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糖質疲労のその先は、糖尿病、心臓病、がん…… 病の連鎖「メタボリック・ドミノ」の恐怖 予防策は肉とチーズたっぷりのハンバーガー?!

山田悟・北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長
 
 

 昼食後にうとうとしたり、なんとなく体がだるかったり。糖質の摂取過多で生じる「糖質疲労」が“万病のもと”であることをご存じですか?

 糖尿病▽心臓病▽がん▽認知症▽脳卒中▽下肢切断――。放っておくと高血糖に体をむしばまれ、ドミノが倒れるかのように大病が襲いかかってくる悪循環を招き、最悪の場合、命を落としかねません。

 糖質疲労の先に広がる負の連鎖の恐ろしさについて、糖尿病専門医の山田悟医師に伺いました。また、山田医師は糖質疲労を防ぎ、その悪循環を断ち切る手助けとなる食べ方も伝授してくれました。

 まさかの、ハンバーガーです。【聞き手・倉岡一樹】

「メタボリック・ドミノ」

 糖質を過剰に摂取すると、食後高血糖と血糖値スパイク、つまり「糖質疲労」が起きます。その先には、多様な病が待ち構えており、負の連鎖のように生じます。これを「メタボリック・ドミノ」と呼んでいます。私の母校、慶応義塾大学医学部の伊藤裕名誉教授が提唱した概念が基になっています。

 このメタボリック・ドミノが倒れるとどのようなことが起きるのかを詳しく解説しましょう。まずは下の図をご覧ください。

①肥満や高血圧、高脂血症、そして脂肪肝などから心臓病や認知症を患う人。

②糖尿病から失明や人工透析、がんなどにたどり着く人。

 二つのラインに分かれています。左のラインは血糖異常の流れ、右のラインはそれ以外の流れとしています。基本的には、どちらかのライン片方だけ倒れるということではありません。右のラインを進んだ人が糖尿病を発症しないとは限らないのです。

 どちらのラインから先に倒れるかはその人の体質や遺伝子が関係します。親族に心臓病の人がいる場合は心臓病の方に倒れやすいですし、糖尿病の場合は血糖異常に倒れやすいです。ただ、最終的には両方のラインとも倒れる可能性が高いです。倒れるドミノの方向性によってスピードに差が出てきます。

 起点は「糖質過剰摂取」ですが、これは伊藤先生がお作りになったオリジナルの概念とは異なり、私が手を加えました。もともとは「エネルギーの過剰摂取」で、それが内臓脂肪の蓄積(肥満)を引き起こし、その後血糖と血圧、脂質の異常につながるとの考え方です。しかし、肥満を合併している糖尿病患者が肥満を是正しても、血糖値が良くならないケースは多数あります。

全ての起点は、糖質摂取過多

 「ルック・アヘッド」という研究があります。糖尿病になって日の浅い人たちが肥満を是正すると、長期にわたる血糖コントロールの状態を知ることができる「ヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)」が改善しました。しかし、その後リバウンドしたため、5年ほど後に減量してもらうとHbA1cが上がり続けたのです(注1)。つまり、肥満を是正することで合併している糖尿病がよくなるのは発症後数年のうちだけで、そこから先は悪くなってしまいます。それゆえ、エネルギーの過剰摂取による肥満が起点ではないと分かりました。

 それでは、何が起点になるのか。2018年、栄養疫学研究者であるハーバード大学のデビッド・ルードヴィヒ教授らが医学誌「JAMA・インターナル・メディスン」に提唱した「カーボハイドレート・インスリン・モデル」という概念がその謎を解きました(注2)。

 食後高血糖を是正するために、遅延過剰型のインスリン分泌(インスリン分泌が遅く、その後出続けてしまう)が起きます。それ自体も肥満を生むのですが、遅延したインスリン分泌で急激な血糖降下が起こる際、インスリンは血管の中のブドウ糖を細胞に取り込み、体脂肪の分解を抑制して脂肪が血液に流れ出るのを止め、肝臓からの糖新生にもブレーキをかけます。そのため、血液の中の栄養がどんどんなくなって、脳が「このままでは低血糖になる」と感知して食欲が上がり、食べてしまって肥満になるというものです。

 肥満の人が増え続けている背景にエネルギーの過剰摂取ももちろんあるのですが、その上流に糖質の過剰摂取があり、食後高血糖から食後「高インスリン血症」へ続くとの考え方です。私はそれをメタボリック・ドミノの概念に加えたいと考え、伊藤教授に「オリジナルの図を変えてよいですか?」とご相談し、「『山田バージョン』ということでいいよ」と了解をいただいて改変したというわけです。

メタボは「太った人の病気」……ではなかった

 それでは、まず右のラインを見ていきましょう。「高脂血症」「高血圧」「肥満」「脂肪肝」とあります。これが「メタボリック・シンドローム」とも言えるでしょう。いわゆる「メタボ」で、日本でも相当数の人が悩まされています。血圧異常者は4000万人、血糖異常者は2000万人、そして脂質異常者は1000万人とされます。これを太った人の病気だと思い込んではいませんか?

 それは、全くの誤解です。

 メタボの診断基準は、腹囲▽血圧▽脂質▽血糖値――の4項目がありますが、内臓脂肪の蓄積を必須項目としているのは、日本だけです。世界では、太っていなくとも4項目のいくつかが当てはまっているだけでメタボと診断されます。

 腹囲は、内臓脂肪と皮下脂肪の持っている意味合いが違うことを考慮に入れる必要があります。内臓脂肪は代謝上の影響が大きく、体重の増減時はまず内臓脂肪の量が変動するとされます。一方の皮下脂肪は保温やクッションの役割を担っています。女性は男性より皮下脂肪が厚いです。外見上から、内臓脂肪の肥満は「リンゴ型」、皮下脂肪の肥満は「洋なし型」ともいわれます。

 このうち、メタボの危険度が増すのはリ…

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北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長

1970年生まれ。94年慶応義塾大医学部卒業。同大内科学教室腎臓内分泌代謝研究室などを経て2002年に北里研究所病院へ転じ、07年から糖尿病センター長、24年から同院院長補佐を務める。我慢ばかりを強いるカロリー制限中心の食事療法で、向き合う糖尿病患者の生活の質が低下している現実と直面した。そんな中、食事をおいしく、おなかいっぱい楽しみながら血糖値を穏やかに保ち、肥満者の減量効果にも優れる、緩やかな糖質制限食と出合う。治療に積極的に取り入れるとともに、「ロカボ」と名付けて普及に努め、2013年に「食・楽・健康協会」を設立した。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日本糖尿病学会指導医など。主な著書に「カロリー制限の大罪」「糖質制限の真実」「奇跡の美食レストラン」など。慶応義塾大医学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、星薬科大学非常勤講師。