「目が見えにくくなった--」 原因はまさかの糖尿病、放置すれば失明も
眼科で見つかる糖尿病
「目が見えにくくなった」という患者さんの目を検査すると、糖尿病と判明することがよくあります。目の血管が出血している様子から糖尿病とわかるのです。
糖尿病を「尿から糖がでてくる病気」と認識している方も多いかもしれません。この認識は間違いではないのですが、本質的ではありません。重要なのは糖尿病によって、血管がつまったり、破けて出血したりするということです。糖尿病は「血管の病気」なのです。
手をけがして出血した場合には、目に見えるので、出血しているとわかります。しかし、目の中で出血が起きても、自分では見えないので、気が付きません。目が見えにくくなって眼科を受診し、初めて糖尿病と気付くというケースは意外と多いのです。
網膜の血管がつまったり、破けたりして視力が落ちる「糖尿病性網膜症」によって、国内で年間3000人が失明しているとされています。糖尿病を放置すると、視力を失ってしまうのです。
網膜剥離も緑内障も、白内障も
糖尿病になると目の細い血管がつまったり、出血したりします。悪くなった血流を補おうと、目の中に新しい血管(新生血管)が作られます。新生血管はもろくて破れやすく、出血もしやすいです。
大規模な出血が起きれば、見えにくくなるのは想像しやすいかと思います。「最初は赤っぽく、次第に赤黒いものが広がって、何も見えなくなった」という人もいます。
さらにひどくなると、出血による炎症反応が起き、線維が張ってきて「増殖膜」という膜ができます。この増殖膜によって網膜が引っ張られると、破けます。その間に水が入り込むと、網膜がはがれ「網膜剥離」となり、失明します。
それだけではありません。眼球の前部にある「隅角」という、目の水の通り道となっている部分があります。新生血管がここにできることがあります。すると線維膜ができ、眼圧が非常に高くなって緑内障になります。「血管新生緑内障」と言いますが、非常に治療が難しく「治療できない」と言う眼科医が多いです。他の眼科でそう言われた患者さんが、当院を頼って来られます。内視鏡を入れてモニターを見ながら、目の水ができる「毛様体突起」という場所をレーザー照射凝固し、水の産生を抑える手術を行います。難しい手術ですが、難治の緑内障の眼圧を下げて治すことができます。
糖尿病の方は、白内障にもなりやすくなります。たんぱく質に糖がこびりつく現象を「糖化」といいます。糖化によってできた物質は、さまざまな老化現象の原因となります。目の場合、水晶体のたんぱく質・クリスタリンが糖化によって、白くにごり、これが蓄積すると、白内障になります。高血糖であれば、常に糖化が起きやすい状態ですから、糖尿病の方は白内障にもなりやすいのです。通常は50代ぐらいから増える白内障ですが、糖尿病の方の場合は40代でもなってしまうケースが非常に多いです。
眼科で糖尿病が見つかると述べましたが、気をつけてほしいのは、どの眼科でも見つかるわけではないということです。眼科を標ぼうしていても、あらゆる目の検査をきちんとできる医師はごく一部です。経験を積んだ眼科医でなければ、こうした異常も見逃してしまうので、気をつけてほしいと思います。
糖尿病は現代病
糖尿病は「血管の病気」と述べましたが、目の細い血管が破けたり、出血を起こしたりしているということは、体の他の場所でも同じようなことが起きている可能性が非常に高いです。腎臓には細かい血管が集まった糸球体と呼ばれる部位がありますが、この血管は網膜の血管と非常によく似ています。目の血管に異常がある場合には、腎臓にも異常があると考えたほうがよいでしょう。症状が悪化し腎不全になると、人工透析が必要になり生活は制限され寿命も短くなります。同時に起きる糖尿病性網膜症や血管新生緑内障で、視力低下や失明が起きます。
また、心臓から遠いところでは血流が悪くなり、神経障害が起きます。ひどくなると壊疽(えそ)になり、足の切断を余儀なくされることもあります。
糖尿病性網膜症、腎症、神経障害の三つは糖尿病の3大合併症とされています。共通する原因は、糖尿病によって血管が障害されるからです。
歴史を振り返れば、人類はかつて狩猟採集生活でした。農業を始め、穀物を保管できるようになったのは、つい1万年ほど前のことです。飢餓から逃れられるようになっても、血糖値が上がればそれを脂肪として蓄え、食べ物がないときに脂肪を燃やすという仕組みはかわりません。現代は食べものがいくらでも手に入る飽食の時代です。現代人は糖質のとりすぎによって、多くの糖尿病患者を生み出したのです。糖尿病はまさに「現代病」なのです。
症状悪化の原因はインスリン
当院で糖尿病が見つかった患者さんを、以前は糖尿病を専門とする内科医に紹介していました。しかし紹介した途端、症状が悪化し、目が見えなくなることが続きました。血管が破れて大出血を起こし、急に見えなくなってしまうのです。
なぜ、こんなことが起きたのでしょうか。原因はインスリンでした。インスリンは血糖値を下げるホルモンです。内科の治療では、高くなった血糖値を下げるために、インスリンを注射したり、分泌を促す薬の服用をさせたりするケースが非常に多いです。
血管は血糖値が上がるときにも破けますが、下がるときはさらに破けます。
食事で血糖値が上がり、そこでインスリンを投与、あるいは薬によって分泌を促せば、今度は血糖値が急速に下がります。血糖値が上がったり、下がったり激しく変動するわけです。血管にとっては大きなダメージです。僕はこれを「血糖のジェットコースター現象」と呼んでいます。
では、どうしたらよいのでしょうか。そもそも糖質をとらなければ、血糖値は上がりません。血糖値が上がらなければ、とくに2型の糖尿病ではインスリン投与は必要ありません。
糖質をとらない、もしくはとりすぎないようコントロールすればよいのです。糖質の代表的なものは、ご飯やパン、麺類などのいわゆる主食と呼ばれるものですが、大量にとるのは、糖尿病の患者さんや糖尿病遺伝家系の予備軍にとっては非常によくありません。糖質の多い食品を食べるのを控えてもらいます。
このように糖質を制限する食事療法は、世界ではポピュラーな糖尿病の治療法です。
患者自身の理解が大切
現在、糖尿病が見つかった患者さんは、そのまま当院で治療を行うか、糖質制限を進めている内科を紹介することにしています。
当院での治療について説明します。
患者さんの血糖値の把握のために、リブレという測定機器を使っています。腕にセンサーをはり、血糖値を連続測定できる機器です。結果はスマートフォンで確認できます。血糖値は80~140mg/dLの間に収まっているのが理想的ですが、患者さんには80から180ぐらいの間でもいいよと伝えています。一般的に血糖値が180mg/dL以上の場合、血管病変が起こると言われているからです。
患者さんにはノートを1冊準備してもらい、毎回の食事の時間や内容を詳細に記録して、食前、食事から30分後、1時間後、2時間後の血糖の測定値を記録してもらっています。こうすることで、なにを食べたら血糖値が上がるのか、自分自身で把握することができます。実際にやってみると、米やパンや麺だけでなく、芋類や果物も血糖値がすぐに上昇することがわかります。こうしてご自分で食事と血糖値の関係の治療を理解することが大切です。
飲食物の中でも、特に気をつけてほしいのが「果糖」です。通常の糖質よりもさらに危険です。通常、糖質を摂取するとインスリンが分泌され、血糖値が少しはコントロールされます。しかし果糖の場合はインスリンが分泌されず、すぐに血糖値が跳ね上がります。糖質の10倍早く血糖値があがります。特にジュースやお菓子の原材料表示で、「果糖液糖」「ブドウ糖果糖液糖」「異性化糖」などと書かれていたら、手をだしてはいけません。これはトウモロコシなどから作った果糖で工業製品です。糖尿病患者にとっては、毒そのものなのです。
糖質制限をしても血糖値のコントロールが難しい方もいらっしゃいます。そういう場合、当院ではGLP-1受容体作動薬やメトホルミンを処方しています。どちらもインスリンを介さずに、高血糖値をコントロールできる薬です
糖尿病は遺伝的な要因もあります。糖尿病を発症していなくても、親や親戚が糖尿病であるのならば、自身を「糖尿病予備軍」と捉えて、糖質をできるだけ抑えることが重要です。
糖質制限の生みの親
糖質制限食を始めたのは、アメリカのリチャード・K・バーンスタイン博士です。1934年生まれのバーンスタイン博士は12歳の時に、1型糖尿病を発症します。インスリンが分泌されないタイプの糖尿病です。治療を続けましたが、20代になるとさまざまな合併症に苦しみます。30代で糖尿病性腎症が悪化して、合併症により長生きできそうもない状況でした。彼はそのころに血糖測定装置が開発されたので、何を食べれば血糖値が上がるのかを調べ始めました。当時、血糖値測定機器を購入できるのは医師だけでしたが、医師である妻に購入してもらったのです。彼は技師だったので、食事と血糖値の関係を自分の体を使って調べました。
バーンスタイン氏は「糖質をとると血糖値が上がる」ということを見いだし、糖質制限食を提唱します。彼は糖質制限食を広めるために45歳で医大に入学して学び、49歳で医師となり、さらに長期にわたって「糖質制限食」の啓発を続けました。以前は民間療法扱いだったのが、現在のアメリカでは、「糖尿病の治療は、糖質制限が一番」という認識が広まっています。
糖尿病のため、若い頃には長生きはできないだろうと思われていたバーンスタイン氏ですが、90歳まで生き、今年4月に亡くなりました。
日本でも、糖質制限食の重要性を説く医師はいます。しかしそれ以上に、上昇した血糖値をインスリンで下げることばかり考えている医師が多いです。糖尿病治療ガイドラインでは、炭水化物はエネルギー摂取量の4~6割とするようにとしていますが、これでは多すぎです。4割も食べて上がった血糖値をインスリンで下げるということをしていれば、症状は悪化して当然です。毎年4万人以上の人が新たに腎不全となって、透析が必要になっています。これまでの多量の糖質を食事でとり高血糖を許容し、その後にインスリンで高血糖を下げる(グルコーススパイク、血糖のジェットコースター現象)といった、従来の糖尿病治療が間違っているからこそ、新たに腎不全を起こすのです。糖尿病性網膜症による失明が増えているのも同じ原因です。
<今回のまとめ>
・糖尿病は血管の病気である。細い血管がつまったり、出血したりする
・糖尿病になると、網膜剥離や緑内障、白内障にもなりやすくなる
・糖尿病の治療法として有効なのは糖質制限食
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ふかさく・ひではる 横浜翠嵐高、航空大学校を経て滋賀医科大卒。米・独で研鑽を積み、白内障や緑内障、網膜剥離の手術方法や器具を多数開発。眼科専門医、医学博士。世界最高の眼科外科医を賞するクリチンガー賞受賞。画家でもある。