ケアの需要増と人口減、看護職はどう乗り切る? 73万人組織のトップに聞いた

超高齢社会で訪問看護師の需要は高まっている=東京都世田谷区で2017年6月30日、細川貴代撮影
超高齢社会で訪問看護師の需要は高まっている=東京都世田谷区で2017年6月30日、細川貴代撮影

 日本の医療や介護は、2040年に向け正念場を迎えている。高齢者が増え続ける一方、それを支える現役世代は減り続けるからだ。難局を乗り切るのに、約350万人の医療関係従事者の約半数を占める看護職が果たすべき役割は大きい。人材確保と社会構造の変化に伴う質の転換という二つの課題に、どう対応していくのか。日本看護協会長に今年就任した秋山智弥さんに聞いた。【毎日新聞論説委員・清水健二】

「生活の場」に看護師がいる大切さ

 ――約73万人が加入する看護協会のトップに男性が就いたのは初めてです。

 ◆看護師になって三十数年、どこへ行っても「男性初」が付いて回ったので、女性の中で働くことには慣れています。当時、男性は全体の3%しかおらず、大半が精神科勤務でした。

 看護師の給与モデルとされてきた国家公務員の「医療職俸給表」は、あたかも結婚・出産を機に退職することを前提に作られたかのような体系でしたので、最初の職場では、男性が増えることが処遇改善にもつながると歓迎されました。今は9%弱にまで増え、だいたいどの病棟にもいるのが当たり前になりました。何とか1割台まで持っていきたいですね。マイノリティーとして男性看護師の悩みも理解できますし、私をロールモデルの一つとして見てもらえるとうれしいです。

 ――超高齢社会の到来で、看護師に求められる役割はどう変わるでしょうか。

 ◆今年、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になり、医療の無駄を省き機能を分化させることが急務になっています。これは患者からすれば、急性期、回復期、在宅と、療養の場が変わるたびに別の人のケアを受けることを意味します。当然、不安も大きくなる。点と点をつなぎ、連続性のあるケアにしていく主体が看護師だと考えています。

 その際、病院だけでなく、訪問看護、介護施設、ホスピスなどさまざまな療養の場での経験が生かされます。地域の中で機能の異なる施設の管理者がスタッフを相互に出向させるなど、医療提供システム全体が病院完結型から地域完結型へと移っていく形になるでしょう。

 ――40年ごろには就職氷河期世代が本格的に高齢化し、単身や生活困窮のお年寄りも増える懸念があります。

 ◆家族が病気を発見し、病院に付き添うケースが減るかもしれません。要介護状態になる前に、こちらからアウトリーチして、家族に代わり見つけることが重要です。人口が減る中、地域の共助機能も薄れています。高齢者が住み慣れた土地で最期まで暮らせるようにするには、看護師が生活の場にいることが欠かせません。

 
 

「D to P with N」の考え方

 ――訪問看護師の需要が増すということでしょうか。

 ◆はい。今は約9万人が訪問看護を担っていますが、将来は12万人が必要と言われています。本来は「かかりつけ看護師」がどの家庭にもいるといい。家族は心強いでしょう。

 訪問看護では医師がそばにいないため、自分で判断する能力が求められます。また、高齢者はどこまで治療するかが大きなポイントで、残された時間の生活の質(QOL)をいかに高めるか、治療をするかしないかの選択も含めて、その人の意思決定を支えて尊厳を守る高い人権意識も欠かせません。介護福祉士など他職種と円滑なコミュニケーションを取る力も必要です。

 ――若い看護師や看護学生は、訪問看護という仕事をどう受け止めているのでしょう。

 ◆関心は高まっていて、起業して訪問看護ステーションを始める人もいます。以前は「卒業後はまず病院勤務」と言われることも多かったかもしれませんが、私は生活の場で療養している患者さんの姿を先に見て全体を知ってから、専門治療の現場を学ぶのもいいと思っています。

 ――協会が今年まとめた「看護の将来ビジョン2040」の中で、多様化する療養を支援する形の一つとして「D to P with N」という考え方が出てきます。どういうものでしょうか?

 ◆ケアが在宅中心になっていけば、オンライン診療も広がるでしょう。その際、医師(D=ドクター)と向き合う患者(P=ペイシェント)の傍らに看護師(N=ナース)がいる、というイメージです。遠隔だと医師は視聴覚情報しか得られませんが、患者の横に看護師がいれば触診や追加の検査ができ、精度は格段に上がります。

インタビューに応じる日本看護協会の秋山智弥会長=東京都港区で2025年12月1日、清水健二撮影
インタビューに応じる日本看護協会の秋山智弥会長=東京都港区で2025年12月1日、清水健二撮影

 ただ、看護師が医師の指示の下で働くだけでは駄目。患者さんを支援する立場で考えることが大切です。通常の看護師より高い判断能力が求められるでしょう。

不可欠になるNP、基礎教育は4年制に

 ――看護師に一定の診療行為を認める「ナース・プラクティショナー(NP)」などの資格を設けている国もあります。

 ◆40年に向け、地域で療養する人々をさらに支援できるよう、私たちは日本でもNPの制度創設が必要であると考えています。

 排せつや睡眠に関する症状にどのような薬を使うかは、生活を見ている看護師の方が慣れている場合もあります、医師が来るまで時間がかかる時にNPが対応できれば、患者さんの安心にもつながります。大学院の修士課程を経て資格を取れる制度を作るのが望ましいと思いますが、まずは実証事業をして、可能性や課題を明らかにしていくべきです。

 ――協会は「看護師養成の基礎教育は4年制大学に一本化すべきだ」とも訴えていますね。

 ◆医療が高度化し、その安全性を確保する観点からも、看護師は単に医師の指示の下で医療を提供すればいいという時代ではもはやなくなっています。看護師は医師の指示の理論的根拠やその倫理性について看護学の観点から吟味し、問題があれば医師に疑義照会し、問題がなければ適切な手順で実施してその後の状態の変化を継続的に観察し、治療の経過を見守っています。3年制の短大や専門学校での教育では限界があり、十分に学べないまま看護師になっても、採用した病院は研修を手厚くせざるを得ず、スキルを習得するまで夜勤を外したりしなければいけません。

 国家資格を得るまでに、十分な実習時間の確保が不可欠です。質を担保するためにも基礎教育は4年制とし、大学教育に一本化すべきだと考えています。

看護師になるためのプロセス。4年制大学、3年制の専門学校、5年制の高校専攻科など、さまざまなルートがある=厚生労働省のウェブサイトより
看護師になるためのプロセス。4年制大学、3年制の専門学校、5年制の高校専攻科など、さまざまなルートがある=厚生労働省のウェブサイトより

キャリア像、自分で描けるように

 ――資格取得まで時間がかかるとなると、人材確保が難しくなりませんか。

 ◆確かに、今は18歳人口の17人に1人が看護師を目指せば養成機関の定員は満たされますが、40年にはこれが12人に1人になる見込みです。既に定員割れは起きており、人材確保は大きな課題です。

 ただ、定員割れが急速に進んでいるのは、主に3年制の専門学校です。とにかく人を集めなければと、合格ラインを落としてでも全員入学させても、結局は教育の段階で手間がかかっているのが実態です。しかるべき資質を備えることなく卒業してしまえば、結果的には早期の離職にもつながります。

 一方、看護系大学の数は、私が卒業したころはわずか11校でしたが、今は300を超えています。大学志向はこれからも高まっていくでしょう。

 ――出産や子育てを機に離職するのをどう防ぐか、という課題もあります。

 ◆資格は持っているけれど就業していない「潜在看護師」が多くいます。子育てなどでいったん職場を離れると、その後に戻ろうと思ってもブランクが長くなり新しい知識に対応できなくなりがちです。定期的に学んだり、スポットで仕事に入れたりするような柔軟な働き方を取り入れなければなりません。

 協会では、それをサポートするためのポータルサイトを構築中です。退職者を含め全員に登録してもらい、キャリアの積み方を自身で描けるような情報提供を進めたいと思います。

 また、定年退職した看護師に、診療所や介護施設等で活躍してもらうことも重要になります。経験豊富な宝と言える人材で、私たちは「プラチナナース」と呼んでいます

インタビューに応じる日本看護協会の秋山智弥会長=東京都港区で2025年12月1日、清水健二撮影
インタビューに応じる日本看護協会の秋山智弥会長=東京都港区で2025年12月1日、清水健二撮影

 あきやま・ともや 1998年、東京大大学院修了。看護師として東大病院、京都大病院、名古屋大病院に勤務し、現在は名古屋大大学院客員教授を兼務。日本看護協会では2017年から副会長、25年6月から会長。

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