NIKKEI宇宙プロジェクト

宇宙はもはや夢ではなく、ビジネスの熱い舞台に。
NIKKEI宇宙プロジェクトでは情報発信やイベントを通じて宇宙ビジネスの発展を後押しします。
困難を乗り越える挑戦心を伝え、宇宙に挑むすべての開拓者にエールを送ります。
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北海道宇宙サミット2025 TVh主催プレイベント 「宇宙産業に投資呼び込め!」 競争力強化に大きな一歩

日本の宇宙開発の勢いが加速している。探査技術の高度化や産業化を見据えた挑戦が連鎖し、国際的な存在感が高まる中、さらなる躍進を遂げるために求められる成長戦略とは何か。世界初となる月面へのピンポイント着陸を成功させた「SLIM(スリム)」の開発を主導した坂井真一郎氏に話を聞いた。また、北海道宇宙サミット2025のプレイベントでは、宇宙産業の成長を支える投資の在り方について、有識者による議論が交わされた。

坂井 真一郎 氏

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授/研究主幹
元SLIMプロジェクトマネージャー

坂井 真一郎
2001年に宇宙科学研究所に助手として採用後、れいめい、ASTRO-G、ひさき、あらせ等、科学衛星の姿勢制御系開発に従事。併せて人工衛星の姿勢制御、電磁気編隊飛行、着陸誘導制御等の研究に従事。05年11月から准教授、19年4月から教授。16年4月から25年1月までSLIMプロジェクトマネージャーを併任。
着陸誤差を大幅縮小

2000年代に月周回衛星が高精細な月面画像を地上にもたらした。このことで、科学的に重要な岩石が露出する場所や水資源の存在が期待される場所など、調査すべき場所の絞り込みが可能となった。月面探査の価値が高まる中、月面では探査機の移動手段や稼働時間に制約がある。目的地に正確に着陸する技術が求められていた。

SLIMが実現したピンポイント着陸は、従来は数十キロメートルあった着陸誤差範囲を100メートルまで大幅に縮小した。着陸成功後の米国連邦議会では、岸田文雄首相(当時)が世界をリードする日米間の新たな協力分野として言及。米航空宇宙局(NASA)主導のアルテミス計画の将来ミッションにおいて、日本開発の有人与圧ローバーによる月面探査や、日本人宇宙飛行士の月面着陸に関する取り決めにも貢献したと自負する。

成功左右した新技術

ピンポイント着陸の課題は、水平方向での自機位置の推定にあった。解決のため開発した技術が、画像照合航法だ。SLIMに搭載したカメラは着陸降下時に月面を撮影する。クレーターなどの特徴的な地形を地図データと照合することで自己位置を分析。その結果に基づき、目標地点へ最小限の燃料で到達できる降下軌道を再計算して、高精度な月面着陸を実現している。

画像照合航法の実現には高い画像処理能力が求められた。一方で、放射線が飛び交う宇宙環境で使用できる計算機の性能は地上用と比べて大きく劣る。大学などの研究機関(アカデミア)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)との長年にわたる共同研究によって、低計算量で処理可能な航法を確立した。

宇宙技術開発はトライ&エラーが限定的な点に難しさがある。月面を地球上で完全に再現することはできない。小さな試験をパッチワークのように組み合わせ、抜け漏れを防ぐ。月面を相手にした、そんな知恵比べと根比べにチーム一丸で取り組んだ。

SLIMの開発には民間やアカデミアから多くの人材が参加した。着陸成功時、姿勢が想定と異なる事態が生じたが、メンバーは冷静に対応し、そのプロ意識が際立った。

変形型月面ロボット(LEV-2)「SORA-Q」が撮影・送信した月面画像

SLIMが放出した月面ロボットが撮影した画像

民間へ継承し成熟促す

培った技術は国内民間企業への継承を進めている。民間企業が高度な技術を事業化する場合は、実証実験などを繰り返し、技術として確立させるのが普通だ。我々の技術を民間に渡すことで技術が成熟し、製品・サービスに発展させることが理想的だと考えている。

宇宙産業の裾野拡大には、国家による参入の後押しが欠かせない。多額の初期投資が参入障壁となる中、宇宙戦略基金に代表される資金面の支援が、事業化を加速する鍵となる。多様な人材の獲得も重要だ。「宇宙」という言葉にロマンを感じる人も多い。宇宙の存在そのものが持つ魅力を活用することで、非宇宙産業の人材獲得につながるだろう。

国際競争力を高める上では、日本が得意とする領域を見つけ、存在感を発揮していくことが大切だ。産学官が連携して宇宙開発で必須となる技術を開発することが、宇宙産業における日本の有力な攻め手となる。

私の専門研究分野は人工衛星の姿勢・運動の制御だ。次の研究テーマとしてフォーメーションフライトを掲げている。これは複数の衛星が互いの位置と姿勢を高精度に制御する編隊飛行である。当該技術のアプリケーションの一例として、複数衛星による巨大なアンテナを構築する。地上のアンテナを必要とせず、従来の衛星通信では不可能だった地上通信網に匹敵する高速・大容量通信や多数同時接続を実現することも可能となるだろう。

北海道宇宙サミット2025 TVh主催プレイベント 「宇宙産業に投資呼び込め!」 成長基盤の構築が鍵

国内宇宙産業の中枢を担う産学官の有識者が集結
将来宇宙輸送システム
代表取締役社長 兼 CEO
畑田 康二郎
PwCコンサルティング
宇宙・空間産業推進室 マネージャー
加藤 松明
SPACE COTAN
代表取締役社長 兼 CEO
小田切 義憲
(モデレーターは日本経済新聞社コンテンツプロデューサー、田中 彰一)
問われるコスト削減

―― 宇宙関連事業を、確実に黒字が出るビジネスにするための道筋を教えてください。

畑田 康二郎 氏
畑田 康二郎

畑田 我々は2022年に創業したスタートアップだ。再使用型ロケットの社会実装を見据えた研究開発に取り組んでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とは高頻度往還型宇宙輸送システムの実現に向けた共同研究を進めている。足元の事業展開では、小型人工衛星の打ち上げ需要の増加を踏まえ、補助金を活用しながら再使用型の小型ロケットを開発中だ。

今後はコストを抑えつつ信頼性を高め、ビジネスとしての価値を最大化する方策が問われる。

小田切 民間宇宙活動の広がりを支える拠点として、商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」を運営している。宇宙産業は転換期を迎えている。日本ではこれまでJAXAがロケット開発から射場の運営までを担う体制が主流だった。民間宇宙企業の参入により、ロケット開発と射場運営の役割は分担された。民間が担うことでコスト構造を整理し、もうかる仕組みを考えなければならない。射場運営は一定の打ち上げ回数がなければ成り立たない。回数増に応じた射点の増設など、運用体制の拡大も検討が求められる。

ロケット開発は多くの場合、自社で一から設計・製造し、実験を重ねて完成させるため、量産によるコスト削減が進みにくい。各社が同じ「死の谷」を歩む構造が続いている。将来、ロケット専門のメーカーが登場し、顧客の需要に応じて最適な機体を提供するようになれば、産業全体の発展は加速するだろう。

加藤 調査・戦略の視点から産学官を横断し、宇宙産業エコシステムの形成を支援している。産業化推進には衛星データを地上の利用の需要と結びつけることが大切だ。多様な分野の需要に応えながら成長している分野として、通信、地球観測衛星がある。通信衛星はかつて静止軌道衛星が主流だったが、現在はスマートフォンと直接つながる低軌道衛星も増えている。地球観測衛星は温暖化ガス濃度の計測や災害状況の把握などに利活用が広がる。

リスク管理も必要に

―― 宇宙ビジネスを確立するうえで、新たなリスク管理や会計の仕組みの整備なども必要ではないでしょうか。

加藤 松明 氏
加藤 松明

加藤 宇宙産業は、機体の開発と打ち上げが中心で、リスクは開発に伴うものが主だった。衛星などを使った「宇宙サービス」へ時流が変化すれば、宇宙環境での衝突リスクを誰が負担するかなど、新たな課題にも向き合う必要がある。リスク分担の仕組みがサービス化されれば、新産業の呼び水となる。

衛星データを扱うサービスが多様化すると、信頼性も課題となる。信頼できるデータであることを保証する仕組みづくりで、PwCネットワークに属する監査法人とともに活動する我々も貢献できるのではないかと思う。

畑田 再使用型ロケットは高額かつ資産性を持つため、自社で全て保有すると多額の固定資産が計上されて資本効率が悪化する。リースで運用する方式が視野に入る。

事故で機体を失う可能性はゼロではないため、損害保険を活用してリスクヘッジする仕組みも必要だ。こうした金融的手法を取り入れることで、効果的にレバレッジをかけられる。

国の支援投資呼ぶ

―― 政府は1兆円の基金などで宇宙産業の振興を支援しています。支援のあり方などで改善を求めたい点はありますか。

畑田 補助金は一般的に後払いで、スタートアップは銀行から高額な調達コストでお金を借りなければ事業を始められないケースが多い。決算前に補助金が確定処理されなければ、財務諸表は実態より悪くみえ、金融機関との交渉で不利になるケースがある。

米国では、政府が民間からロケットを継続的に調達する仕組み(アンカーテナンシー)を用い、スタートアップに売り上げを計上させている。財務諸表が魅力的になり、追加投資を呼び込む効果もある。高市早苗政権には補助金の拡充と併せ、スタートアップとのアンカーテナンシーの導入を期待したい。

小田切 義憲 氏
小田切 義憲

小田切 宇宙港運営では米国の仕組みが参考になる。米国では国や民間を合わせて約20カ所の宇宙港が稼働している。米国宇宙軍(USSF)主導で運営者を集めた定例会議を行い、射場整備と併せて必要な衛星を打ち上げていく体制をつくっている。

自国の衛星を安定して打ち上げるには、射場整備が欠かせない。ただ、射場を造る場所は航空路、海上航路が空いているなど地理的優位性を考慮すべきだ。国の資金を投入するにも射場に向く場所と、射場以外の宇宙関連産業の仕事に向く場所と役割分担を決めていく必要がある。

宇宙戦略基金の支援対象は主に技術開発分野だ。射場や宇宙港の整備は別枠の支援が必要となる。空港と同様に、射場も公共性の高いインフラとして政府支援の充実が望まれる。

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日経BizGateでも特集中

過去最大規模となった国際宇宙会議(IAC 2024)
60の宇宙機関が一堂に会し新たな高みへ

国際航空宇宙連盟(IAF)の創設メンバーであるイタリア航空宇宙学会(AIDAA)が主催し、
イタリアのミラノで開催された国際宇宙会議(IAC 2024)。
今回で75回目となる同イベントには、宇宙への情熱を分かち合うために世界中から人々が集まり、
様々な展示と発表、会議が行われた記念すべき催しとなった。

530を超える多くの出展者が参加したIAC2024 ©IAF

530を超える多くの出展者が参加したIAC2024 ©IAF

NIKKEI宇宙プロジェクトフォーラム

SDGs × 宇宙

~宇宙が教えてくれる社会課題解決~

宇宙から地球の課題解決
多様性と共創が成長導く

地球上の社会課題を解決し、持続可能で豊かな社会を実現するためには
宇宙の利活用が欠かせない。
2023年12月7日の「日経宇宙プロジェクトフォーラム」では、
SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた宇宙ビジネスの挑戦を幅広く紹介。
宇宙ビジネスをさらに発展させるための要件となる
ダイバーシティー(多様性)や教育・人材育成についても議論を繰り広げた。

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