全体知の思索者・寺島実郎に大場弘行『サンデー毎日』新編集長が訊く 「日米関係再設計論」

米ホワイトハウスの大統領執務室で会談する高市早苗首相(左)とトランプ米大統領=2026年3月19日、ホワイトハウス公開
米ホワイトハウスの大統領執務室で会談する高市早苗首相(左)とトランプ米大統領=2026年3月19日、ホワイトハウス公開

 現在の政治危機の根本には、日米基軸への過信がある。「日米再設計」を政治的・思想的に問い続ける寺島実郎氏に、従米構造を具体的に告発してきた大場弘行『サンデー毎日』新編集長が迫る核心インタビュー。(サンデー毎日5月10・17日号掲載)

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・米国の本質と変質を見極めよ
・松下政経塾の残影が示すもの
・基地の縮小と日米地位協定改定
・現代の条約改正の覚悟を持て
・民主主義を踏み固め、米国に代わって「自由とデモクラシー」の旗を掲げよ

 日本の外交・安全保障政策はこのままでいいのか。少なからぬ人が疑問を抱き始めている。日米安保条約で同盟関係にある米国に対しあまりに従属的ではないか。特にこの10年は顕著だった。米国の要請に従い、米軍防護の対外戦争を解禁する集団的自衛権の行使を容認、防衛費の倍増・米国製兵器の爆買いに走り、米戦略補完のため中長距離ミサイルの整備に邁進(まいしん)してきた。米中両超大国の覇権争いの中で、米国の対中国軍事包囲網第一線の駒役を担わされた形だ。引っ越せない隣人との間で平和的、経済的にウィンウィンの共生関係を築くのが日本の国益であるのに、競争相手を封じ込めるという米国の国益を優先している。

 本当のことを言えない忖度(そんたく)外交も目に余る。一方的な奇襲攻撃で国連憲章など国際法違反が明らかなイラン戦争に対し、法的判断を未(いま)だに下すこともできず、首脳会談ではトランプ氏を「平和と繁栄」の作り手であるかのような事実とは真逆な追従しか言わない。過剰な対米同調と言える。

 逆に対中国ではどうか。台湾有事について日本が集団的自衛権を発動する存立危機事態になりうると明言、現職首相の矩(のり)を踰(こ)える発言だったのに、撤回も相手に通じる説明もせず、徒(いたずら)に日中関係を悪化させている。中国戦闘機の自衛隊機に対するレーダー照射、現役自衛官による中国大使館侵入事件など、軍事の第一線で由々しき事態が起きているのに、両国間できちんとした話し合いもせず、ケジメもつけられていない。これまた行き過ぎた中国離反・敵視策ではなかろうか。

 要はバランスが悪すぎる。トランプ氏の5月の訪中で、米中が対立関係を一転させ、G2(両超大国による世界統治)体制に移った時に日本はどうなるのか。1971年のニクソン・ショックの時のように、梯子(はしご)を外された形にならないか。日米中関係だけではない。もっとアジアに根差した外交・安保戦略はないのか。米国の嫌う国連という舞台をもっと活用できないのか。唯一の被爆国としての立場をどう生かすのか。

 そう考えてみると、日米同盟に過度に依存、隷属してきた外交・安保政策ほど、大胆で包括的な改善策(オルタナティブ)を求められている分野はないのではなかろうか。

 ただ、この問題ほど壁が厚いものはないのもまた事実である。戦後80年の習い性か、日米同盟は所与のものとして日本政治の岩盤にガッチリと組み込まれ、その成功神話はなお支配的だ。政治勢力としては、自民党のみならず、共産党を除く野党の中にも、その問題意識は薄い。例え相手がトランプ氏であっても、日米同盟の一体的強化による対中抑止力強化という均質化した回答しか出てこないのである。

スタインベックの「金満米国」への警告

 そんな中、日米関係の見直しが必要だと、この四半世紀一貫して訴えてきた論客がいる。寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学学長)だ。寺島氏は著書『21世紀未来圏 日本再生の構想』(岩波書店、24年5月)で、「日米関係再設計」としてその見直しの全体図を明示したが、この寺島構想を叩(たた)き台に、同盟聖域化以外の選択肢についての議論を広げられないか。そんな問題意識から、『サンデー毎日』新編集長・大場弘行が寺島氏と向き合った。

 大場は、毎日新聞社会部記者時代に「特権を問う」という調査報道企画を主導、日米安保体制の歪(ゆが)みから生じた在日米軍の様々な特権を個別・具体的に追いかけてきた記者だ。首都圏にある米軍基地所属のヘリが、訓練や要人輸送のため、都心の高層ビル街を、日本の法令(航空法)では禁止されている超低空飛行で何度も飛び回っているのを証拠としてカメラでキャッチするなど、地べたから日本の対米従属構造を告発してきた。

――日本が「対米従属国家」と言われて久しいが、今ほど日本の主権の根本的あり方が問われている時代はないのではないか。

「今世界が直面する激震の源はトランプ2・0の米国にある。20世紀世界秩序の中核として果たしてきた役割を放棄、自国利害のみを優先する『力こそ正義』のドンロー主義に回帰してしまった。今年に入ってからは、ベネズエラ、イランに対し、独立国家の指導者を国際法や国連を無視する形で拉致、殺戮(さつりく)する武力行使に踏み切り、世界を大混乱に陥れている。日本としても敗戦から80年。これまでの『日米同盟の強化』を基軸とした対米過剰同調で未来が切り拓(ひら)かれるのか。米国の本質を再考し、21世紀の対米関係を柔らかく再設計すべき時に来ている」

――米国の本質と変質とは?

「『怒りの葡萄(ぶどう)』の作家ジョン・スタインベックの最後の作品に『アメリカとアメリカ人 未来のためのエッセイ』(中公文庫、原著66年)がある。米国が第二次大戦の勝利者、世界秩序の中核として、『米国の世紀』を体現していた時代だ。作家は、米国の本質として、広大な国土の下で培われた飽(あ)くなき拡大主義と多様の統一、そして、身分と階級のない平等な国ゆえの金満主義信奉を挙げ、最後に不気味な予言もしている。米国の持つ豊かさ、安楽さ、増大するレジャーが米国の『死に至る病』として致命的な道徳的崩壊をもたらすのではないかと」

「この予言…

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