エピローグ
残暑が厳しい眩しい太陽のもと、小学生たちが登校してきている。夏休みの間に外で思いっきり遊んだのか、真っ黒に日焼けしている子や、宿題が終わっていないのか憂鬱な表情をしている子など様々だったが、それはあまりに平穏な日常の光景だ。その日常の非日常も変わりない。まるで絵画から抜け出してきたような銀髪の美少女がランドセルを背負って登校している。ただ、その少女は今までも大人びたところがあったがそれに拍車をかけて愁いを含んだ表情は妙な色気すらあった。
少女は、自分のクラスの自席に着席する。すぐに教師が入ってきて、担任の交代を告げた。
「えーー!!」
クラスの大半から不満の声が上がる。少女の瞳にはうっすらと涙が滲む。夏休み中、散々涙した事柄だったが、それでも尽きることがないのだから仕方がない。ただ、少女ほど真剣に悲しんでいる者は当然この中にはいない。少女は、そっと窓際の空席に目を向ける。
一瞬、幻が見えた。密かに心を寄せていた少年の眩しい笑顔。それは、すぐに消えたが少女にはそれだけで十分だった。まだ希望はある。それを胸に刻んで、まっすぐと前を向いた。
ビル街に制服を着た二人の少年がいた。少年たちの前には、ありきたりなビルの入り口がある。一瞬の躊躇もなく二人はその中へと足を踏み入れた。もし、ずっと二人のことを見ている人物がいたのなら、彼らがまるで何もないところに吸い込まれて消えてしまったかのように見えたかもしれない。しかし、実際にはその様を認識することすらできないので、何かが起こったという事実は誰の中にも存在しえなかった。
中に入った二人は、子供部屋のようなところにいた。しばらく誰も足を踏み入れていないのか、少し動くと誇りが舞う。
「この建物自体は、特に変化がないようですね。いつの間にか元の場所に戻ってきていたのには驚きましたが」
少年の一人が呟く。
「そうだな」
もう一人の少年は、言葉少なにそれだけ言うとあたりを一通り見渡す。この部屋で見るべきものはすべて見たのか、二人はすぐに部屋を出た。そして、廊下の奥へと進む。突き当りのドアを開けるとそこにはエレベーターがあった。二人は当たり前のようにそれに乗り込んで一番下のボタンを押した。
しばらくすると、エレベータが止まった。外へと出ると、そこには長い廊下が続いており、左右にいくつかのドアがあった。手前から手当たり次第にドアを開けては中を確かめる。ほとんどの部屋は実験室のようで、様々な器具が置かれていた。何かサンプルでも収納されていたのか、大きな水槽のようなものもある。しかし、中には何も入っていなかった。
最後のドアに手をかけ開ける。その部屋は他とは少し異なっており、実験室というよりかはデータなどを収集したり管理をしたりするような部屋に見えた。モニターが数台置かれており、普通の人間には扱えないような精密機械が数台置かれていた。
「ここは、俺が監禁されてたところみたいだな」
そう呟いた少年は、今までと同じようにぐるりと部屋を一通り見渡す。部屋の奥の方は少し開けていて、その中央に椅子が一脚置かれていた。その周りには、頑丈そうな鎖が無造作に置かれている。少年は、壁の一点を凝視していたが特にそれ以上は何もせず部屋を後にした。もう一人の少年は何か言いたそうではあったが、大人しくそれに続いた。そして、再びエレベーターへと戻ってきた。
「このエレベーターのボタン、ある順序で押さないと元の場所に戻れないんですよ」
少年の一人がそう言うと、もう一人の少年がボタンを押そうとしていた手を止めた。
「何か法則でもあるのか?」
「法則というか、ボタンを押す回数は三回なんですけど、誕生日がキーになっていて・・・」
そこまで言ったところで、もう一人の少年がボタンを押した。エレベーターは何の抵抗もなくすんなりと動き出す。そして、元の場所へと戻っていた。
「どうしてわかったんですか!?」
「どうしてって、お前がヒントくれたんだろ?」
「ヒントと言っても・・・」
「あれだけで十分だろう?俺は、一連の関係者の経歴は大体頭に入ってるからな。だったら簡単だろ?」
「どういうことですか?」
「あの親子に関係してるなら、どちらかの誕生日が鍵なんだろう?父親の方は歪だがそれでも最大限の愛情をもってアイツと関わろうとしてた。どんなことでもいいからアイツと繋がっていたいという思いが感じられたからさ。お前は、父親の方の誕生日知ってるか?」
「いえ・・・」
「五月十四日だよ。お前がどうやってその答えにたどり着いたかは知らないけど、単純な話だったってだけだ」
「五月、十四日・・・。514!」
自分が色々と理屈をこねくり回してたどり着いた答えだったが、本当に単純なことだったみたいだ。改めて畏敬の念を込めて目の前の少年を見る。そして、その当の少年は決意を込めて目でこちらを見た。
「それより、やっぱりここを俺たちの拠点として使わせてもらおう」
少年の瞳は、固い意志を宿してはいるが、その実、目の前の少年を通り越してどこか遠くを見据えているように見えた。その瞳を受けて、もう一人の少年は頷いた。それは、ただ自分が憧れ続けている少年の願いを叶えるためだけではない。心に大きな傷を負った少年の危うさを見落とさないためだ。少年から離れるつもりは毛頭なかったが、自分がずっと側にいると改めて心に誓った。
~数年後~
子供たちの間で囁かれる噂があった。
自分ではどうしようもないような問題を抱えている子供たちに訪れる不思議なメロディー。それに導かれるように子供たちはある場所へと誘われる。そこは、招かれた者しかたどり着けない場所。そこにいるのは、二人の若い男性。彼らは子供たちの問題を無償で解決してくれるという。
本当に何の対価も必要ないのか?それを知っているのは実際にその場所を訪れた者のみ。ただ言えるのは、問題を抱えた子供たちは一様に自分が問題抱えていたことすら覚えていないようにその後を過ごすことになるということだ。
カランカランカラン♪
今また誰かが彼らの元を訪れる音が聞こえる。
「あれ?ここどこだろう?」
一人の少女が不思議そうにあたりを見渡す。そこは、どこかのビルの廊下のようだった。そして目の前には意匠の凝った扉があった。上部にすりガラスが嵌めてありそこにはこう書かれていた。
『R2探偵事務所』
少女は吸い寄せられるようにそのドアを開ける。
「お邪魔します・・・」
少女は、恐る恐る中へと入っていた。
「ようこそ。R2探偵事務所へ」
「話を聞かせてくれ」
中では、二人の青年が少女を迎え入れた。そこには、とても穏やかな空気が流れていた。緊張気味だった少女の顔に笑顔が広がる。
「はい!」
ドアは静かに締まる。その先はまた別のお話。だけど、続いている、そして、続いていくお話。
~完~




