倉重篤郎のニュース最前線 高市内閣発足6カ月 後藤謙次が凝視 ポスト高市への主導権は誰が握るのか?
参院のドン・石井準一氏の新集団が政局を方向づける
「高市1強」と言われるが、地方選で自民党は不調、党内不和が伝えられ、派閥復活の機運がある。政権の足元は揺らいでいるのではないか。永田町を見続けてきたベテラン政治記者・後藤謙次氏、政策集団を立ち上げた武田良太元総務相、政治権力の深部を知り尽くした平野貞夫氏に倉重篤郎が訊く。【倉重篤郎】(サンデー毎日5月3日号掲載)
政権に市場・外交・参院の壁
政治の底流で何が動いているのか。その一つの指標に地方選挙がある。永田町の表層で見えているものと、民主主義の深部で動き始めていることとの落差を後で知ることがあるのだ。
例えば、こんなことがあった。1986年夏の衆参ダブル選挙の時だ。中曽根康弘首相率いる自民党が大勝し、自民1強永続の「86年体制」ができた、ともてはやされたが、中曽根氏がそれを奇貨として消費税の前身であった売上税導入を言明したことで一気に暗転、翌87年年明けのいくつかの地方選挙(首長選、議員選)結果に政権批判票が集まり、一つの参院補選での自民敗北をきっかけにそれが雪崩現象を起こし、売上税法案は廃案となり、政権をも退陣に追い込んだ。
政権の躓(つまず)きの始まりが、地方選挙であったことが印象的だった。国政選挙であれだけ圧勝した政権が、国政課題が必ずしも争点化されていなかった地方選で、時の政権批判とみられる投票行動によって、追い込まれていくことがある。農村から都市を包囲する、ではないが、民主主義の草の根ダイナミズムを感じさせる体験でもあった。増税への反発はもちろんあったが、時の政権の驕(おご)りを敏感に受け止めた民意による強権への牽制(けんせい)作用、という側面もあったと認識している。
高市1強下ではどうか。四つの地方選に着目する。
石川県知事選(3月8日投開票)では自民、維新の支援を受けた2期目を目指す現職が無所属の新人に敗れた。保守分裂ではあったが、高市氏が応援に乗り込んでも及ばなかった。
3月29日投開票の2首長選結果も興味深い。東京・清瀬市長選では、共産、社民両党推薦の新人候補が、自民、公明両党推薦の現職候補を破り、兵庫・西宮市長選では無所属の現職が自民、維新推薦の新人を破った。4月12日の東京・練馬区長選では、自民、国民、維新、都民ファーストの推薦を受けた小池百合子都知事の側近都議が、無所属新人に大差で敗れた。
これらがすべて政権批判票によるものだとは思わない。個別事情、背景があるだろう。ただ、高市氏の衆院選大勝後の政権運営や外交など、一連のパフォーマンスへの評価が、人々の投票行動に全く影響を与えなかった、とも考えない。強引な国会運営に政権の驕りを見た人もいるだろうし、日米首脳会談でイラン戦争停止ではなく、トランプ忖度(そんたく)の発言に終始したことに落胆した人もいるだろう。
政治の底流を探るもう一つの指標は、自民党内の派閥復活の動向である。
旧二階派で事務総長を務めた武田良太氏が4月2日、新政策集団「総合安全保障研究会」を結成し、22人が出席した。2月19日には派閥として唯一存続する麻生派も会合を開いた。新人11人を含む計18人が加入し、計60人へと拡大した。旧茂木派に所属した議員らも4月9日昼、会合を開き、新人議員を含む約20人が出席した。参院では、自民幹事長の石井準一氏が4月15日、「自民党参院クラブ」という新グループ設立を発表した。自民所属の参院議員40人超が参加するという。
この動きをどう見るか。国会明けと言われる内閣・党人事を睨(にら)んだものか。はたまた、ポスト高市に向けた陣立ての始まりなのか。
ここからは、元共同通信政治部長・後藤謙次氏の登壇を願う。鈴木善幸政権以来、44年間永田町をウオッチし続けてきたベテラン政治記者である。永田町の底流に何が動いているのか。本当に高市1強なのか。
「1強といっても盤石なものではないし、本格政権とも言えない。前も申し上げたが、私はこの政権をふわふわ浮いている『アドバルーン政権』と受け止めている。普通の政権は、盆踊りの櫓(やぐら)太鼓のように、下から足場で組み上げていって、その上に乗っかっていくもので、そこには人の行き来もあるし、いざという時にも櫓は残る。高市政権は下とのつながりがほとんどなく、気球に引き連れられたカーゴにも数人しか乗船していない。人という血流がない政権だ。だから、人体にとっては酸素と栄養分にあたる政権運営にとって最も重要な情報が入らない。バルーンだからヘリウムガスがなくなったらそれで終わりなのかなという気もする」
「最高権力者が官邸の奥の院にこもっており、総理大臣の孤立化という珍現象が起きている。御簾(みす)政治で、人の話が耳に入ってこない。本来政権中枢で交わされるべきやりとりが高市氏の身についていない。3月16日の参院予算委の答弁で、『今上陛下』を『こんじょう陛下』と読み間違え、例の台湾有事発言でも『戦艦』という今や存在しない兵器の名称を使ったりする。常日頃防衛関係者と対話していればありえないことだ」
政策はどうか?
「気球の下に宣伝文句がぶら下がっている感じで、いずれもスローガンだ。総論はあるがそれを裏付ける各論がない。プロセスのない政権だ。4月12日の自民党大会でもいきなり憲法改正発議の目処(めど)を来年までにたてたい、という。なぜ、どこを、という理屈もない。消費税減税も悲願と言ったが、実現の段取り、プロセスは全く見えない。国民会議を発足させ、開いているが、消費減税反対論ばかりしか出てこない。あれで本当にやれるのか疑問だ」
石井氏は野党との人間関係も深い
人事はどうか?
「ここは相当こだわりがあり、細かいところまで自分でやっている。例えば、自民党には中央政治大学院という政治塾的な機関がある。遠藤利明元総務会長が学院長をやっており、彼の引退後はナンバー2の齋藤健衆院議員が繰り上がると思いきや、高市氏の一本釣りで山田宏自民参院議員になった。山田氏は松下政経塾で高市氏の先輩で、この間高市氏を支援、思想的には同傾向だ。山田氏に、自民の新人議員66人の教育をやらせるという算段だ」
「…
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