あえて、選択肢を用意する
あえて、「このアプローチはAとB、どっちのアプローチにしましょうか」と選択肢を提示することがあります。
僕の中では「この方法しかないよな…」と思っていても、あえて複数案を出して説明することにしています。
今回は知っていると便利なハック的なものを紹介します。
なぜ一択にしないのか
例えば、新しいサービスの技術選定で「TypeScriptを使うか、JavaScriptのままでいくか」という議論があったとする。僕の中では明らかにTypeScriptを選ぶべきだと確信しているのですが
相談されたときは必ず下記のように答えます。
「TypeScriptとJavaScriptの2つの選択肢がありますね。それぞれのメリット・デメリットを整理してみましょう」
そして両方の特徴を丁寧に説明する。TypeScriptは型安全性があってエラーも気づきやすい。開発してて明らかに恩恵は大きいです。一方でJavaScriptはすぐに始められる。ただし長期的な開発効率を考えると...という具合に。
最後に「僕としてはTypeScriptをお勧めしますが、最終的にはチームで決めてください」と締めます。
選択肢を用意する理由
1. 納得感が違う 自分で選んだという納得感
「TypeScriptにしましょう」と一方的に言われるより、選択肢を比較した上で選んだ方が納得感が高い。特に技術選定のような重要な決定では、プロセスが大事だと考えてます。
2. 反対意見を先回りできる
Bという選択肢のメリットも説明することで、「でもJavaScriptの方が簡単じゃないですか?」という反論を先回りして潰せる。すでにその観点も検討済みだということを示せます。
よくあるあるなのが、別の人に後から「◯◯もあるんじゃないの?」と言われたとしても検討済みということを示すことができたり、他の意思決定者も安心感を持つことができます。
また、多少なりとも検討プロセスが存在することで後から「勝手に決めた」と言われる可能性を減らすことができます。
3. 決定に参加した感覚を持てる
最終的に相手に選ばせることで、押し付けられた感がなくなる。自分たちで選んだという感覚があると、その後のコミットメントも高くなる。
実際の使用例
技術的負債の解消提案
技術的負債を抱えたプロダクトの改善提案でも使ったりします。
例えば、技術的負債の解消で現状だと実質的には選択肢がほとんどないような状態の時でも「フルリプレイス」「継続的改善」「現状維持」のような3つの選択肢を提示することが多いです。
実はこれにはトリックがあって、多くの場合、デフォルトは「現状維持」になっています。つまり何もしないという暗黙の選択を現在はしているわけなんですが、あえて選択肢として明示することが有効です。
例えば以下のような感じで説明しています。
「3つの選択肢があります。フルリプレイスは一気に問題を解決できますが、6〜9ヶ月の開発期間があり、リスクもあります。継続的改善は徐々に改善していく方法で、リスクは低いですが今抱えている大きな負債を解決するためには1年以上かかるかもしれません。現状維持は今抱えている問題を抱え続けることになります。」
現状のデフォルトとなっている選択肢も一緒に提示することで「選択しない」という選択ができなくなる。暗黙的だった「何もしない」という選択肢を表に出して比較対象にすることで、「何もしない」がいかに良くない選択肢かを認識してもらえる。
この手法が効果的な場面
組織での意思決定: 特に複数のステークホルダーがいる場合
技術選定: 長期的な影響が大きい決定
新しいツールの導入: 抵抗感を減らしたいとき
この手法の心理学的背景
実はこの手法には、行動経済学や心理学の裏付けがあります。
ナッジ理論と選択アーキテクチャ
僕がやっているのは、行動経済学でいう「ナッジ」の一種です。強制せずに人々の行動を望ましい方向に誘導する手法で、選択肢の提示方法(選択アーキテクチャ)をデザインすることで、相手の意思決定に影響を与えるものです。
現状維持バイアスの無力化
人間には「現状維持バイアス」という心理的傾向がある。変化を避けて今の状態を維持したがる心理です。技術的負債の例では、このバイアスが「何もしない」というデフォルト選択を生んでいます。
でも、その暗黙のデフォルトを「現状維持」という明示的な選択肢にすることで、このバイアスの影響力を弱めることができます。
コミットメント効果
自分で選択したことには、より強い責任感とコミットメントを持ちます。これを「コミットメント効果」と言います。押し付けられた決定より、自分で選んだ決定の方が、納得感もあるし、その後の行動につながりやすいです。
注意点
注意点もあります。
明らかに危険な選択肢や、倫理的に問題がある選択肢は提示していないです。例えば「セキュリティを無視して開発スピードを優先する」みたいな選択肢は論外です。
また、時間がない緊急の場面では使わない。素早い決断が必要なときは「これでいきましょう」と明確に方向性を示します。
まとめ
「あえて選択肢を用意する」というのは、一見回りくどいように見えるのですが、経験上、重要な決定ほど、選択肢を用意した方が良い結果につながることが多く、結果的に議論する時間を減らすことができたりします。
特にAI時代になって変化が激しい今、新しい技術やツールの導入には抵抗感を持つ人も多い。そんなときこそ、選択肢を示して納得感を持って進めることが重要です。
結局のところ、正しい答えを知っていることと、それを受け入れてもらうことは別の話。受け入れてもらうことの方が実は難しくて、そのための工夫として「あえて、選択肢を用意する」という手法を使っている。
特に技術的負債の解消のように「やらない」がデフォルトになっているケースでは、その暗黙の選択を明示化することが重要です。選択肢として並べることで初めて、それぞれの結果を冷静に比較できるようになります。
こういうハックは知っているか知らないかで効率が違ったりするのでオススメです。
プロダクトマネジメントやソフトウェア開発でお困りごとありましたら、問い合わせいただけると幸いです。
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