国立国会図書館が目指すこと

倉田 敬子
(国立国会図書館長)
国立国会図書館は,国会議員の立法活動を適切な資料を根拠として補佐するための国会図書館として,またそれら収集した資料を国会議員だけでなく広く国民に提供する国立図書館として1948年に設立された.国会図書館としての活動は知らない方も多いと思うが,国会議員等からの依頼に基づく調査回答は約3万3千件に上る(2024年度).一般の来館利用者数は年間約67万人であるが,国立国会図書館はどちらかといえば,ほかの図書館が所蔵していない資料を最後に頼る場所,last resortと認識されてきたといえる.
立法活動を補佐し,last resortとなるべく当館が構築してきた「知の基盤」の核となるのが,納本制度を通じて網羅的に収集してきた国内出版物である.図書に関しては99%の納入率であり,雑誌や非図書資料を合わせて当館の所蔵点数は4,811万点を超えている.一方,社会における情報の流通がデジタルの方向に進みつつある中で,印刷出版物のデジタル化とデジタル資料の収集は,1998年の「国立国会図書館電子図書館構想」以来,当館にとっての大きな課題であり続けている.
現在の「国立国会図書館ビジョン2021-2025 ─国立国会図書館のデジタルシフト─」では,7つの重点事業を掲げているが,特に「デジタルシフト」として所蔵資料のデジタル化に取り組んできた.2025年度末までの5年間で,当初の目標を遙かに超える約170万冊の国内刊行図書のデジタル化が完了する見込みとなっている.著作者,出版者,関係者のご理解と補正予算による支援があって初めて可能となったことである. デジタル化した資料は電子書籍・電子雑誌等と一緒に「国立国会図書館デジタルコレクション」で提供しており,デジタルで読める資料の総数は657万点に上る(2025年9月末時点).そのうち,インターネットを通じて公開している資料が205万点,登録利用者・図書館へ送信できる資料が232万点,館内限定で利用できる資料が220万点である.
Webサイトの収集は,公的機関や学術雑誌で許諾が得られたものから開始し,2010年からは公的機関のWebサイトの網羅的な収集を行っている.固定されてモノとして流通する出版物と異なり,Webサイトは常に更新され続けるものであり,誰もがそこから情報を発信することが容易なメディアであるだけに,民間のものも含めて網羅的に当館が収集しアクセスさせることには著作権の問題だけでなく,社会全体の理解が得にくい点があった.しかし,WebサイトやSNSが今や社会全体に大きな影響を与えていることは明白であり,変化し消滅しやすいこれら情報を何らかの形で将来に向けて保存することは喫緊の課題といえる.
印刷出版物もデジタルで生み出され流通する情報も,当館だけでなく多くの図書館,関連機関との連携を通じて,適切に保管し皆がアクセスできるようにしていくことが当館の役割であり,社会全体の動きに比べれば遅々とした歩みかもしれないが,100年後という遠い未来の人々へこの時代の想いを託せることを信じて進んでいきたいと考えている.
(「情報処理」2026年3月号掲載)
■ 倉田 敬子
1958年東京生まれ.慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了.文学研究科委員長,文学部長を務め,慶應義塾大学名誉教授.専門は学術コミュニケーション,情報メディア.主な著書に『学術情報流通とオープンアクセス』など.
