先生は、がんの時間療法も研究されていました。口腔(こうくう)周囲腫瘍の温度を4時間ごとに24時間測定し、腫瘍温度が最高値の時刻に放射線治療をした場合が最も効果が高いことを明らかにしました。温度がピーク時に治療した場合は腫瘍の大きさが元の3割以下にまで小さくなったのに対し、ピークから8時間後の治療では6~7割程度にとどまりました。最適なタイミングで治療するのとそうでない時では、効果に大きな違いがあるのです。
最適なタイミングは人それぞれ
一方で、高血圧の時間療法で難しいのは、服薬に最適なタ…
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日本歯科大客員教授/高血圧専門医
1952年千葉県生まれ。78年聖マリアンナ医科大学医学部卒業、84年同大学院博士課程修了。医学博士。米国・ミネソタ大学時間生物学研究所客員助教授、東京女子医大教授、早稲田大客員教授などを経て、現在、日本歯科大客員教授。高血圧専門医。循環器専門医。87年8月より携帯型自動血圧計を装着し、30分おきに血圧を測定し続けており「ミスター血圧」とも呼ばれている。「血圧が下がる人は「これ」だけやっている-高血圧治療の名医がすすめる正しい降圧法-」(アスコム)、「ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳」(同)、「科学的に血圧を下げる方法」(エクスナレッジ)、「自分で血圧を下げる!究極の降圧ワザ50-血圧の常識のウソ・ホント-」(洋泉社)など著書多数。





