最期まで私らしく~知っておきたい 在宅の医療・ケア~ フォロー
「する/される」関係を変える介護民俗学~「聞き書き」を通じて生きることを応援
中澤まゆみ・ノンフィクションライター- 保存保存
- 文字
- 印刷
人生の終盤、多くの人が関わる可能性があるのが介護です。最初は親の介護、次は配偶者、そして自分自身……。介護をめぐる状況は一人ひとり違いますが、自身の体験も含めて数多くの例を見る中で感じてきたことがあります。それは、本人の人生はずっと続いているのに、介護を受けるようになると、そこだけが切り取られ、それまでの人生が、家庭でも施設でも断ち切られてしまうことです。
家庭を含めた介護の現場では、家族や介護職員は「介護する(助ける)側」、本人は「介護される(助けられる)側」という関係性になりがちです。その結果、「介護される側」と位置付けられた本人は自信を喪失し、「自分は役に立たない」とか「お荷物だから、もう死んでしまいたい」とか、あるいは「何も語りたくない」といった生きづらさを抱え、ときには暴力的になりながら、残りの人生を過ごすことも少なくありません。
「聞き書き」という民俗学のアプローチで、こうした介護現場の「する/される」の構造を変えようとしてきた六車由実さん(静岡県沼津市・デイサービスすまいるほーむ管理者・生活相談員)に、「生きることを応援する介護」について聞きました。
「民俗学の宝庫」だった介護の現場
大学で民俗学を教えてきた六車さんが、体調を崩して退職し、それまでまったく関わりのなかった介護の世界に飛び込んだのは2009年、39歳の時でした。最初はデイサービス、次は特別養護老人ホームの職員。仕事の合間にメモを取りながら聞き書きを始めると、高齢者施設は「民俗学の宝庫」だということに気がついたといいます。
「高齢者介護の現場は、身体能力も記憶力も衰えた老人たちが集まっている場所、というイメージがあります。介護の仕事をする以前の私も同様で、介護現場で聞き書きができるとは想像できませんでした。でも、実際には認知症のある方でも、若い時の記憶はかなり鮮明なことも多く、表現力も豊かです。しかも、施設の利用者の年齢には幅があるし、生まれ育った場所も広範囲。これまで民俗学では対象とされてこなかった人たちと出会える場所なのだと思いました」
民俗学のフィールドワークでの「聞き書き」と、施設での認知症の人たちの語りを結びつけた六車さんの「驚きの介護民俗学」(2012年出版)は、「介護される高齢者」の姿を新たな視点でとらえる試みとして、大きな反響を呼びました。私もこの本を通して介護での「する/される」という関係のいびつさをあらためて感じ、「ケアとは何だろう」と考えるきっかけをもらったひとりです。
「回想法」とは似て非なる「聞き書き」
六車さんが管理者と相談員をつとめるデイサービス「すまいるほーむ」の、活動の基盤になっているのが利用者への「聞き書き」です。本人から話が出そうな雰囲気になると、ときには周囲の利用者も巻き込んで、話やつぶやきを聞くことが始まります。メモをするのは紙やスマートフォン。そこから、かるたやすごろくづくり、利用者による劇、思い出の味の再現といった活動にもつながっています。
介護や福祉の世界では、これまでも「回想法」や「傾聴」を通じて高齢者の話を聞くことが行われてきました。とくに「回想法」は思い出を聞くことで本人に変化が起こり、言葉の数が増えたり、表情が豊かになったり、集中力が出てきたりといった、心身の状態を改善する療法として知られています。そうした方法と「聞き書き」はどう違うのでしょうか。
「『回想法』の目的は、利用者さんの側の変化を通じて支援することです。介護の場面では利用者は常に『される(助けられる)』側に置かれていて、回想法でも…
この記事は有料記事です。
残り3339文字(全文4827文字)




