トランプ政権はベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束し米国で収監した。そして外交交渉のさなかにイスラエルとともにイランに攻撃を加えた。戦後国際社会は戦争を違法化する努力を続け、正当な武力行使は自衛権の行使か国連安保理制裁決議に基づく「集団的安全保障」の場合に限られると理解されてきた。1990年代以降の戦争のうち湾岸戦争は国連安保理決議に基づく武力行使と理解され、米国のアフガニスタン攻撃は米国へのテロ攻撃に対する自衛権の発動、しかしイラク戦争は安保理決議もなく、結果的には大量破壊兵器も発見されず、自衛権の行使とは認められるものではなかった。
トランプ政権はベネズエラ攻撃については、麻薬の取り締まりのための警察権の行使であるかのような説明をしたが、警察権が国境を越えて他国に及ぶものではありえず、主権侵害とみなされる。イランについては自衛権の行使と説明されているようだが、核開発が米国の自衛権の行使、ましてや最高指導者の殺害を正当化するとは考えられず、トランプ大統領は「米国が攻撃しなければイランに攻撃されていた」と説明するが、イランが戦争を始める用意があったとは認められない。ルビオ国務長官はイスラエルが攻撃を決めており、イスラエルが攻撃すれば米国は狙われるので先制攻撃をしたと述べるが、苦しい弁明としか聞こえない。近年、国連などの場で「人道的介入」が議論されてきた。深刻な人権侵害や大虐殺(ジェノサイド)が行われ当該政府が保護に当たらないとき、国際社会が軍事力で救済に当たることができる、という議論であり、内政不干渉の例外的措置である。イランの革命防衛隊が多くのデモ隊に対し発砲し多数の人々が殺害されたようであり、人道的介入とも思われるが、いまだ「人道的介入」が合法であるとの議論は煮詰まってはいない。
「力による現状変更は認められない」主張が根拠を失う?
ロシアのウクライナ侵略や中国の海洋における攻撃的活動に対し「力による現状変更は認められない」と断ずるのは米国をはじめ西側諸国の決まり文句であり、日本も常に主張してきた。しかし…
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日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。「タブーを破った外交官」(岩波書店、25年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。2021年3月よりTwitter開始(@TanakaDiplomat)。YouTubeチャンネル(@田中均の国際政治塾)。




