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認知症になると新しいことは覚えられない?--デイサービスのスタッフが見落とした82歳元教員の本音 

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 Tさん(82歳・女性)は、軽度のアルツハイマー型認知症と診断されて、4年が経過しました。診断された当時から1人暮らしでしたが、娘夫婦やホームヘルパーの支援のおかげで、それまでと変わらぬ生活をしていました。

 ただ、娘夫婦には、気がかりなことがありました。事前に約束せずに家に行くと、テレビもラジオもつけず、無表情でソファに座っている姿を目にすることがあり、このままでは認知症が進行するのではないか?と気になったのです。

 「お母さん、どうしてテレビもラジオもつけないの?」と娘が聞いても、「テレビもラジオも面白くないからね」と答えるだけです。なんとか張り合いのある生活を過ごしてもらいたくて、ケアマネジャーにデイサービスを利用できないかと相談しました。

興味を持って通い始めたデイサービス

 相談を受けたケアマネジャーは、娘さん同席の下、Tさんにデイサービスについて説明したところ、Tさんは「前から興味があったのよ」と参加することに積極的な様子です。週1回から利用を始めることになりました。

 娘さんが「他の参加者の方との会話も楽しんで、いい気分転換になったらわたしも安心だわ」とTさんに伝えると、Tさんも「ほんとうね。家にいたらしゃべることがないからね」と楽しみにしている様子でした。

 初めて利用した日は、同じテーブルになった方と仲良くなり、とても楽しく過ごせたようで、そのことを楽しそうに話すTさんの様子を見て、娘さんも少しホッとしていました。

「昔取った杵柄」でお願いされた役割

 Tさんが通うデイサービスでは、利用者の職歴や長年続けてきた趣味で培われた「昔取った杵柄(きねづか)」を生かすという取り組みをしていました。

 例えば、ガーデニングや家庭菜園が得意な人にはプランターで季節に応じた花や野菜を育ててもらったり、将棋が得意な人には将棋を楽しんでもらったり、車好きな人にはお花見ドライブなどのコースを一緒に考えてもらったりするなど、「好き」や「得意」を楽しんでもらう工夫をしていました。

 Tさんは、小学校の先生をしていたので、デイサービスのスタッフはそこに着目し、Tさんには他の利用者の前で、今日の予定やゲームのルールなどを教える役割を担ってもらおうと考えました。

 Tさんには「ぜひ、先生の経験を生…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら