Leading Transformation

AI時代の人材と組織の未来予測 問いを立て、AIを使いこなし、ノンAIで思考できる人材・組織へ

生成AI(人工知能)やAIエージェントの登場によりビジネス環境が激変し、ホワイトカラー業務の多くの領域でAIによる代替が進みつつある。そうした時代に企業が持続的成長を遂げていくために、人間とAIはいかに共存していくべきだろうか。AIとともに活躍できる人材をテーマに、AIX partnerの野口竜司氏と、NTT DATAの本橋賢二氏が語り合った。

ホワイトカラー業務を
代替しつつあるAI

――昨今のAIの進化をどのように見ていますか。

野口 竜司 氏
AIX partner株式会社
代表取締役
野口 竜司

野口:簡易的なテストではありますが、最新のAIモデルは「130」に近いIQスコアに到達しているとの報告もあり、特定の認知タスクにおける能力の高さは注目に値します。さらに、マルチモーダル機能も大きく発展しました。テキストだけでなくスライドやダイアグラムなどを作成できる能力が、2025年に格段に向上したと感じています。「AIは図解が苦手」と言われていた時期からは信じられないほどの進歩があり、ブレイクスルーを遂げたと言えるでしょう。

――AIの進化は、ホワイトカラーの業務にも大きな変化をもたらすと考えます。さまざまな業界の企業と接する中で変化は感じますか。

本橋:いろいろなホワイトカラー業務が存在しますが、これまであまりIT化が進んでいませんでした。それがAIによって大きくトランスフォームし、すべての業界で変化を起こしています。IT業界を例にとれば、NTT DATAではさまざまなソフトウェア開発を手がけており、これも典型的なホワイトカラー業務です。24時間365日稼働できるAIは、コード生成やテストの精度も高いことから、すでにかなりの部分で活用が進んでいます。

ただし、AIは以前に指示したことや、過去のコンテキストを覚えるのが苦手という課題もあります。毎日新たなスーパープログラマーがやって来るようなもので、この状況を新たなテクノロジーも活用しながらマネジメントできるようになれば、AIへのソフトウェア開発業務の置き換えは十分可能と感じています。

本橋 賢二 氏
NTT DATA AIVista
Chief Strategy Officer
本橋 賢二

――グローバル全体では、どのようなビジネス変化が起きているのでしょうか。NTT DATAでは、「2026 Global AI Report:A Playbook for AI Leaders」という調査報告を公開していると伺いました。

本橋:本レポートは、35の国と地域の経営幹部を中心とした2500名以上を対象に、AI先進企業の特性・成功要因を分析したものです。この結果によれば、明確なAI戦略を持ち、高度な運用モデルを用いて先進的にAIを活用している企業はグローバル全体で約15%に達しています。そして、これらのAIリーダー企業は、他の企業群と比べて、売り上げ成長率が10%以上になる確率が約2.5倍、利益率が15%以上となる確率が3.6倍高いという顕著な差が表れています。

ただ、裏を返せば大半の企業が成果を出せていないのも事実で、PoC(概念実証)で止まっているケースも多く見られます。AIは日々進化していくため、それを意識して繰り返し学習させることが必要ですが、ほとんどの企業がそこまでできていないのが現状です。AIリーダー企業となるための最低条件として経営層が経営アジェンダとしてAI活用を掲げ、そのためのリソースを確保することが基本になります。

NTT DATA Global AI Report“AIリーダー企業”は全体の約15% AIリーダー企業は10%以上の売り上げ成長が2.5倍 15%以上の利益率が3.6倍
資料:NTT DATA

――ビジネスの世界だけでなく、消費者市場においてもAIは大きな変化をもたらしていますか。

野口:AIをまとった消費者が、さまざまな市場を急速に変革し始めていると感じます。例えばECサイトでは、AIアシスタントが商品選択から決済までを支援する機能が実用化され始めています。「マシンカスタマー」と呼ばれるAIが、意思決定をサポートするケースが増えているのです。こういった背景から、特に無形サービスを提供する業態は、今後数年でビジネスモデルの根本的な見直しを迫られる可能性が高まっています。

AI時代に求められる
「ノンAI」思考とは

――あらゆる業界も消費者市場も、AIによってさらに目まぐるしく変化していくのはもはや間違いなさそうです。そうしたAI共存時代において新たな価値を創造できるのは、どのような人材でしょうか。

野口:AI共存時代にもなくならない仕事の本質は、「問い(イシュー)の発見と定義」「情緒的価値・モチベーション管理」「最終的な意思決定と責任」の3つに集約されます。AIを活用するだけで満足せず、常にこの原点に立ち返ることが求められます。

そして2~5年後の近未来には、自律化するAIエージェントをマネジメントする能力が極めて重要になると考えます。私自身もGemini、ChatGPT、ClaudeなどさまざまなAIを使い分けていますが、同じタスクを並行して処理したり、ワークフローを設計したり、AIごとの特性を理解したうえで、ユースケースに応じた活用を図ることで、生産性が大きく向上することを実感しています。

さらに10年後を見据えると、ホワイトカラーはAIを高度に活用することで、より広範囲な仕事を効率的にこなせるようになる一方で、AIがなかった頃の発想ができなくなるという課題も生じる可能性があります。したがってAIがなくても自ら課題を設定し、意思決定や発案ができるかどうか――。AIに頼らず自分自身で考え抜く、いわば「ノンAI」モードで思考できる人材こそが、最も重要視される時代が訪れるのではないでしょうか。

価値の源泉は3つに集約される。AI時代に「なくならない仕事」の本質 1.「問い(イシュー)」の発見と定義 2.情緒的価値・モチベーション管理 3.最終的な意思決定と責任
資料:AIX partner

本橋: AIにきっかけを与えられるのは人間ですので、野口さんのおっしゃったことに加えて、創造的な部分はこれからも人間が担う部分だと考えています。そのためには、アイデアを継続的に生み出すことのできる能力が必要になります。人間が人間としての価値を出していくための仕組みづくりや投資が今後ますます重要になってくると感じています。

左より野口 竜司 氏、本橋 賢二 氏

AI活用が標準化した先の
組織像

――AI活用が事業活動の礎となる時代を見据え、NTT DATAではどのような人材育成に注力していますか。

本橋:コンサルタント/営業、開発エンジニア、バックオフィスの担当者など、業務や役割に応じたスキル開発に注力しています。当初は生成AI活用実践人材を7万人ほど育成する計画でしたが、予想以上のスピードで目標を達成できました。そこで現在は、全社員20万人を生成AI実践人材にするという方針に切り替え、2027年度までの達成をめざしています。また、先ほど述べた”アイデアを継続的に生み出すことのできる能力”を育てる場合、従来型の研修では育成が追いつきません。当社では、そのような能力をもつ人材が生まれる環境を体系化し、未来型の育成プログラムや仕組みづくりにも着手しています。

生成AI人財の育成 ●スキルの高い専門家を効率的に育成するフレームワークを策定 ●スキルの高い専門家を効率的に育成
資料:NTT DATA

――育成を急ぐ背景には、どのような思いがあるのでしょうか。

本橋:私たちは、AIによるディスラプティブ(破壊的)な影響を最も大きく受けるのが当社であるという危機感を持っています。先にも述べたように、システム開発の大部分はAIで代替できるようになり、案件によってはプロジェクト体制にAIが加わるケースもあります。だからこそ当社自身のビジネスモデルの転換は急務であり、AI人材の育成や、AIネイティブなシステム開発を全社を挙げて推進しています。

――AI活用を支えていく組織面では、どのような未来予測図を描いていますか。

野口:新時代の高度人材として、AIによる業務遂行組織の「設計者」および「監査役」の2つの役割がますます重要となります。AIは特別なものではなく標準装備となり、どの部署も当たり前にAIを使うようになるからです。そして先ほど本橋さんからもお話があったように、今後10年以内には、AIが組織図上で明確な役割や責任範囲を持つ存在として扱われるようになるでしょう。いわば「擬似的な組織メンバー」のような位置づけです。そうした中でCAIO(Chief AI Officer)の役割はさらに細分化され、「CAIO of Operation」や「CAIO of Development」など、特定の機能に特化したリーダーが生まれると考えています。

ただし、課題もあります。AI駆動型の組織は効率性を追求する一方で、従業員の尊厳を保護するとともに、AIシステムが停止した際の事業継続性を担保しなければなりません。人間中心の組織カルチャーや心理的安全性を維持し、ノンAIでの業務バックアップ体制を確立する必要があります。

AI駆動組織の光と影。人間の尊厳と事業継続性を守るための新機能 従業員の尊厳とカルチャーを守る機能 ノンAI業務推進体制(バックアップ)
資料:AIX partner

本橋:野口さんのおっしゃるように、AI活用が進むと「設計者」や「監査役」のような役割が重要になり、そのような高度人材が組織に占める割合が増えていくでしょう。しかし、そのような組織構造の維持や高度人材の確保は容易ではありません。当社では、先ほどお話した自社の社員を育成する未来型の育成プログラムや仕組みづくりだけではなく、外部からAIのスペシャリストやエンジニアを積極的に取り入れるべく、シリコンバレーに「NTT DATA AIVista」という新会社を立ち上げ、人材の確保やAIのビジネス創発を促すことをめざしています。

本質的な意味でのAIの適用、変革を実現するAIリーダー企業が日本でも多く生まれる未来に向けて、NTT DATAも自社の取り組みや、国内外での知見を活用し、皆さまの取り組みを支えるパートナーであり続けたいと考えています。