東京では桜が満開。お花見の様子もコロナ前に戻って、花の名所は大混雑です。
ソメイヨシノも竹林も
私もこの時期はなんとなく落ち着きません。伊勢物語の主人公とされる在原業平は、「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」と詠みましたが、日本人のメンタリティーは平安の昔からあまり変わっていないのかもしれません。
伊勢物語は次の一首で終わっています。「つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」。誰もが死ぬとわかっていても、昨日や今日のこととは思わなかったという意味で、現代人の死生観とあまり違いませんね。
日本人には桜好きの遺伝子が埋め込まれているかのようで、私も桜を愛しています。とりわけ、京都の枝垂れ桜が大好きです。円山公園の祇園枝垂れ(夜桜がおすすめ)、谷崎潤一郎の「細雪」の舞台にもなった平安神宮の紅枝垂れ、上賀茂神社の斎王桜と御所桜、太閤秀吉も花見を楽しんだ醍醐寺の大枝垂れなど、個性派ぞろいです。枝垂れ桜は一本で十分に魅力的ですが、満開の時期もまちまちなので、長く花見を楽しめます。
その点、東京を代表し、日本の桜の8割を占めるソメイヨシノは、「同期の桜」よろしく、足並みをそろえて開花しては散ってしまいますから、お花見シーズンはあっという間です。ただ、一斉に咲きそろって、ほんの数日だけ満開を誇り、また時を同じくして、薄紅色の花びらを散らす姿に、日本人は生の喜びとはかなさを感じてきたとも言えるでしょう。
ソメイヨシノは幕末に江戸の染井村…
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東大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授
1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2021年4月から同大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。同病院放射線治療部門長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。



