失明の恐れがある病に、海外で否定の治療法導入-日本の常識は世界の非常識か?

=ゲッティ
=ゲッティ

 1950年ごろまで、日本人の平均寿命は50代でした。いまや男女ともに80代です。かつては問題にならなかった加齢に伴う「見る力」の衰えは、誰にとっても起こり得る問題になりました。目の寿命はせいぜい70年ぐらいです。寿命が90歳まで延びても、目の寿命は変わりません。

 情報の8割から9割は目から入ってくると言われています。試しに目をつぶってみてください。食事をするのも、トイレに行くのも一苦労でしょう。見えない人生は本人も大変だけれども、家族も大変です。だから、目を守ることは重要なのです。

 車を例に考えてみましょう。多少さびても鉄は丈夫です。車体そのものは20年、30年ともつかもしれません。それでも車検制度があり、2~3年に1回、必ず車をチェックしますよね。どんなに車体がしっかりしていても、ブレーキやライト、計器は壊れてしまうかもしれません。ブレーキが利かない車やライトがつかない車は、怖いですよね。人間の「目」は、よく使われて重要な役割をしているブレーキやライトに近いと思います。病気は早く見つけて、治療しなければなりません。

日本だけ違う診断基準

 しかし残念ながら、日本の眼科医療は非常に遅れています。世界水準と比べると20年は遅れています。失明につながる病気の診断基準が日本だけ異なっていたり、海外では行われなくなった治療法が日本に導入されたりします。

 例えば、加齢黄斑変性という、網膜の中心にある黄斑部に病変が現れ、目が見えにくくなる病気があります。アメリカなどでは失明原因となる病気でもっとも多いのがこの加齢黄斑変性です。日本では失明原因となる病気の中で4番目に多いとされています。

 加齢黄斑変性には国際診断基準があるのですが、日本はなぜか独自の診断基準を作りました。国際診断基準では、網膜に「ドルーゼン」と呼ばれる老廃物がたまると診断されますが、日本ではこの段階は「前駆病変」にとどまりで、症状が進んで、異常な血管(新生血管)が生じた段階などで「加齢黄斑変性」と診断します。加齢黄斑変性は早期に発見できれば治療できる病気ですが、独自の診断基準を設けている日本では、初期の黄斑変性は見落とされがちです。

 加齢黄斑変性はアメリカでは1980万人の患者がいると推定されています(※)。アメリカではこの病気に対する問題意識があるから、多くの患者さんが見つかります。日本の患者数ははっきりとした統計などはないのですが、70万人などと推定されているようです。僕は、人口比からすると日本でも500万~600万人の患者がいると考えています。

夜のスマホは要注意

 加齢黄斑変性と病名に「加齢」がつきますが、大きな原因の一つは「光」です。長生きをすると、その分たくさん光を浴びますよね。ですから年齢を重ねれば、目の病気になることが増えるのです。

 僕は車を運転するときや、時々ゴルフをするときには、太陽光を浴びるので、必ずサングラスをかけます。サングラスは暗い色のものではなく、黄色系のものがおすすめです。暗い色のサングラスは視界全体が暗くなって瞳孔が開き、すき間から入る紫外線の影響を受けやすくなるためです。

 近年、特に心配しているのがスマートフォンです。電車に乗ると、老若男女みんなスマホを見ていますよね。僕もスマホで決済をしたり、データを見たり、調べたり、もちろんメールや電話をしたりもします。だから、僕自身スマホは手放せません。

=ゲッティ
=ゲッティ

 しかし、スマホの光源は発光ダイオード(LED)で、ブルーライトを強く発しています。ブルーライトは、波長が短くエネルギーが強く、網膜の中心の黄斑部の細胞に大きなダメージを与えてしまいます。

 さらにパソコンやテレビの画面とは違い、スマホの画面は特に小さいですよね。小さいと必然的に、近くで画面を見ることになります。距離が半分になると、光のエネルギーは4倍になります。毎日数時間スマホを見続けていると、20年ぐらいで網膜はかなりやられてしまうのではないかと考えています。

 さらに、問題なのが夜のスマホの使用です。夜間は瞳孔が開いていて、光がたくさん目に入ってきます。夜にスマホを眺めている人、寝ながら見ている人もいると思いますが、目にとってはよくないです。

 夜のスマホが悪影響を及ぼすのは、目だけではありません。強い光は体内時計を狂わせてしまうことがあります。通常は朝起きて、光を浴びて体内時計が始動します。それから15時間ぐらいすると、メラトニンというホルモンが分泌されて、眠くなります。ところが、夜中に強い光を浴びると体は朝が来たと勘違いし、体が朝のモードになってしまいます。

 スマホは生活の必需品になりつつありますが、こうしたことは心にとめておくべきでしょう。小さいお子さんに、スマホを渡してゲームをさせている親御さんも見かけますが、子どものうちから目を酷使していたら、将来目が悪くなってしまいます。スマホの使用は1日1時間にとどめる、夜は使用しない、できるだけ見る距離を離すなどすべきでしょう。欧米では「20-20-20」という考え方も広まっています。「20分間画面を見たら、20秒間、20フィート(約6メートル)先を見る」というものです。スマホやパソコン、タブレットなどを利用しても、こうして目を休ませることが大事です。

情報が遮断された日本

 目の寿命はせいぜい70年ぐらいと言いましたが、目にかかわる病気は年々、若年化してきていると感じます。例えば、以前であれば白内障は60代以上の人が気にかける病気でした。現在は、50代で手術をされている方も非常に多いのです。加齢黄斑変性も今後、患者が爆発的に増え、低年齢化するのではないかと心配しています。

 前述の通り、日本の眼科医療は非常に遅れています。加齢黄斑変性をめぐって、ドイツで開発されたPDTレーザー法(光線力学的療法)という治療法があります。黄斑部にレーザー照射をし、異常な血管(新生血管)を破壊する治療法なのですが、レーザー照射が正常な細胞にもダメージを与えてしまい、かえって視力が悪くなることがわかって、行われなくなりました。しかし、海外でほとんど行われなくなった後、この治療法が日本に導入されてしまいました。世界に目を向けて国際学会に参加していれば、やってはいけない治療法と分かったのに、この治療を受け、結果として視力を失った方が大勢いらっしゃいます。本当に残念でなりません。日本の眼科医師は世界レベルに近づく努力をすることが大切です。

 医学の正解はただ一つ、患者を治すことのはずです。しかし、医学界は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界です。加齢黄斑変性をめぐって日本で独自の診断基準が作られたり、海外で否定された治療法が導入されたりしたことをご紹介しましたが、こうしたことが起こる背景には、薬の使用などで利益を得る「利権」があるのだと思います。

 僕はアメリカやドイツで研さんを積みましたが、日本には間違った情報、古い情報がはびこっています。僕は、日本は情報が遮断された国だと思っています。正義の国ではないのですよ。日本では正しい治療であっても少数派は理解されずに、多数派が行えば遅れていても間違った治療でも正しいとされてしまう傾向があります。

 こうした状況をなんとかしたいと思い、僕の患者さんにはより進んだ正しい情報をお伝えして、患者さんにとってプラスになることをお話ししますし、より多くの人に伝えたいと、これまでさまざまな本を出版してきました。この連載を通して、さらに多くの人に正しい情報を伝えられたらと思っています。

※ 米疾病対策センター

毎日メディカルの無料メルマガの登録はこちら

ふかさく・ひではる 横浜翠嵐高、航空大学校を経て滋賀医科大卒。米・独で研鑽を積み、白内障や緑内障、網膜剥離の手術方法や器具を多数開発。眼科専門医、医学博士。世界最高の眼科外科医を賞するクリチンガー賞受賞。画家でもある。

最新記事

Latest News

あなたにおすすめ

Recommended News