闇バイトのわなに陥る、ごく普通の若者。昭和世代からすると、「どうしてこんなコが」と首をかしげたくなるような人物が捕まったりしている。若者たちはなぜ闇バイト事件に加担してしまうのだろう? 戦後犯罪史をたどると、現代の若者ならではのある問題点が浮かび上がってきた――。普通の人が犯罪に手を染める心理メカニズムとは。犯罪心理学に詳しい奈良女子大学研究院生活環境科学系臨床心理学領域教授、岡本英生さんに話を聞いた。
昭和の不良は群れで行動していた
「『少年犯罪は年々凶悪化している』と思われがちですが、実は誤解。20歳未満の刑法犯検挙人員数は2022年に微増に転じましたが、04~21年はずっと減り続けていました。しかし、過去には若者の犯罪が激増し、社会を脅かした時期もあったのです ※1」
こう語るのは、奈良女子大学教授の岡本英生さんだ。
20歳未満の検挙人員数の推移を詳しく見ると、三つのピークがあることがわかる。一つめのピークは1951年の約17万人。戦後の混乱期は生活困窮者があふれ、既存の道徳、秩序も崩壊。繁華街をうろつくグループ、愚連隊の若者たちが犯罪行為に走った。
二つめは、経済成長期ただ中の64年である。享楽的な風潮が高まり、風俗環境が悪化した。検挙人員数およそ24万人。「当時は性犯罪や殺人、傷害・暴行・脅迫・恐喝といった凶悪・粗暴犯が多かった」と岡本さん。
不良たちのたまり場となっていたのは街の深夜喫茶などだ。この時期には、愚連隊のかわりに新たな暴力集団、暴力団が形成されていた。
そして訪れたのが83年の第3のピークだ。検挙人員数は約32万人と戦後最大の規模に達している。岡本さんは「第2のピークと違うのは、窃盗や万引きなど軽犯罪が多いこと。『友達に誘われたから』『スリルを味わいたくて』といった軽い動機で犯行に及ぶ人が多いことから『遊び型非行』と呼ばれました」と話す。
暴走族に所属し、仲間と犯罪を繰り返しては憂さ晴らしする若者も多かった。この頃、暴走族は最盛期を迎え、警察庁の80年11月の調査では、全国754グループ、約4万人の暴走族人員数が確認されている。
グループ行動が苦手でもできる闇バイト
「暴力団や暴走族には階級別の序列が存在し、集団内の秩序を保つための厳しいおきて、不文律がありました。上下関係やグループ行動を好まない今どきの若者には違和感が大きいのでは。仮に仲間に入れと勧誘されたところで戸惑うだけでしょう。だからこそ闇バイトに加担してしまう10代、20代もいるのだと思います」
23年7月、警察庁は闇バイトなどによる犯罪集団を匿名・流動型犯罪グループ、略称「匿流(トクリュウ)」と名づけている。SNS(ネット交流サービス)などを通じて互いに匿名で活動し、流動的に離合集散を繰り返す集団という意味だ。
現代の若者にとってSNSは、友人、家族との連絡や情報収集にほぼ欠かせないツールだ。1人で複数のアカウントを使うことも珍しくなく、SNSでアルバイトを探した経験を持つ人は高校生で半数、大学生で3割という調査もある。
トクリュウは、ゆるやかな結びつきによって分業体制を組んでいる。表向きは、暴力団のようなあからさまなピラミッド構造は見られない。巧妙な募集手口に加え、組織のメンバーとしての貢献を求められないハードルの低さが、「普通の若者」を呼び込んでいるといえそうだ。
普通の人を犯罪者に変える「中和の技術」
非行集団に所属しているわけでもない、ごく普通の人間が犯罪に手を染めてしまうのは、「中和の技術」という心理メカニズムが働くからだ、と岡本さんは説明する。
「犯罪に走る若者といえど、365日悪いことをしているわけではありません。普段は善悪もわきまえているし、法律やルールを守っている。けれども時折、一線を越えて悪事に手を染めてしまう」
「普通なら罪悪感が邪魔してできないようなことをやってのけられるのは、心の中で言い訳をしているからです。『一度だけだから』『やらなければ自分がひどい目に遭うから』『ローンの返済期日が迫っているから』など。規範を破る時、自分を正当化するために用いるのが中和の技術なのです」
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