作曲家・ピアニスト、「ピアノの詩人」加古隆 インタビュー 「心が震える瞬間」の大切さを、音で伝え続けていきたい

加古隆さん=最上聡撮影
加古隆さん=最上聡撮影

 作曲家・ピアニストとして活躍を続ける加古隆氏が、7年ぶりに全編ソロのステージに臨んでいる。パリでのデビューから半世紀を超えた今、音楽人生の転機となった楽曲を軸に構成されたプログラム、そして「ピアノの詩人」が今こそ届けたい調べについて語った。【構成/ライター・田幸和歌子】(サンデー毎日5月3日号掲載)

―7年ぶりにピアノ1台だけの全編ソロコンサートに臨まれています。なぜ今「ソロ」なのでしょうか。

加古隆 僕のいろいろな活動の中で、自分自身の音楽を見つけるきっかけとなったのがピアノソロなんです。ソロは自分の原点だとずっと考えていましたし、やめることなく続けていくべきライフワークだと思っていました。ところがコロナ禍の時期も挟んで、前回からずいぶん時間が経(た)ってしまいました。ソロコンサートは準備も大変ですから、今やらないともう機会を逸してしまう、今がやるべき時だと思いました。

 僕の音楽の真髄を語る上で、ソロは絶対に欠かせないもの。ソロに対してはそういう思いがあります。この7年間を振り返ると、コロナの最盛期には年に1度しかコンサートができませんでしたが、その時間を使って新しい曲を書くこともできましたし、3年前にはパリでのデビュー50周年という節目も迎え、記念アルバムとして自選映像音楽集「KAKO DÉBUT 50」(エイベックス)を出しました。加古隆クァルテットも2010年の結成から15年になります。「映像の世紀コンサート」はオーケストラと大スクリーンで毎年続けてきて、いろいろなオーケストラとの共演は大きな財産になりました。いろいろな節目がこの7年間にはありました。

 ただその分、年を重ねてきたわけで、いつまでも弾けるわけではないですから、今回のツアーは特に大切に、一音一音を出していきたいと思って臨んでいます。

―今回のプログラムで演奏される曲の一つ「ポエジー」は、1985年に東京・渋谷の西武劇場(現・パルコ劇場)で初演された曲ですね。イングランドの民謡「グリーンスリーブス」をモチーフにされたそうですが、前衛的な音楽をされていた加古さんが、なぜ親しみやすいメロディーに向かわれたのですか。

加古 それまでの僕のコンサートは前衛的な内容で、聴いた人が覚えられるようなメロディーを弾くことはまずなかったんです。ただ、僕が大変尊敬していた映画・ジャズ評論家の野口久光先生が、「今までの加古さんのコンサートはとても好きなんだけれど、一曲だけでいいから誰もが知っているメロディーを取り上げてみたらどうだろう。そうしたからといって加古さんの本質がなくなるわけじゃないから、心配する必要はない」とおっしゃってくださったんです。

―加古さんご自身も、シンプルなメロディーを弾くことのほうが難しいとおっしゃっていますね。

加古 前衛的な音楽をやるほうがずっと簡単なんです。僕の曲をいろいろな演奏家の方に弾いてもらうと、超絶技巧を持った名手たちが口をそろえて「加古さんのメロディーを弾くのが一番難しい」と言います。超絶技巧はごまかしがきくけれど、シンプルなメロディーはごまかしようがない。一つ一つの音の出し方、長さ、伸び方、すべてに気持ちがついていかないとダメだから、というんです。

 シンプルなメロディーが持つ力は、音楽の本質の中で筆頭だと思います。僕自身、そういう音楽が子どもの頃からずっと好きでした。自分の中に眠っていた本当の自分に巡り合えて、今の加古隆の音楽を見つけるきっかけになった。もっと大きな可能性の扉の前に立つことができた曲です。

自分の代名詞となった「あの曲」

―1995年に放送開始したドキュメンタリーシリーズ「NHKスペシャル 映像の世紀」のテーマ曲「パリは燃えているか」は、30年以上聴かれ続けています。この曲はご自身にとって、どのような存在ですか。

加古 端的に言うと…

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