新型コロナウイルス感染症や平均気温の高まりなどの影響もあるのか、一年中流行するようになったRSウイルス感染症。秋から冬にかけてはさらなる流行が懸念され、子どものみならず高齢の方も注意が必要です。今年は複数の予防注射が発売され、RSウイルス対策をめぐる議論も活発になっています。それぞれの対象者や効能を整理して解説します。
早産児を守る王道の「シナジス」
RSウイルスとは風邪の原因となるウイルスの一種で、2歳までにほぼ全員が感染するとされています。接触感染や飛沫(ひまつ)感染などによって発症すると、咳(せき)がひどくなったり、「ゼイゼイ」したりするのが特徴的です。乳幼児や高齢者では重症化しやすくなるため、予防注射が活用されてきました。
RS対策の注射として、最も古いのがパリビズマブ(商品名・シナジス)です。日本でも2002年から20年以上にわたり使用されてきました。
保険適用(つまり無料)で接種できるお子さんは限られており、35週以下で生まれた早産児や、心臓疾患や免疫不全などの重い病気がある場合、また21トリソミー(ダウン症候群)の場合などが対象になります。RSウイルスの流行が予測される毎年9月から翌年3月ごろに毎月1回、筋肉注射をします。
正確に言うと、シナジスは「ワクチン」ではありません。ワクチンというのは、たとえばインフルエンザワクチン(不活化ワクチン)やロタウイルスワクチン(生ワクチン)などのように、免疫をつけたいウイルスを不活化したり弱毒化したりしたものを指すからです。
よってシナジスにはRSウイルスが含まれていません。その代わりに「モノクローナル抗体」といって、RSウイルスが体に入ってきた場合にRSウイルスにくっつく抗体が含まれています。この抗体のおかげで、RSウイルスに万が一感染しても発症しなくて済んだり、発症しても重症化を防げたりします。
今年3月からは接種対象が、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患などのお子さんにも広がりました。今後もさらに広がる可能性はありますが、現時点では「幅広く、健康なお子さんにも打てるワクチン」ではありません。
「ベイフォータス」は1回だけの接種で効果あり
一方で今年、特に既往歴のない健康なお子さんにも接種可能な注射が登場しました。日本では3月に承認され、5月から販売されているニルセビマブ(商品名・ベイフォータス)です。
こちらもシナジスと同じくモノクローナル抗体を筋肉注射するもので、ワクチンではありません。シナジスと違うのは、1流行シーズンあたり1回のみの接種で十分な効果が得られることです。
ただしヒブワクチンなどのように定期接種ではないので、無料で接種を受けることはできません。保険適用外で、各医療機関が定めた料金を支払う必要があります。加えて日本ではまだ新しいワクチンのため、在庫が十分に確保できなかったり、流通が不安定であったりする可能性があります。
また、ベイフォータスとシナジスを併用することについては、検証が不十分であることから推奨されていません。つまり、ベイフォータスかシナジスか、どちらかのみを受けることができるのです。
初のRSワクチン「アブリスボ」は妊婦さんに接種
ベイフォータスと同様、5月から販売されているものに組み換えRSウイルスワクチンのアブリスボがあります。前述の通り、シナジスとベイフォータスがいずれもワクチンではないモノクローナル抗体であるのに対し、アブリスボはRS対策としては初のワクチンになります。
また接種対象が乳幼児ではなく、妊婦さんになることも大きな違いです。妊娠24~36週の方を対象に1回、筋肉注射をします。
「どうして妊婦さんに打つのだろう?」と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。メカニズムを説明すると、まず妊婦さんに接種することで、妊婦さんの体の中に抗体が作られます。それによって、妊婦さんがRSウイルスから守られることに。さらに妊婦さんの胎盤を通じて赤ちゃんにも抗体が移行するので、生まれてすぐの赤ちゃんでもRSウイルスから守ることができます。妊婦にRSワクチンを打って抗体を作ることで、妊婦さんだけでなく、赤ちゃんも守ることができるのです。
また、このワクチンは60歳以上の方にも接種が可能です。…
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