Leading Transformation

サンリオのデザイン監修をAIで効率化 業務時間を削減し高付加価値業務に注力

「ハローキティ」など人気キャラクターを豊富に保有し、世界でライセンス事業を展開するサンリオ。事業の拡大に伴い、デザイン監修の負荷が高まっていた。ライセンス提供先の企業から商品に用いるキャラクターの画像が届いた後、その画像が適切かどうかをチェックする業務である。サンリオはNTTデータとともに、監修プロセスにコンテンツ認識機能を持つAI(人工知能)を中核とするシステムを導入。大きな効果を見込んでいる。

ライセンス提供件数の増加に伴い
デザインチェックの負荷が増大

誕生から半世紀を迎えた「ハローキティ」をはじめ、様々なキャラクターを世界で展開するサンリオの事業拡大が注目されている。2024年度の中間決算では過去最高益を更新。好調な国内事業に加えて、海外事業の急成長が業績をけん引している。

キャラクター商品の物販事業とともに、様々な企業にIP(知的財産)を提供するライセンス事業は、サンリオのビジネスの重要な柱の1つである。全社レベルでデジタルトランスフォーメーション(DX)が進行する中で、ライセンス事業においてもデジタルをテコにしたビジネス変革、生産性向上などの施策が実行されている。

田中 龍太郎 氏
株式会社サンリオ
事業戦略本部 デジタルデザイン部
シニアマネージャー
田中 龍太郎

代表的なケースが、ライセンス事業におけるデザイン監修業務へのAI適用である。ライセンスを提供する商品やキャラクターの種類が増えるにつれて、提供したキャラクターが適切にデザインされているかをチェックするデザイン監修業務の負荷も増大する。「現在、クライアント(ライセンシー)とのライセンス取引件数は年間約12万件になります。このチェックをデザイナーなどの担当者が手作業で行うのは、とても大変です」と語るのは、サンリオ 事業戦略本部 デジタルデザイン部 シニアマネージャーの田中龍太郎氏である。

ライセンス件数は、今後さらに増大することが予想される。そこで課題解決に向けた提案を行ったのがNTTデータである。NTTデータの宮下徳仁氏はこう説明する。「私たちは長年培ってきた技術にAIなどの最新テクノロジーを組み合わせることで、常に技術に磨きをかけて最適なソリューションとして提供できるよう日々取り組んでいます。具体的には、たとえば楽曲認識の分野では、NTT研究所が世界に先駆け開発したコンテンツ認識の技術をベースにして、約20年磨きをかけながら放送コンテンツにおける音楽著作権処理を支えています。また最近ではベースとなるコンテンツ認識の技術とAIを組み合わせることで、映像制作や個人情報保護など非常に精度が求められるシーンでの適用など技術活用の幅を広げています。サンリオ様に対して類似物体を含むコンテンツの認識・識別というNTT独自の強みを生かすことで、デザイン監修業務を効率化できると考えました」

ライセンシー企業の商品に使われる画像データをAI搭載のシステム側で解析し、サンリオの持つマスターデータを特定する。また、デザインデータ間に一定の差異があれば、該当箇所をハイライトしてユーザーに知らせる。このソリューションにより、デザイン監修業務の効率化を目指した。

「デザイン監修に要する時間を削減し、クライアントとのコミュニケーション、あるいはクリエーティブ業務に充てる時間を増やしたい。それがAI導入を決めた理由です」と田中氏は狙いを話す。

AIによる画像判定のイメージ 画像の違いをAIが判別する

高精度の実現だけでなくUI/UXにも注力
現場ユーザーが使いやすいシステムを

システム構築のプロセスは、いくつかのステップを踏みながら前進した。2023年度にまず技術評価が実施された。

「NTTデータの提案はデザイン監修業務の実フローを熟知した内容になっており、現場で活用できそうだという感触を得ました。その上で、2024年度上期にキャラクターのデータを用いて、実業務への適合可否を検証しました」と田中氏は振り返る。並行して投資対効果の評価も行われた。田中氏はこう続ける。「デザイン監修業務でどの程度の工数を削減できるのか、その予測値をもとに十分な投資対効果が見込めると判断しました。また、サンプルデータを用いたテストでも一定以上の結果が得られたことで、本格導入フェーズに移行しました」

デザイン監修の実務で使い始めたのは2025年1月。今後、海外子会社への展開も視野に、順次システムを活用する拠点やユーザーを拡大する予定だ。

デザイン監修支援システムのAI搭載エンジンとマスターデータは、クラウド上に置かれている。ユーザーは手元の端末を操作し、ライセンシー企業から申請された画像データをチェックする。まだ使い始めたばかりという段階だが、田中氏によると「肌感覚では、8~9割の高い精度が出ていると思います」とのこと。今後、使えば使うほどAIはより高精度なものに進化していくことだろう。

精度だけでなく、使い勝手も重要だ。直感的な使い方ができるユーザーインターフェース(UI)/ユーザー体験(UX)の開発についてもNTTデータは注力した。

宮下 徳仁 氏
株式会社NTTデータ
メディア・情報サービス事業部
統括部長
宮下 徳仁

「サンリオ様の監修現場を何度も訪問させていただき、作業の視察や個々の対話を積み重ね、出入力しやすく視覚的に分かりやすいシステムづくりを心掛けました。アジャイル開発のスタイルで、試作品の確認と改良を繰り返しながらブラッシュアップしていきました」と宮下氏は説明する。

また、サンリオの要望により、申請のあったデザインのうち、キャラクター部分のみを自動的に選択する機能も加えられた。商品イメージやパンフレットなど、様々な形で活用される中でチェックすべき部分を抽出するには時間がかかる。1件当たりに要する時間はわずかでも、ライセンス取引件数が多いので掛け算すれば工数は大きい。このプロセスを自動化した。

「まだ一部での活用という段階ですが、業務の効率化は進んでいます。今のところ業務時間の17%削減を見込んでいます。また、現場からはマスターデータとの比較がラクになったという声をよく聞きます」と田中氏は語る。特に、まだ業務に慣れていない中途入社社員の場合、従来は膨大な画像から特定のものを選び出す作業にかなり時間がかかっていたという。その時間を短縮できた効果は大きいと、田中氏は指摘する。

デザイン監修業務の効率化により、当初の目標は現実化しつつあるようだ。

「クライアントとのコミュニケーションとクリエーティブにかける時間は、システム導入によって増えていると思います。ただ、そのビジネス効果を評価するには、もう少し時間がかかります」(田中氏)

海外拠点へのシステム展開を予定
他の業務領域においてもAI活用を検討

サンリオは、デザイン監修支援システムの海外拠点への展開も視野に入れている。海外企業へのライセンス提供が拡大しており、海外拠点でも監修業務の効率化が求められているからだ。システムの海外展開においても、NTTデータはパートナーとして伴走する。

Jani Pavlovic 氏
NTT DATA Italia S.p.A.
Media Expansion Program Lead
Jani Pavlovic

「世界各地の拠点でこのシステムを活用することで、より大きな効果が実現できるようしっかりサポートしていきたい。その際、世界50以上の国と地域で事業を行うNTTデータのネットワークが有効に機能すると思います」と宮下氏はいう。また、NTT DATA Italia Jani Pavlovic氏もサンリオ支援に意欲を示す。「先進技術活用とイノベーション創出に取り組むイノベーションセンターや、UI/UXなどのサービスデザイン領域に強いデザイン集団など、NTTデータの持つグローバルなケイパビリティを活用して、私たちはグローバルでもワンチームでお客様をサポートしています。サンリオ様に対しても、その価値創出に貢献できればと考えています」

さらに、宮下氏はIP産業が置かれる状況についてこう指摘する。

「サンリオをはじめとするキャラクター、IP産業においては、生成AIの登場により、さらに高度な侵害品が出てくるようになってきています。対策の高度化も進んでいますが、今後も対策、侵害品、双方の高度化が進んでいくと考えられます」

この分野でも画像を高精度で認識・検知するAIの役割が期待されている。

「AIに限らず、様々な技術をどの領域で活用できるか、私たちは検討を続けています。デザイン監修でのAI活用の成果を確認しながら、侵害品対策など他業務の高度化への応用も考えていきたい」と田中氏は話す。

今回のプロジェクトはサンリオ、NTTデータの双方にとってチャレンジである。そもそも、デザイン監修支援システムという概念そのものが、これまで存在していなかった。新しい領域を切り拓いたのである。「まずは、サンリオ様における本格運用で、目に見える効果を確実に出し続けることが重要です。また、NTTデータはお客様の経営課題をデジタルも活用しながら解決し、お客様の成果創出に伴走する会社です。今後もサンリオ様にとっての成果創出に向け、ともにチャレンジを続けていきたい」と宮下氏は語る。その上で、日本のコンテンツ産業を、もっと元気にしたいという。サンリオのように、やり方次第で日本のコンテンツビジネスはもう一段、二段と成長できると宮下氏は確信している。

マンガやアニメなどを含め、日本のコンテンツへの世界からの評価は高まっている。そんなコンテンツ産業の一層のパワーアップに、NTTデータはこれまで以上に貢献したいと考えている。

左より田中 龍太郎 氏、宮下 徳仁 氏
「AIの侵害品検知への応用も考えていきたい」(田中氏)
「日本のコンテンツ産業をもっと元気する手助けをしたい」(宮下氏)