就任から1年が経過し、秋に中間選挙を控えるトランプ米大統領は、内外を驚かせる行動に出た。それは国際政治構造を根底から揺さぶるものだ。米国はベネズエラ攻撃によりマドゥロ大統領を拘束し、裁判のためニューヨークに連行した。麻薬犯への法執行行為だとか、そもそもマドゥロ大統領は正当に選ばれた大統領ではないとか、あるいはベネズエラの石油を確保するためだとかいろいろ説明されるが、ベネズエラの主権を侵害した国際法違反行為であるのは明白だ。そしてベネズエラへの攻撃を通じて明らかになっているのは、昨年12月に発表された国家安全保障戦略にある通り、米国は自国の安全のために戦略の重点を西半球に移し、南北アメリカ大陸の支配権を確立するという構図だ。そして米国の安全保障のためにはデンマーク領グリーンランドの領有が必須であるとする。
「ドンロー主義」は二つの大きな疑問を生んでいる
トランプ大統領のアプローチは19世紀のモンロー主義をもじった「ドンロー主義」と呼ばれるが、二つの大きな疑問を生んでいる。国家安全保障戦略は欧州に対する厳しい指摘にあふれるが、トランプ大統領はグリーンランド領有のために必要であるなら軍事的措置を辞さないという。同じ北大西洋条約機構(NATO)内の争いとなるわけで、トランプ大統領がかねて公言してきた「NATOからの離脱」がにわかに現実味を帯びる。また、一時、米国のグリーンランド領有に反対する欧州8カ国に追加関税を課するとした(1月21日に撤回)。これらは、米欧離反を抜き差しならないところに追い込むのではないか。
そして、第二の疑問は、トランプ大統領のドンロー主義は西半球に安全保障の重点を移す結果、欧州のみならず東アジアでの米国の安全保障コミットメントが薄れるのではないかとの点だ。日本などとの同盟関係、中国を念頭に置いた「インド太平洋」戦略やQUAD(クアッド、…
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日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。「タブーを破った外交官」(岩波書店、25年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。2021年3月よりTwitter開始(@TanakaDiplomat)。YouTubeチャンネル(@田中均の国際政治塾)。




