市販化されてもまだ使いにくい緊急避妊薬 残る課題とは
緊急避妊薬「ノルレボ」の市中薬局での販売が2月2日に始まりました。望まない妊娠を防ぐために多くの女性が求めていたにもかかわらず、承認まで長い道のりでした。
多くの女性が望んでいたにもかかわらず
これまでの経緯を簡単に振り返ってみましょう。
2017年に開催された「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(以下、評価検討会議)において、緊急避妊薬のスイッチOTC化が検討されました。スイッチOTC化とは、医師の処方箋で処方されていた医療用医薬品を町中の薬局で販売できる一般用医薬品にすることです。
しかし、日本産科婦人科学会及び日本産婦人科医会から「否」とする見解が示され、委員からも消極的な意見が相次ぎ、スイッチOTC化は見送られました。
その理由として挙げられたのは以下のような意見です。
①緊急避妊薬の使用後に避妊に成功したか、失敗したかを含めて月経の状況を使用者自身で判断することが困難②欧米と異なり、性教育が遅れている背景があり、緊急避妊薬等に関する使用者自身のリテラシーが不十分③薬剤師が販売する場合、女性の生殖や避妊、緊急避妊に関する専門的知識を身につけてもらう必要がある④インターネットでの販売を含め、安易な販売が懸念されるほか、悪用や乱用などの懸念がある⑤緊急避妊薬に関する国民の認知度は、現時点で高いとは言えない――などです。
その後、2020年に第5次男女共同参画基本計画において「安全性を確保しつつ、専門研修を受けた薬剤師による対面での説明の上で処方箋なしで利用できるよう検討する」方向性が示されました。
21年には市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」が政府に要望書を提出し、「評価検討会議」での再検討が始まりました。しかし、会議では最終的な結論(可否の決定)には至りませんでした。会議の主目的は、必要な情報や体制、対応の方向性を議論して課題の共有とされました。
22年は、OTC化時の論点(使用者の安全、適正販売、薬剤師教育など)を明確にし、国民から意見を募集するパブリックコメントに向けた素材を整えることになりました。
23年、パブリックコメントで賛成意見が多数を占めた結果を受け、同年11月から「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業」として、全国349カ所の選定薬局で、処方箋なしでの販売の試行と評価が始まりました。
そして現在に至ります。全国7349カ所の薬局で販売が始まりました。
女性に負担が偏る現在の避妊
避妊にはいくつかの選択肢がありますが、実際にとられている手段は限られています。
日本で最も一般的に用いられているのはコンドームです。入手しやすく、比較的安価で、性感染症の予防にもなるため、多くの人に選ばれています。しかし正しく使用しなければ破損や装着ミスが起こりやすく、避妊効果は使用状況に左右されます。そのため、「使っていたのに妊娠した」というケースも少なくありません。
低用量ピルは世界的には主流ですが、日本では使用率が低いままです。毎日服用することで高い避妊効果が得られ、月経痛や過多月経の改善といった副次的なメリットもありますが、原則として医師の処方が必要で、保険適用外であることが多く、費用や受診の手間がハードルになっています。
子宮内避妊具(IUD/IUS)の装着は、数年単位で効果が持続する、非常に確実な方法ですが、日本では実施医療機関が限られており、選択肢として十分に知られていません。出産経験のない女性には勧めにくいという認識が根強いことも、利用が進まない理由の一つです。
また男性側の避妊選択肢が少ないことも特徴です。実質的にはコンドーム以外の方法がなく、避妊の負担が女性に偏りやすい構造があります。その結果、避妊がうまくいかなかった場合の責任や身体への影響も、女性が多く引き受けることになりがちです。
面前服用や価格は妨げに
緊急避妊薬の薬局での販売は、女性にとって一定のやさしさを持つ変化だと言えます。妊娠の可能性に直面したとき、時間との勝負であるにもかかわらず医療機関を受診できない状況は少なくありません。そのような中で、薬局という身近な場所で緊急避妊薬が入手可能になったことは、選択肢を広げ、切迫した不安を和らげる助けになると思います。
ただし、現行の販売のあり方が本当に女性にやさしいかというと、十分とは言えません。年齢制限がなく、保護者の同意がなくとも購入できる点は評価できます。
しかし購入にあたって対面での説明や状況確認が求められる点や、薬剤師の面前で服用しなければいけない点、また7480円(税込み)という価格を自己負担しなければいけない点や夜間や休日に対応できる薬局が限られている点は、この薬へのアクセスの妨げになるでしょう。
服用上の注意
今回、OTCになった緊急避妊薬は第一三共ヘルスケアの「ノルレボ」です。日本で最も長く使われてきた「レボノルゲストレル」を有効成分としています。遅くとも72時間以内に1回服用しますが、早く飲むほど効果が高いことが分かっています。性交後24時間以内に服用した場合の妊娠阻止率は95%、25~48時間で85%、48~72時間で58%とされています(※)。
副作用としては、吐き気、頭痛、だるさ、不正出血などがありますが、多くは一時的です。ただし、次の月経が遅れたり早まったりするため、予定通り月経が来ない場合には妊娠の有無を確認する必要があります。また性感染症を防ぐ効果はありません。
授乳中の人が服用する場合は24時間授乳を避ける必要があります。24時間経過すれば、授乳は再開できます。
そのほか、肝臓病、心臓病、腎臓病などの基礎疾患があったり、軽度のうつ病に効果があるハーブ、セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)などの食品を摂取していたりすると、服用できない場合があります。
学校教育などでの情報提供を
筆者の薬局は24年から「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業」に参加しました。
繁華街でもない薬局に緊急避妊薬の需要はあるのかと参加することに迷いましたが、そういう場所のデータも欲しいからと要望されました。18~50歳の100人弱の方に販売しましたが、薬が必要な理由は「コンドームの脱落・破損・不適切な使用」がほとんどで、「同意のない性交」の方はいませんでした。家族連れやカップルも複数いました。その場合は薬局内には女性だけを迎え入れて対応しました。
当薬局のファンサイトを利用し、緊急避妊薬に関する意見を募集したところ、以下のような意見が集まりました。
▽緊急避妊薬の存在は知っているが、学校教育などで体系的に学ぶ機会がなかった
▽効果・副作用・限界について、正しい情報が十分に届いていない
▽PMSやピル使用経験があるので、女性の身体によりやさしい選択肢が増えるのを歓迎している
▽望まない性行為や被害などの「緊急時」に不可欠な医療手段
▽実体験から、服用時には強い焦りがあり、迅速な入手が重要だと感じる
▽病院に行けない人のためにも、薬局やドラッグストアでの購入が望ましい
▽副作用や使用制限があるので、懸念されるような乱用にはつながりにくいのでは
▽アクセスを広げても性の乱れにはつながらないという海外データや見解がある
▽子どもを持つ親の立場から、教育や使われ方への慎重な配慮も必要とされている
▽女性が自分の身体にとってより良い選択ができる社会を目指すべきだ
おおむね肯定的な意見が多いと感じました。一方で学校現場における性教育など、責任ある立場からの体系的な情報提供を求める声も多くありました。
緊急避妊薬は、女性の健康と人生に大きな影響を与えうる「望まない妊娠」を防ぐための重要な手段です。だからこそ、正しい知識が社会全体で共有され、必要な人が不安や偏見なくアクセスできる環境を整えていくことが求められています。薬そのものだけでなく、それを取り巻く説明や支援のあり方も含めて考えることが大切だと言えるでしょう。
※ レボノルゲストレルの位置づけとオンライン診療下での投薬時の注意点
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さかぐち・まゆみ 東京薬科大客員教授。千葉大大学院修了。東京大病院薬剤部勤務を経て、東京都台東区に「みどり薬局」など3店舗を開設。著書に「OTC医薬品の比較と使い分け」(羊土社)など。