カロリーゼロでも太る? やせたいなら、食べてはいけない「人工甘味料」
「どうしてもやせられない」と嘆く患者さんからの訴えは当院がオープンした19年前から定番です。最近は、GLP-1受容体作動薬、SGLT-2阻害薬、あるいはメトホルミンなど糖尿病の薬で手っ取り早くダイエットする方法に人気がありますが、そういった薬に手を出す前に検討すべき日常のちょっとした工夫がいくつかあります。そのひとつが「人工甘味料に手を出さない」です。これは一見意外に思えます。そもそも「やせたいから人工甘味料を摂取する」と考える人が多いのですから。しかし、実際には人工甘味料入りの飲料を飲んでやせることはまず期待できず、むしろ体重が増える人が多いのです。今回はそのメカニズムを考察してみましょう。
不安視された発がん性
まず、人工甘味料とは何かを整理しておきましょう。人工甘味料とは「砂糖などの天然の甘味料に代わる甘みを持つ合成された化学物質」のことで、カロリーはほぼゼロです。代表的な人工甘味料は、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム(アセスルファムKとも表記される)、スクラロース、ネオテーム、アドバンテームなどで、いずれもが「砂糖の〇〇倍の甘さ」というような表現でピーアールされています。これだけを聞くと「甘いけれどいくら口にしても太らない夢のような物質」と考えたくなります。
人工甘味料に反対する人たちがよくその理由に挙げるのは「発がん性」です。最初に発がん性が指摘された人工甘味料はおそらくサッカリンで、1978年の論文(※)は、「ラットおよびマウスのぼうこうに対して発がん性がある」ことを示しました。さらに、「ヒトに対しても発がん性がある可能性が高い」としています。この論文の影響もあり、サッカリンは1981年に「the US National Toxicology Program’s Report on Carcinogens」において、「ヒトに対する発がん性が合理的に予測される物質(a substance reasonably anticipated to be a human carcinogen)」としてリストに載せられました。しかし、ラットの体内でがんが発症するメカニズムはヒトには該当しないことが分かり、また疫学的にもサッカリンの発がん性は確認されず、2000年にこのリストから削除されました。
サッカリンと同等、あるいはそれ以上に議論の的になったのがアスパルテームです。1980年代に発がん性の疑いが指摘されその後さまざまな研究がおこなわれました。しかし発がん性を否定する意見も多く論争が続いていました。2023年にはWHOのIARC(国際がん研究機関)(※2)が、アスパルテームを「グループ2B」としました。グループ2Bの定義は「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」です。アスパルテームの他にわさびや漬物などもリストに入れられています。よって、度を越さなければ発がん性はさほど気にしなくてよさそうです。実際、JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives=FAOとWHOが共同設立した食品添加物専門家会議)も米国FDAも「アスパルテームの安全性に問題はない」としています(※3)。サッカリン、アスパルテーム以外の人工甘味料についても一部には発がん性を指摘する声もありますが、世界的にみて「いずれの人工甘味料も極端に摂取量を増やさなければ安全性は高い」と考えられています。
空腹感と食欲が増す?
人工甘味料が問題なのは「体重が減らないどころか増える」点です。一見奇妙に見えるこの現象はどうして起こるのでしょうか。もっとも中には「人工甘味料に替えてから体重が減った」という人もいるのかもしれません。しかし、20年近くにわたり「体重を落としたい」という患者さんを多数診てきた私の経験からいえば「人工甘味料でやせた人は(ほぼ)おらず、逆に体重が増えている人が多い」のです。
では、なぜこのような奇妙なことが起こるのでしょうか。理論的には「毎日飲んでいたコカ・コーラをコーラ・ゼロに替えればやせる」は正しそうです。コカ・コーラジャパンのサイトによると、コカ・コーラは100mlあたり45kcalです。ということは500mLを毎日飲めば1日225Kcal摂取することになります。一方、コーラ・ゼロなら0カロリーですから、500mL飲んでもゼロで、コカ・コーラからコーラ・ゼロに変更すれば1日225Kcal減らすことができます。1カ月なら6,750Kcalです。一般に「7,000Kcal減らせば1キロやせる」と言われますから、コカ・コーラをコーラ・ゼロに替えれば月に1kg、1年で約12kgやせてもよさそうです。しかし、このようなサクセスストーリーは聞いたことがありません。なぜでしょうか。
2021年に医学誌「JAMA」に掲載…
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たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。