生活保護基準の引き下げ違法 「当事者の声」と向き合わない政府

稲葉剛・立教大学大学院社会デザイン研究科客員教授
生活保護訴訟の最高裁判決を受けた政府の対応について厚労省側から説明を受ける原告ら(左)=東京都千代田区で2026年1月22日、肥沼直寛撮影
生活保護訴訟の最高裁判決を受けた政府の対応について厚労省側から説明を受ける原告ら(左)=東京都千代田区で2026年1月22日、肥沼直寛撮影

 一体、何について「おわび」しているのか、わからない。意図的に趣旨を不明瞭にした表現をしているのではないかと思わせるような「おわび」の言葉であった。

 2013年から15年にかけて実施された過去最大の生活保護基準引き下げに対して、全国29地域の生活保護利用者が減額処分の取り消しなどを求めて提訴した「いのちのとりで裁判」。

 昨年6月27日、最高裁判所第3小法廷(宇賀克也裁判長)は、国が引き下げの主たる根拠として示した「デフレ調整」(物価下落を考慮して引き下げたとの説明)について、「専門的知見との整合性を欠き、厚生労働大臣の判断の過程及び手続きに過誤、欠落があり違法」と認定し、減額処分を取り消す原告勝訴判決を言い渡した。国が定めた生活保護の基準について最高裁が違法と認定したのは史上初めてである。

 その最高裁判決から約7カ月がたった今年1月22日、裁判の原告と弁護団が要望してきた厚生労働省の幹部との面談がようやく実現。鹿沼均社会・援護局長と竹内尚也保護課課長が初めて協議の場に姿を現した。

 原告・弁護団と厚労省による協議は、最高裁判決の直後から断続的に開催されてきたが、厚労省は協議の場に課長補佐クラスまでの職員しか出席させていなかった。原告側は一貫して、すべての生活保護利用者に対する真摯(しんし)な謝罪と差額保護費の全額遡及(そきゅう)支給、再発防止策を盛り込んだ基本合意書の締結を厚労省に求めてきたが、厚労省は課長級以上の職員を出さないことで、原告との対話を通した紛争解決を実質的に拒否する姿勢を示してきたのである。

 その間、厚労省は最高裁判決への対応を検討するため、専門家による部会を設置。専門家の議論はまとまらず、昨年11月にとりまとめられた報告書は論点を整理したものにとどまったが、厚労省は報告書が全額補償を否定したものだと解釈。最高裁で違法とされた「デフレ調整」(4.78%減額)とは別の方法を用いて、過去にさかのぼって基準を再度引き下げ(2.49%減額)、差額保護費の支給は一部にとどめるとの方針を決定した。こうして作られた政府の「対応策」には、裁判の原告に限り、「特別給付金」を上乗せして支給するとの内容も盛り込まれた。

 1月22日の原告側と厚労省幹部の面談は、…

この記事は有料記事です。

残り1802文字(全文2744文字)

立教大学大学院社会デザイン研究科客員教授

 1969年生まれ。一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。14年まで理事長を務める。14年、つくろい東京ファンドを設立。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『コロナ禍の東京を駆ける』(共編著、岩波書店)など。