開学25周年
現場知る本物を育てる
人手不足や技術継承など、日本のものづくりが転換期を迎える中、ものつくり大学(埼玉県行田市)が存在感を増している。2001年の開学から25周年を迎える同大が一貫して掲げるのが、理論に偏らない実習中心の教育だ。27年度には情報メカトロニクス学科と建設学科でコースを再編、産業界をけん引する次世代のものづくり人材の育成を強化する計画だ。4月に新学長に就任する工学博士の佐藤勲氏は「現場を知る本物を育てる」と意気込みを語る。
- 佐藤勲
- ものつくり大学 新学長
新学長インタビュー
起業家精神備えた即戦力以上の人材に
――実習中心の教育の意義をどう考えていますか。
技術は手法などの概念・知識を、技能はそれを使いこなす腕前を指します。本学は授業の約6割を占める実習を通じてものづくりの現場を体感し、知識と技能を結び付けることを重視しています。
「マネジメントの父」と呼ばれる米国の経営学者、ピーター・ドラッカーが名付けた本学の英文名称「インスティテュート・オブ・テクノロジスツ」にある「テクノロジスト」という言葉は、知識や理論を生かす実践的なものづくりができる人材を意味します。開学当初と現在では求められるテクノロジスト像は変化しているでしょう。AI(人工知能)が広がるなど世の中の環境が変わり、社会の求めるものも複雑化しているからです。そうした中で、多様なニーズや現場の理屈を肌で理解し、テクノロジーと生産現場をつなぐ「現場が分かるマネジメント人材」を世に送り出すことが本学の使命です。
――教育で大切にしていることは何ですか。産業界からの評価はいかがですか。
「本物」に触れることを重視しています。最新鋭の工作機械などを使い、建築の実習では実際に家を建てます。講師の多くは第一線で活躍する企業人なので、教える側も「本物」。40日間のインターンシップなどを通じて現場の匂いを嗅ぎ、組織の一員として責任を果たす経験も積みます。こうした学びにより、卒業生は現場の言葉が通じる「即戦力以上の人材」として企業から高く評価されています。
――今後の展望について教えてください。
日本は「ものを形にする力」を失いかねない状況にあると危惧しています。米国が中核の製造機能を失い苦慮している状況は、他人事ではありません。企画を含めて製品を形にできる高度技術者・技能者の育成が急務です。
そこで本学は、2027年度から教育体制をさらに進化させます。企画型の授業を拡充し、やりたいことを形にするだけでなく、フィードバックを受けて改善していけるアントレプレナーシップ(起業家精神)を育む教育を強化します。学生には、自分は何をやりたいのかを常に考えてほしい。本学はその夢や希望の実現に最も近い大学でありたいと願っています。
ものつくり大学の独自の教育システム
ものつくり大学は、ものづくりをけん引するリーダー人材育成のため国、自治体、産業界、労働団体の支援を受けて2001年に設立された。情報メカトロニクス学科と建設学科がある。授業の約6割が実習・演習で、実際に手と体を動かして「つくる」ことに重きを置いているのが特徴だ。企業から派遣された約360人の非常勤講師が、現場の生きた技能や心構えを直接伝授。プロ仕様の工作機械や巨大な建設実習場など設備も充実している。40日間のインターンシップを通じて現場感覚も養う。
27年度にはコース再編を予定。情報メカトロニクス学科は「機械デザインコース」を「創造デザインコース」に改め、3次元プリンターを設計・製作する演習や循環型ものづくりなどを学ぶ授業を実施する。建設学科は「仕上・インテリアコース」を「インテリア・リノベーションコース」に、「建築デザインコース」を「建築環境デザインコース」に変更。家具などインテリア系実習のほか、サステナブル(持続可能な)建築設計などを学べるようにする。
卒業生が語る「一生ものの武器」
知識と技術つなぐ力
会社では主に産業設備・機械の安定稼働を支える制御盤などの構造設計を担当しています。
大学では理論を学ぶだけでなく、実際に手を動かして経験を積むことで、知識と技術をつなぐ力が養われたと感じています。特に印象に残っている授業は3年次の「創造プロジェクト」です。この実習は5人1組で、まだ世の中にないものを創造します。ゼロから企画、設計し、形にして商品化提案まで行いました。これは会社での仕事の進め方そのもの。とても実践的な学びでした。
学生主体で製品開発などに取り組むプロジェクト活動も有益でした。1人にできることは限られます。仲間や教職員の方々と協力して課題を解決する中で、コミュニケーションの大切さを知りました。
私は入社5年目。周囲から「この分野は田島に相談してみよう」と信頼される技術者を目指して、日々研さんを積んでいきます。
工場の景色変える
自動車生産設備の設計をメインに担当しています。次世代の生産ラインを支えるロボットアームなど新技術の検討・開発も行います。
普通科高校出身の私にとって、ものづくりのための材料や工作機械、広い作業空間がそろう大学の環境は衝撃でした。そこで実際に手を動かし、モノがどう作られるか肌で知った経験が、揺るぎない基礎となっています。座学で得た知識も欠かせない武器です。
「NHK学生ロボコン」での優勝を目指す学生プロジェクトに所属し、制御や回路を担当したことも貴重な体験でした。チームで役割を分担し、いかに勝ち筋を見いだすか。そこで得た達成感や大学の枠を超えたエンジニア同士のつながりは、今も私を支えています。
自動化技術などにより、特に若い世代が「ここで働きたい」と思えるように工場の景色を変えていきたい。その挑戦の原動力は、大学が教えてくれた、ものづくりの楽しさです。
失敗も成功体験に
私は商業高校出身ですが、将来を見据えてものつくり大学に進学しました。特に印象的だった授業は、自ら作ったコンクリート試験体を壊す破壊実習です。座学の知識が実際の鉄筋とコンクリートで可視化される経験は、現在の仕事にもつながる貴重な学びでした。
設計や環境計画など建築の基礎を幅広く学べたことも財産です。チームで協力して行う実習では、自然とコミュニケーション力や協調性が磨かれました。実際にモノをつくる経験をすることで作業に必要な手順・勘所などを身につけることができ、仕事をするうえで、職人さんや協力会社の皆さんと信頼関係を築きやすくなったと思います。
建築は経験工学といわれます。失敗も将来に向けた成功体験で、その失敗を次に生かすことが肝心です。施工管理担当として入社して7年。将来は現場責任者となり、子どもに自分の携わった建物を見せたい。失敗を恐れず挑戦を続けることで、その夢に近づいていきたいです。