提供:HPE
JT×HPE
日本たばこ産業(JT)が医薬品事業で「AI(人工知能)創薬」の取り組みを加速させている。目指しているのは「ファースト・イン・クラス(画期的新薬)」創出だ。医薬総合研究所の畑貴広 i2i-Labo 副所長と舘野賢 最高科学責任者(CSO)に狙いや現状を語ってもらうとともに、その取り組みを支える日本ヒューレット・パッカード(HPE)の望月弘一社長にAI活用を成功に導くヒントを聞いた。

―JTの医薬品事業が目指すビジョンは何ですか。
畑我々の目指す姿は「科学、技術、⼈財を⼤切にし、患者様の健康に貢献します」という医薬事業部パーパスに集約されています。継続的にオリジナル新薬を創出することが我々の存在意義であり、研究開発を中心に据え、病気で苦しむ世界中の患者様へ1日も早く画期的な新薬を届けたいと考えています。
―4年前から高性能コンピューター基盤(HPC)を導入し、創薬プロセスの変革に取り組んでいます。
舘野キーワードは「AI創薬」です。AIの研究開発には今後も大きな発展が見込まれますが、創薬への応用には難しい面もありました。その中で我々はAI創薬の戦略を明確に打ち出した上で研究を進めています。そのためAI創薬の肝心な部分を効率よく開発できていると思います。

生成AI「Chat(チャット)GPT」が急速に普及しているのは、電子データがウェブ上に山のように存在し、これを集めて言語モデルに活用できるからです。一方、創薬ではヒトのデータが必要であるために十分なデータの確保が難しい。AIを動かすための膨大なデータ自体を生成する必要があり、その点が根本的に異なります。それらは大規模な計算となり、スーパーコンピューター(以下、スパコン)が日常的に必要です。
シミュレーションを実行し、得られたデータをAIに学習させて初めて創薬のためのAIが構築されますが、この4年間でいくつものAIを創り出すことができました。論文の出版とともに一般公開したAIもあります。
―2023年にi2i―Laboを立ち上げた狙いは何ですか。
畑「革新的創薬技術の実装による次世代創薬の実現」のため、AI創薬技術の本格的な実装を目指して新設しました。4年前から進めてきたAI創薬技術の独自開発と人財育成が実装ステージに入るタイミングでの創設になります。
AI創薬の実現には、ドライ研究とウェット研究の緊密な連携が不可欠であり、ドライ研究を担当する「計算科学」チームと、ウェット研究を担当する「化学」・「生物」チームが緊密に連携し、化合物のデザインから合成、生物活性データの取得から解析までを1つの研究所でシームレスに実施しています。
創設から1年たち、立ち上げ期から成果を出すステージにシフトしています。
舘野実験では現実の過程が見えないため、現象の詳細がよくわからないこともあります。実験で生じているそうした変化を、AIによる解析により一層ダイレクトにつかまえられるようになってきました。何が薬のターゲットになり得るかなどのデータもAIと組み合わせて解析することで獲得できる可能性があります。
―新薬ができるまでには多くのプロセスがありますが、AIによる恩恵が見込めるのはどの部分ですか。
畑現在は、化合物創出プロセスに力点を置いていますが、AI技術は、トランスレーショナルリサーチなどを含む全ての創薬プロセスにおいて革新的な変化をもたらすポテンシャルがあると考えています。
舘野創薬には様々な工程があり、ほぼ全てのフェーズでAIによる革新が起こり得ると思います。それらのAIの統合的なシステム化が我々の目標であり特徴でもあります。
―どのような考えでAI人財の育成に取り組んでいますか。
畑創薬人財とAI人財を2つに分けるのではなく、創薬のドメイン知識を持っている人財がAIを基本から学ぶというアプローチを取っています。
舘野AIを事業で有効活用するには、その分野の内部でAI人財を創り出すことが大事です。遠回りのようですが、こちらのほうが結局は近道です。そのため、AI創薬に必要な数理科学の学習カリキュラムを創り出し実践しています。
―AI創薬の取り組みの中でパートナーのHPEはどのような存在ですか。
舘野AI創薬の情報基盤は4年間で2回増強しています。それら独自のシステム設計のためにHPEの皆さんに大変サポートいただきました。最先端の技術が急速に進化する中、我々のAI創薬戦略にマッチしたシステムを提供していただけるよう、今後も期待しています。
我々独自の創薬は、「基本原理」からデータを生成し、それをAIに学習させる点がまず重要です。ハードだけでなく、ソフト、アルゴリズム、理論も同時に進化しており、これらをリアルタイムに開発・導入していくためのサポートを引き続き期待しています。
HPEは活用フェーズに合わせた支援を提供
日本ヒューレット・パッカード合同会社 代表執行役員社長 望月弘一氏
AIを活用してデータ分析を加速し、ビジネスを変革することは、すべての企業に共通する課題です。HPEでは活用フェーズに応じたデータ活用戦略やAI戦略をこうした企業に提供しています。
スパコンのリソースをクラウド型で提供することでインフラまわりの負担を減らし、顧客がモデル開発に専念できるようにしているほか、モデル開発の生産性を向上するためのソフトウエア技術「MLDE(機械学習開発環境)」も提供しています。さらに米国にあるラボで長年蓄積してきたAIに関する知見を、顧客の要望に応じて様々な形で提供・共有するための取り組みなども進めています。
JTはAIの活用が進み、開発の生産性とスピードを重視する拡張フェーズにあり、我々はシステムの提供だけでなく、コンサルティングや運用面を通じた支援もしています。今AI自体がバズワード化していますが、JTのケースは地に足の付いた取り組みで、実際に効果も出始めているという点でモデルケースといえるでしょう。マネジメント層からの強いリーダーシップがあり、それが現場に浸透している。実際にビジネスがわかっている創薬人財がAI活用のスキルを習得するというアプローチも良い効果を生んでいると思います。
AI活用で最も重要なのはシステム基盤のデザインから構築、運用管理までを統合的、効率的に管理することです。この各段階で継続的にサービスが提供できるのが我々の強みといえます。2年連続でスパコン世界最速となった「フロンティア」では性能を最大化する過程で、電力使用の極小化やクーリングシステムなどの技術を蓄積したほか、高速ネットワーキング技術にも磨きをかけました。これらのノウハウがJTの支援にも役立っています。
JTのAI創薬に向けた取り組みをパートナーとしてどう支えているか。最前線に立つ3人に話を聞いた。

―今回の経緯を教えてください。
小林この領域でゲームチェンジをしていくため、スパコンによるシミュレーションを活用した今までにない創薬プロセスに挑戦するということで、JTから声をかけていただき、2020年にプロジェクトへ参画しました。創薬プロセスを根底から覆すアプローチであり、実実験ではなく、シミュレーションを増やし、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からもAI創薬のあるべき姿の一つの形を示すプロジェクトだと思います。
―パートナーとしての支援内容はどうですか。
我々がJTに提供したのは「スパコンのノウハウ」「ミドルウエア」「創薬プロセス管理」の3つで、創薬に関して必要とされるITの各フェーズで支援させていただいています。

岡田今回のプロジェクトには私が所属するスパコンのチームと顧客を理解したアカウントチームに加えて、シミュレーションに必要なアプリケーションや基盤のあるべき姿をよく知っている化学の専門家やバイオインフォマティクスの専門家も参画しています。常に新しい課題が生まれてくるプロジェクトですが、オールHPEで対応する体制が組めたことで、こうした課題に対応できていると感じています。
―これまでの状況を教えてください。
非常に難しい挑戦にもかかわらず、これまでは当初計画以上に順調に進んでいます。HPEもITの観点ではこの領域における専門性は持っており、武器として必要となるITインフラを提供することはできましたが、やはりJTが我々に対して創薬に関するドメイン知識を植え込んでくれたことがプロジェクトのうまく進んでいる要因だと思います。
―JTではAI人財育成も重視していますが、この分野ではどんなサポートをしていますか。

山本AI人財の教育プログラムは我々自身も用意していますが、このプロジェクトではJTの要望に応えるために、テーマに合ったものをこちらで選定して提供するといったこともしています。長年、国内外で培った大規模なスパコン導入・運用から得た知見により、業界を問わずシミュレーション&AIワークロード全体を俯瞰(ふかん)して、各お客様に最適化されたシステムのご提案をできることが当社の強みです。