一向に減らない詐欺被害。国内外の集団からさまざまな手口で狙われ、ターゲットになりやすい高齢者に対しては、警察などから盛んに注意喚起も行われています。しかし、立正大学心理学部教授の西田公昭さんは「詐欺に注意したところで被害は防げない」と強調します。その理由は、脳が持っているある仕組みに潜んでいるそう――。だまされる前に知っておきたい、心理メカニズムを利用した詐欺師のテクニックとは。
頭がしっかりしているからこそだまされる?
――高齢者を狙う詐欺事件が後を絶ちません。
「被害に遭うのは判断力の衰えたお年寄りだけ。自分は大丈夫」と思いがちですが、そんなことはありません。
むしろ頭がしっかりしているからこそだまされる、ともいえます。息子や孫と名乗る相手の話を聞いて苦しい状況を理解し、銀行に駆けつけて行員が止めるのを振り切り、指示された金額を引き出して――といった対応は認知症が進んだ人にはまず難しいでしょう。
――警察庁の統計を見ると、特殊詐欺の被害者の約8割は65歳以上の高齢者が占めています。(注)
被害者に高齢者が多いのはあたりまえです。特殊詐欺には、いわゆるオレオレ詐欺以外に架空請求や還付金詐欺、キャッシュカードや通帳などをだまし取る詐欺も含まれますが、どれも高齢者をターゲットに仕組まれた詐欺ばかりですから。そもそも「特殊詐欺」という名称自体、統計側の都合で作られた用語に過ぎません。「なりすましニセ電話」などとすればもっとわかりやすいでしょう。
それに、詐欺師が用いるテクニックは、分解すると、ごく一般的で合法的なセールスに使われるものと同じ。日ごろ私たちが接する宣伝文句や営業トークなどと基本的な心理テクニックは変わりません。さまざまなテクニックを巧みに組み合わせ、相手に配慮なく悪用している点が違うだけです。
例えば、相手から好意を受けるとついお返しをしたくなる「返報性の原理」という心理メカニズムがあります。親切にしてもらったからと、ついセールストークに耳を傾けてしまい、欲しくもない商品を買ってしまった――といった経験はないでしょうか。詐欺集団もまったく同じ手口を使っています。
脳はせかされることに弱い
――「あなたのためだから」などと言われると、断るのが申し訳ないような気持ちになります。注意しなければなりませんね。
詐欺に注意しましょう、とか警戒しましょう、といったスローガンは効果がありません。「はい、気をつけます」と連呼したところで防げるわけがない。第一、脳が疲れてしまいますよ。
――脳が疲れるのですか?
脳が消費で…
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