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世界中の人々の健康を脅かすトランプ政権 HIV感染者増加の恐れも

谷口恭・谷口医院院長
米ホワイトハウスで記者会見するドナルド・トランプ大統領=2025年1月30日、秋山信一撮影
米ホワイトハウスで記者会見するドナルド・トランプ大統領=2025年1月30日、秋山信一撮影

 トランプ大統領は就任前から「米国はWHOから脱退する」と繰り返し発言していましたが、これは1期目でも述べていたことですから目新しいものではありません。もしも脱退したとしてもWHO自体は残ります。しかし、2月3日、USAID(米国際開発局)の職員が自宅待機を命じられたと報じられたときには世界は驚愕しました。また、1月末から米疾病対策センター(CDC)のウェブサイトの多くのページが閲覧できなくなったことも我々医療者を不安にさせました。今回は、米国新政権でいったい何が起こっているのかについて、またその結果今後世界中でHIV新規感染が増加する可能性について私見を織り交ぜて述べていきたいと思います。

世界最大の援助組織を閉鎖

 まずは海外メディアからUSAIDの閉鎖について確認しておきましょう。USAIDを閉鎖に追い込んだのは実業家のイーロン・マスク氏です。周知のようにマスク氏は、トランプ新政権樹立と共に設立された「政府効率化省(Department of Government Efficiency=DOGE)」のリーダーであり、早速”効率”に手を付けたのがUSAIDでした。USAIDは世界最大の援助提供組織であり、2023会計年度には海外での自然災害の救援、清潔な水の供給、HIV/エイズ患者の支援など、幅広い目的に約720億ドルの援助を実施しました。

 マスク氏は「X」の音声メッセージで「我々はUSAIDを閉鎖する!(We’re shutting it down)」と叫び、(閉鎖には)トランプ大統領の「全面的支持」を得ていると付け加えました。

 さらに、マスク氏はの「X」でUSAIDを「犯罪組織(criminal organisation)」と呼び、「邪悪(evil)」で「米国を憎む極左マルクス主義者の巣窟(viper’s nest of radical-left marxists who hate America)」とこき下ろしました。ちょっと尋常とは思えないレベルの言動です。

 マスク氏だけではありません。トランプ大統領も「USAIDは過激な狂人たち(radical lunatics)によって運営されてきた。そして我々は彼らを追い出すのだ」と記者団に語りました。

 USAIDの幹部50人以上が停職処分を受け、スタッフ400人が解雇されました。2月4日にはUSAIDの全世界の職員のほぼ全員を休職にし、海外に派遣されている職員を30日以内に米国に呼び戻すよう命じました。

 すでにUSAIDのウェブサイトは閉鎖され、本稿執筆の2月9日時点でも閲覧できないままです。

消されたデータ、失われる人権

 他の政府機関のウェブサイトもページが削除されたり、内容が大幅に書き換えられた…

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谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 月額110円メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。