0912 宇宙の日 特集 多様な連携を推進 技術革新を底上げ
日本の宇宙ビジネスが転換点を迎えつつある。民間ではスタートアップも次々生まれ、様々な業種が進出する動きがみられる。政府は1兆円規模の「宇宙戦略基金」を創設し民間の参入を後押しする。世界各国との技術競争も激化する中、日本は宇宙開発をどう進めるべきか。政府の宇宙開発を担う風木淳氏と、宇宙スタートアップのトップ、畑田康二郎氏がそれぞれ見解を明らかにした。
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インタビュー無重力空間への往来、身近に
将来宇宙輸送システム
畑田 康二郎 氏
代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、経済産業省に入省しエネルギー政策や産業政策に従事。外務省や内閣府宇宙開発戦略推進事務局への出向を経て、経済産業省への帰任後はJ-Startup創設に尽力。2022年に将来宇宙輸送システムを創業し、代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)に就任。現在はispaceおよびアークエッジ・スペースの社外取締役も務める。
再使用型ロケットで世界の拠点を結び、大陸を超えて人やモノを60分以内に輸送できる世界を創出する。「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を宇宙でも」が当社のビジョンだ。人類は徒歩から自動車、飛行機と移動手段を増やし、技術の進歩で選択肢にロケットが加わった。宇宙は人やモノにとっての目的地であると同時に、経由地となる。
ロケットで10トンを輸送
ビジョン実現への技術的な核が、高頻度で再利用できるロケットの開発プロジェクト「ASCA」だ。ブースターを切り離さず、飛行機のように繰り返し離着陸ができる水平単段式の機体を開発している。高度400キロメートル程度の地球周回軌道に10トンの人員や物資を低コストで投入することを目指す。
自社の技術だけに固執しない。宇宙開発に関わる技術が高度化する中、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国のロケットエンジン開発企業、国内外のパートナーと協働し、成熟した技術を組み合わせ開発を進める。小型離着陸試験機から始め、2040年の完成へロードマップを描いている。
宇宙輸送を実現するロケットは、最終的な目標ではなく手段のひとつだ。ASCAが実現すれば、年間10万人以上が訪れる南極と同じように、宇宙は行こうと思えば行ける身近な存在となり、新たな産業が創出される。効率的で緻密、高品質な製品・サービスが提供できる日本の強みを生かし、宇宙産業で日本が主導権を握るためのプラットフォームを構築することも当社の役割だ。
民間主導で新ビジネス
私はかつて経済産業省で働く国家公務員だった。日本は恵まれた研究開発環境や高い技術力を有している。そうした技術を社会実装し、不景気の解消や国際競争力の強化を実現できていない現実に疑問を感じた。研究成果と産業を結びつける資源の最適化を行い、世界で競争力を発揮できる産業を創出したい思いから、経済産業省に入省した。
欧州連合(EU)との自由貿易交渉やスタートアップ支援などの任務を経て、15年に内閣府の宇宙戦略室(現在の宇宙開発戦略推進事務局)に着任した。ロケットや人工衛星の開発から運用、データの利用まで自国でまかなえる技術力がある日本の宇宙技術に、新たな産業の可能性を見いだした。創意工夫で宇宙を目指すスタートアップも芽吹き始めていた。宇宙産業をビジネスとして成立させるため、宇宙産業ビジョンの策定や法律の整備に尽力した。
当社の創業は22年。ロケットや人工衛星の技術、衛星データビジネスが発展しても、輸送手段を海外に依存していては日本の宇宙産業は発展しない。日本を代表するベンチャー投資家からの声がけに応じ、政府でも議論されていた民間主導の宇宙輸送システムの実現のために創業した。
私が尊敬する阪急阪神ホールディングス創業者の小林一三は鉄道という輸送方法に着目し、沿線を開発して住宅やレジャー、百貨店などの産業を開拓した。日本は世界でも有数の私鉄が発達している国だ。宇宙輸送も、非宇宙企業を巻き込むことで、新たな産業を生み出せる可能性がある。宇宙輸送を運用するには、打ち上げや着陸を担う宇宙港が必要だ。宇宙専業の企業だけでなく、非宇宙企業が持つ建設や物流基盤などの分野の技術が必要となる。周辺地域には利用者に向けた新たなビジネスや雇用も生まれる。
将来世代の選択肢増やす
宇宙輸送の実現で滞在者が増えることにより、旅を快適にするホテルや、娯楽としての「食」、エンターテインメントの誕生など新たなビジネスが生まれてくる。一方で、無重力空間の特性を活かした革新的な技術や、宇宙飛行士が帰還後地上生活に慣れるためのトレーニングを応用したリハビリテーションプログラムなど、宇宙に関連する技術を応用した新産業が生み出される可能性もある。
宇宙と地球を結ぶエコシステムに宇宙輸送は欠かせない。競合他社を含む宇宙のステークホルダーは、ともに新しい市場を創るパートナーだ。宇宙スタートアップの国際的な連携も重要となる。オープンイノベーションでサプライチェーンの標準化やインフラの整備を進めることも当社の使命だ。24年には、新たなスペースポートの実現を目指すワーキンググループを発足した。業種や国籍を問わず多くの企業・団体と共創する体制を構築していきたい。
宇宙開発には欧米諸国と同様、当面は政府が補助金を出したり、事業継続を保証するため顧客となったりといった支援が必要だ。税金も投入しながら進めていくからには、宇宙開発によって将来世代の人々の暮らしを良くし、選択肢を広げられることが必要だ。国内外の政府・企業と連携しながら宇宙を利活用することが身近になる社会システムをつくりあげたい。
特別寄稿政府基金で民需生む好循環を
内閣府
風木 淳 氏
宇宙開発戦略推進事務局長1990年通商産業省(現経済産業省)入省。製造産業局総務課長、大臣官房審議官(経済産業政策局担当)、内閣官房日本経済再生総合事務局次長、貿易管理部長、国立大学法人政策研究大学院大学政策研究院参与等を経て、2023年7月より内閣府宇宙開発戦略推進事務局長。東京大学法学部、コロンビア大学法律大学院、ニューヨーク大学法律大学院卒。
人類の活動領域の拡大や宇宙空間からの地球の諸課題の解決が本格的に進展し、経済・社会の変革「スペース・トランスフォーメーション」がもたらされつつある。多くの国が宇宙開発を強力に推進するなど、国際的な宇宙開発競争が激化する中、革新的な変化をもたらす技術進歩が急速に進展しており、我が国の技術力の革新と底上げが急務となっている。
1兆円規模の支援実施
民間企業や大学などが複数年度にわたる予見可能性を持って研究開発に取り組めるように、内閣府、文部科学省、経済産業省、総務省の4府省で新たに「宇宙戦略基金」を設けた(2023年度補正予算3000億円、24年度補正予算3000億円を措置)。我が国の中核的宇宙開発機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)の役割・機能を強化し、スペース・トランスフォーメーションの加速を実現するためだ。速やかに総額1兆円規模の支援を行うことを目指し、産学官の「結節点」としてのJAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能を強化する。
現在は第二期の公募・審査を順次進めている。25年9月中旬までに全24分野の公募が出揃う予定だ。テーマ選定に際しては、「宇宙輸送」「衛星」「宇宙科学・探査」「分野共通技術」における我が国の勝ち筋につながる推進すべき技術や、今後のロードマップを記載している「宇宙技術戦略」(24年3月策定、25年3月改訂)において抽出された技術項目の位置づけを参照する。その上で、JAXA主体ではなく、民間企業・大学等が主体となることで、より効果的な技術開発の推進が図られるテーマを、本基金の技術開発テーマとして設定する。
専業以外の参入も図る
第一期では、既に事業計画や資金ニーズが顕在化しており、速やかに着手すべき技術開発についてテーマを設定し、民間企業の取り組みや技術の民間移転を加速した。それに対し、第二期では宇宙分野への関与、裾野拡大が特に期待できる新たなテーマを設定したことが特徴だ。こうして、衛星光通信を活用した通信サービス、軌道上サービスなど新サービスの創出、非宇宙分野のプレーヤーの参入促進による裾野拡大、ロケットの高頻度打上げに向けた取り組みの加速を図る。
こうした中、多様な民間企業による宇宙分野への新規参入や事業投資への関心が益々高まっていると感じている。宇宙戦略基金では、宇宙分野の大企業やスタートアップに対する支援に加え、自動車、通信、電機、建築、海運、商社などの、宇宙分野が専業ではない企業による地上の技術や知見を生かした新たな挑戦も支援している。
大規模投融資の例も
民間の金融機関も呼応してきている。JAXAで今年3月に宇宙分野に関心を持つ金融機関とのイベントを実施したところ、銀行、ベンチャーキャピタル(VC)、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などの100を超える組織から参加があり、宇宙産業に対する高い関心が示された。実際、最近では宇宙戦略基金と協調する形での大規模な投融資の事例も出てきている。また、JAXAとしても民間金融機関の知見も取り入れながら、事業選定や支援に取り組んでいるところだ。「産官学金」による様々な連携が一層効果的になってきている。
なお、宇宙戦略基金はあくまで研究開発や実証のためのものであり、商業化後までを網羅的に支援するものではない。もちろん、防衛省の通信衛星や内閣府の測位衛星「みちびき」といった、安全保障上必要な分野や政府が広く公平に提供する必要のあるサービスなどは、官主導で継続していく必要があるが、そうではない分野においては民間主導でビジネスとして成立していくことも期待したい。
そのためにも、研究開発途上で商業化に至っていない段階においては、政府が顧客となって事業継続を保証する「アンカーテナンシー」を確保し、関連する制度環境も整備しながら、民間企業はこれをテコとして積極的な投資を行い、民需・外需を獲得するという好循環を実現する官民連携の形も推進していきたい。
月面から広がる産業の輪
かつて人類が目指した月面が、新たな経済圏として動き始めている。米航空宇宙局(NASA)主導で月面有人着陸を目指す事業、アルテミス計画が見据える火星探査や太陽系外進出の前段階として、月面開発は重要な役割を担う。極限の環境下で長期的に活動するためには、インフラ整備やロボット開発などの基盤づくりが欠かせない。各国機関や民間企業による技術革新が進む中、宇宙産業で培われた高度な技術が地上の産業に還元されている。月面開発がもたらす未来を探る。
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長期活動を支える基盤
月で資源を採り、働き、暮らす――そんな未来の実現には、通信や電力、建築、ロケット燃料に必要な推薬生成プラント(※1)、そして水資源の確保など、インフラの整備が欠かせない。
国内では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が民間企業と連携し、人を介さずに動く自律型建設機械による遠隔施工技術や、地球と宇宙を結ぶ高速通信システムの開発が進む。また、月面での居住や探査活動を支えるモビリティーとして、有人与圧ローバーの開発も進行中だ。宇宙服を着用せずに長時間移動できる「動く拠点」として、将来の有人探査を支える役割が期待されており、2031年にはアルテミス計画内で実際に投入される予定だ。
近年の観測により、持続的な月面活動に欠かせない水資源が月の極域(※2)に存在する可能性が示唆されている。日本はインド宇宙研究機関(ISRO)と連携し、水資源の存在量や質を調査する月極域探査機(LUPEX)プロジェクトに乗り出した。極域探査では非常に狭い場所に正確に着陸する技術が欠かせない。24年1月、日本は小型月着陸実証機(SLIM)による、世界初となるピンポイント着陸を成功させ、水資源探査に向けた大きな一歩を踏み出した。26年度にはH3ロケットを用いて、水の存在有無を確認すべく、月の南極地点にLUPEXを送り込む計画が予定されている。
有人与圧ローバーのイメージ
©JAXA/TOYOTA※1 推薬生成プラント ロケットの燃料となる推進剤(推薬)を月面で現地調達・製造する施設。レゴリスから水を抽出し、電気分解して水素と酸素を取り出す方法が有力とされている。
※2 極域 月の北極・南極にあたる地域。太陽光が当たりにくい陰に水が氷として存在すると考えられている。
無人技術が探査を担う
月面では約2週間ごとに昼と夜が入れ替わり、赤道付近の地表温度はマイナス170度からプラス110度まで大きく変動する。大気がほぼ存在せず、微細な月面の砂(レゴリス)が舞う環境で、人類に代わって活動するのが月面ロボットだ。その機体には、急激な温度変化に耐える素材や構造、真空下での安定した稼働、凹凸のある地面を走行する性能が求められる。また、地質サンプルを採取し、その場で分析する能力も、将来的な資源利用や拠点建設に不可欠な技術となっている。
国内では先進的な月面ロボットの開発が進む。実際に月面では、限られた輸送スペースを考慮して製作された、変形可能な超小型ロボットが稼働し機動性と信頼性を証明した。こうした成果は、本格的な探査ミッションの基盤技術になると期待されている。
ロボット開発には機械・電気・通信・AI(人工知能)などの様々な分野の技術が集約される。多くの民間企業が参画することで、技術革新が加速するに違いない。
H3ロケットを月面探査で活用する計画もある
©JAXA拡大続ける共創圏
月面開発で磨かれる高度技術は、地上の環境対策や製造業、医療分野の発展にも応用できるとの期待がある。社会全体のイノベーションを加速させる原動力となっている。宇宙服や月着陸船の素材として利用される超軽量断熱素材「エアロゲル」は、地上では建築物の断熱材や防寒製品として広く活用され、省エネルギー化に大きく貢献している。月面での資源循環技術は、地上での廃棄物のリサイクルや水資源の再生システムに転用され、環境負荷の軽減につながる。遠隔操作や自律制御技術の進展は、医療用ロボットによる精密手術や遠隔診断を発展させ、医療サービスの高度化に寄与する。こうした月面技術の実用化が新たな産業や雇用の創出を生み出すだろう。
政府は産業界の技術革新を促進するため、24年に宇宙戦略基金(※3)を創設。JAXAも、宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)(※4)を通じて民間との連携を強化している。宇宙とは縁の薄かった多様な業種が参入し、月面を中心とした共創圏が広がっている。月から地球へと巡る技術の流れが、次代の産業を駆動する推進力となるだろう。
自動走行・掘削試験用ローバー。軟弱な地盤での無人作業に向け、研究開発が進む
©JAXA※3 宇宙戦略基金 宇宙分野の新興企業の挑戦を支えるために政府が設けた資金枠。研究開発や事業化を後押しし、産業の拡大と革新を促す。
※4 J-SPARC JAXAが企業や団体と共に新たな宇宙ビジネスを生み出すオープンイノベーション型プログラム。共創を軸に、従来にない製品やサービスの開発を支援している。
人類の活動広がる
地球の課題に挑戦
人類は未知を探求し挑戦する存在であり、技術革新とともに国内の宇宙産業は飛躍を遂げている。
宇宙基本計画での「2030年代に市場規模を8兆円に拡大」という目標を目指し、宇宙戦略基金による10年間で1兆円規模の民間支援も実行中だ。世界初となる小型月着陸実証機 SLIMの月面ピンポイント着陸、次世代大型基幹ロケットH3の打ち上げ成功は記憶に新しい。日本版GPSの準天頂衛星「みちびき」は7基体制へ強化予定、民間企業は再使用型小型ロケットの打ち上げ試験に成功した。
軌道を周回する衛星のデータはもはや生活に欠かせない。インフラ老朽化や災害時の状況把握、温暖化ガス排出量の計測、農業や畜産業への応用、スマホや自動運転など身近で幅広く活用されている。
人類の活動領域が宇宙空間へ拡大することで、宇宙システムが地上システムと一体となり、地球上の課題解決への貢献が期待される。ビジネスの新天地としての機運が高まる宇宙産業。衛星関連、輸送、探査、インフラ、エネルギーなどの各分野で挑戦は続いていく。
スマート社会 支える基盤技術
「みちびき6号機」
出典:qzss.go.jp
2025年2月2日、準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき6号機」がH3ロケット5号機によって打ち上げに成功した。国内測位技術のさらなる発展に向けた大きな一歩を刻んだ。同機は日本独自の衛星測位システムとして様々な産業分野で活用されるほか、災害時の情報連携にも役立ち、安心・安全な社会の実現に貢献する。「みちびき」が地上にもたらす革新を探る。
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位置の計測 1センチ単位実現
2018年より4基体制で運用を開始した「みちびき」は、米国の全地球測位システム(GPS)に依存しない高精度測位を目的として開発された。従来のGPSは、都市部の高層ビル街や山間部では信号が遮られ、測位精度が低下していた。「みちびき」は日本の上空を長時間通過する「準天頂軌道」を採用することで、これらの環境下でも安定した測位を可能にする。また、国土地理院が提供するセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)との連携により、誤差範囲を大幅に縮小。GPSを大きく上回る、1センチメートル単位の測位を実現した。災害時の位置情報提供や緊急警報、安否確認にも役立ち、国内の減災に貢献している。
「みちびき」はGPSと互換性を持ち、一体として機能することで安定した高精度測位に必要な衛星数を確保している。将来は「みちびき」単独での持続測位の実現を目指す。
衛星が格納されたロケットの先端部には、「みちびき」の特設サイトに誘導する2次元バーコードが印字されている。 ©JAXA
産業応用へ高まる期待高精度測位技術は様々な産業分野で経済効果をもたらすと期待されている。モビリティー分野では、自動運転技術やスマートモビリティーの発展を支える要素となり、ナビゲーション精度の向上や、交通事故リスクの減少につながる。交通の流れは円滑化し、快適で安全な移動が実現されるだろう。物流業界ではリアルタイムでの荷物追跡や配送経路の最適化が可能となり、配送時間の短縮やコスト削減が期待できる。配送に携わる人員の最適配置をしやすくなる。依然として同業界で続く人手不足の緩和策となるだろう。
農業分野ではスマート農業を促進する。日本でも遊休農地を有効活用する目的などで農地集約が進む中、広範囲に散在するようになった耕作地の管理に活用される可能性がある。農業機械の自動化が進むことで手作業が減り、従事者の肉体的負担を軽減する。建設・インフラ管理の分野では、測位データを活用した建機の自動制御が進み、掘削や整地作業が高精度で実施可能となる。今後高精度測位技術を用いたビジネスは、さらに拡大していくだろう。
測位データ 海外でも利活用「みちびき」の測位データはアジア・オセアニア地域へと展開され、各地で利活用されている。オーストラリアでは「みちびき」の測位データを用いた土の体積の計測や自動運転車の実証実験が行われた。また、シンガポールでは道路課金システムに組み込まれ、渋滞緩和などの交通需要管理に寄与している。
アジア・オセアニア地域全体の防災力強化でも重要な役割を担う。「災害・危機管理通報サービス『災危通報』」は、防災機関から発表された防災気象情報を「みちびき」を経由してリアルタイムで地域住民に発信。緊急避難指示や警報を迅速に届け、国境を越えて減災に貢献している。
「みちびき」の測位データ活用は環境保護や社会課題の解決にもつながり、今後の社会を支える基盤技術として重要な役割を担う。10年に初号機が打ち上げられた「みちびき」は、現在6基体制で運用されている。26年をめどに7基体制へ拡張される予定だ。実現されれば、常に4基の「みちびき」が日本上空にとどまることになり、他国の測位衛星システム(GNSS)に依存しない測位が可能となる。測位精度や安定性はさらに向上し、対応エリアは拡大。より高度な測位システムとして確立される。「みちびき」の進化が、国内宇宙産業の未来を拓(ひら)く原動力となる。
種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット5号機。 ©JAXA
特別対談 宇宙産業の先駆者 未来拓く挑戦
アジア最大規模の衛星通信事業を手掛ける企業「宇宙実業社」として存在感を放つスカパーJSAT。通信・放送サービスに加え、宇宙データ活用や防災・安全保障分野にも注力する。スカパーJSATの代表を務める米倉社長と、番組出演で「スカパー!」との接点を持つタレントの大久保氏が対談。衛星通信の役割や宇宙ビジネスの未来まで、幅広い取り組みについて語り合った。
米倉「夢を語れるビジネスを展開します」
スカパーJSAT 代表取締役社長
慶応義塾大学卒。1981年に伊藤忠商事に入社。同社常務執行役員、代表取締役常務執行役員、専務執行役員、理事などを経て、スカパーJSATホールディングス代表取締役 執行役員社長に就任。
大久保「ずっと昔から通信衛星の会社だったんですね!」
タレント
プロダクション人力舎所属。1992年に光浦靖子とお笑いコンビ「オアシズ」を結成。コンビとしてだけでなく、単独でも数々のテレビ番組やラジオ等で活躍中。
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アジア最大規模の事業
大久保 スカパー!が、宇宙事業を行っていると聞きました。それは、いつからですか?
米倉 スカパー!を運営するスカパーJSATグループは、実は最初から宇宙事業をしておりました。
大久保 えっ! 最初から?
米倉 1989年に日本の民間企業として初めて通信衛星を打ち上げた企業と、CS(通信衛星)放送事業の企業等が合併したのが、今のスカパーJSATです。現在も17基の静止衛星を保有するアジア最大規模の衛星通信事業者なんです。
大久保 アジア最大規模ですか!
米倉 衛星の運用や管制も自前で行っているのが当社の特長です。自社の衛星だけでなく、国内外の民間企業や政府機関の衛星運用を受託する事業も行っています。私たちは放送事業者であるだけでなく、通信衛星という資産を使って映像コンテンツや通信インフラを提供する「宇宙実業社」なんです。
生活の安心安全に寄与大久保 全然知らなかったです!通信衛星って何に使うんですか?
米倉 たとえば、災害が発生したときです。地震や津波などの大規模災害が発生して地上の基地局が故障したとします。そのとき、被災地にアンテナを設置し通信衛星を介して通信を確保することで、通話やインターネットを利用できます。カバー範囲が広く、地理的な制約を受けない通信衛星は、災害に強いという特長だけでなく、航空機や船舶などの移動体に向けた通信サービスも含め、さまざまな用途で活用されているんですよ。
大久保 いろいろな場所でインターネットを使えるのは、スカパーさんのおかげだったんですね。
米倉 現在、力を入れている事業が、観測衛星で撮影した画像を分析して、地球上の問題の解決策を提示する「スペースインテリジェンス事業」です。
大久保 たとえば、どんなことができるんですか?
米倉 SAR(合成開口レーダー)というセンサーを積んだ観測衛星は、電波を利用して地形変化情報を取得できます。斜面やインフラの変動を時系列で比較することで、崩壊や地滑り、地盤沈下などの災害の危険性を評価し、予防・保全が可能になります。
大久保 ニュースでよく見聞きするインフラ老朽化の対策になるんですね。
米倉 現在、当社が分析する画像データは、パートナー企業から提供を受けたものです。今後は、自社で次世代光学観測衛星を保有し、撮像データ等を販売できるよう、約400億円を投資して低軌道の衛星10基を調達、運用することを2月に発表しました。
スカパーJSATは米国のPlanet Labsが開発する次世代光学観測衛星「Pelican」を用いた低軌道衛星コンステレーションの構築を進めている。 ©Photo credit: Planet Labs PBC
「デブリ」除去の新会社米倉 宇宙利用が増えるにつれて問題になってくるのが宇宙ゴミ(デブリ)の問題です。衛星がどんどん増える今、当社はデブリを処理する会社をつくりました。微弱なレーザーを衛星からデブリに照射して、大気圏へ移動することで消滅させる技術を開発しています。
大久保 まるでSF映画みたいですね。
米倉 まだまだありますよ。衛星の打ち上げや利用には高額なコストがかかります。現在、比較的低価格で通信サービスを提供する手段として、成層圏を飛ぶHAPS(高高度プラットフォーム)を利用した携帯端末向けの直接通信実用化に向けた研究を始めています。HAPSとは、通信機能をもったグライダーみたいなもので、通信衛星と地上の端末を結ぶ基地局の役割を担います。この構想が実現されれば、地上で撮影した映像をHAPS経由で、低価格で全世界に配信できるんです。
大久保 宇宙というと、国際宇宙ステーションや映画のイメージしかなかったのですが、いろいろなビジネスが進行しているんですね。
米倉 期待が広がるでしょう。宇宙ビジネスを盛り上げるため、スタートアップとの協業支援を目的として当社は100億円の投資枠を設定しました。
大久保 100億円も! 無限の可能性のある宇宙に、幅広い業種の人たちが参入したらもっとすごいことが起こりそうですね。
米倉 この対談を通じ、宇宙に関してこんなに夢を語れるスカパーJSATという会社があることを、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいです。
大久保 スカパーJSATさんの宇宙事業が、社会をもっと良くしてくれると期待しています!
宇宙の未来2024
新ビジネスの展望とリスクガバナンス
パネルセッション 衛星ビジネス
衛星データが生み出す新潮流
2024年11月21日、日本橋三井ホール(東京・中央)にて、「宇宙の未来 2024」が開催された。宇宙開発利用部会委員を務める慶應義塾大学・神武直彦教授、ESA(欧州宇宙機関)幹部のほか、民間からはアジア最大の宇宙事業者であるスカパーJSAT、高精細小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発を行うQPS研究所の代表者が登壇。市場が急拡大する観測衛星を活用したビジネスについて、データを駆使した最新のサービス事例なども示しながら未来像を語り合った。
スカパーJSAT
新領域事業本部
スペースインテリジェンス事業部
第2チーム アシスタントマネージャー 兼
投資・協業推進CFT
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高機能化進む
多彩な活用分野――宇宙産業におけるビジネスモデルはどうか。
神武 宇宙に関する技術は、急速に高機能化している。同時に、コモディティー化(汎用化)が進み、非宇宙産業の企業や団体が宇宙を利活用できるようになった。例えば、スポーツだ。ラグビーでは、準天頂衛星「みちびき」の打ち上げにより、測位精度が数センチ単位まで高まったGNSS(全地球航法衛星システム)を選手の強化に活用している。選手がGNSS受信機を装着することで動きや負荷のデータ化を実現し、個々に合わせたトレーニングメニューや戦略の立案が可能となった。畜産業の分野でも、蓄牛の移動をGNSSで測位し、観測衛星による地表観測と組み合わせることで、蓄牛の運動量や食事量を可視化。健康管理をはじめとしたアニマルウェルフェア(動物福祉)のために利用されている。
今後は宇宙をハブとして、通信衛星や観測衛星、GNSSなど衛星同士の連携が強化される。その結果、宇宙を利用して地球の課題を解決するSX(スペーストランスフォーメーション)が起こるだろう。宇宙ビジネスにおいては、宇宙から得られるデータを「何に」使うのか、ビジネスの視点を持つ人材が活躍するようになる。
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科教授
神武 直彦 氏モレル ESAは欧州22カ国の政府が加盟する宇宙開発・研究機関だ。ESAの強みは技術の卓越性にある。ESAが2022年に打ち上げたGNSS「ガリレオ」は、世界でもっとも高い精度をもつ測位システムのひとつとして位置情報を提供している。観測領域では、30年までに10機の観測衛星のコンステレーション(複数の衛星を軌道上に展開し、協調して観測するシステム)を構築し、地球上の環境を監視する「コペルニクス計画」を進行中だ。打ち上げロケット「アリアン」シリーズを開発し、宇宙へのアクセス自立性も確保している。こうした技術を活用し、宇宙ビジネスを拡大するとともに、安全保障領域における宇宙の活用を推進していく。
平田 スカパーJSATは、17機の通信衛星を保有するアジア最大の衛星通信事業者だ。衛星放送「スカパー!」のほか、企業向けバックアップ回線や、航空機や船舶などの移動体向けインターネットサービスを提供している。
近年注力している領域が、観測衛星から取得したデータを活用するスペース・インテリジェンス事業だ。上空350~1400キロメートルのLEO(地球低軌道)にある観測衛星から取得したデータをAIなどにより分析。インフラの保守や災害の復旧に活用可能なサービスとして提供している。23年には衛星画像を活用し、海上でのオイル漏れを検知するサービスをカタール政府環境省へと提供した。同サービスは、内閣府主催の「第6回宇宙開発利用大賞」環境大臣賞を受賞。今後、衛星が増え、性能が向上することにより多彩なソリューションを提供可能になるだろう。
スカパーJSAT
宇宙事業部門 新領域事業本部
平田 大輔 氏大西 当社は、高精細に地表を観測できる小型SAR衛星を運用し、28年5月末までに24機体制、最終的には36機体制でのコンステレーションを目指している。実現すれば、約10分間隔の準リアルタイムで地表を観測可能となる。ビジネス化において重要となるのが共創だ。現在当社は、宇宙からの観測データの取得に注力している。スカパーJSATをはじめ、ソリューション開発に強みを持つ企業と協業し、観測データ活用の市場を広げていきたい。
宇宙ビジネスに
国境はない――今後の宇宙ビジネスの躍進に必要なこととは何か。
神武 日本企業は積極的に世界市場に進出すべきだ。例えば、通信衛星サービスは地上の通信インフラが乏しい地域においては国内よりも大きなニーズがある。国外で拠点を広げることは、グローバル規模で拡大する宇宙ビジネスにおける日本の存在感を示すことにもつながると同時に、国内市場の拡大が期待できる。インフラが地球外にあるSXに国境はない。国外で生まれたイノベーションを日本に逆輸入することで新たなビジネスが生まれるだろう。
モレル ESAでも、宇宙産業展開の視野をグローバルに広げている。その際に大事なのが、クライアントを理解することだ。ESAでは、欧州の宇宙スタートアップを日本の企業に紹介するイベントの開催などを通じ、相互理解と関係性の強化を図っている。同時に、JAXAとESAが11月に共同声明を発表したように、国家同士の連携も強める必要がある。世界的なトレンドとして、宇宙開発の主体は政府から既存の宇宙企業やスタートアップを中心とする民間へと移行している。宇宙ビジネスの拡大を支援すべく、情報の共有や投資の呼び込みなどを積極的に行っていきたい。
欧州宇宙機関(ESA)
戦略・法務・渉外担当ディレクター兼パリ本社代表
エリック・モレル・ド・ウェストガヴェール 氏大西 LEO衛星は、地球軌道を常に周回している。その意味では、ターゲットはグローバルだ。現在は、当社の売り上げの多くは、日本の官公庁から発生している。リソース配分の比重は国内に重いが、36機に向けてSAR衛星を増やしキャパシティを広げるなかで世界からの需要に応えたい。
QPS研究所
代表取締役社長 CEO
大西 俊輔 氏平田 スカパーJSATは、シンガポールやインドネシアをはじめとしたアジアに支店を設置し、米ワシントンにも子会社を保有してビジネスを展開。同時に、スタートアップへの投資を行い、イノベーションを起こそうとしている。例えば、QPS研究所には初期の段階から投資を行い、小型衛星運用業務についての協業を行う。NTTとは、合弁会社を立ち上げ、光通信によって衛星間を光通信で繋ぐことを目指している。社内ベンチャーとして、宇宙デブリ(ゴミ)除去を目指す事業も立ち上げた。提供中の事業を拡大しながら、新規事業によって新たなテクノロジーを確立し、国内および国外へと展開していくことで、当社のビジョンである「未知を、価値に。」を実現したい。
日経フォーラム 世界経営者会議
Agenda:宇宙で挑む新社会インフラ
衛星データ利活用
進むべき未来
スカパーJSAT 社長 米倉 英一 氏
米モルガン・スタンレーの予測では、宇宙ビジネスの市場は2040年代に1兆ドルを超えるという。急速に拡大する宇宙ビジネスにおいて、日本が勝ち残るために必要なこととはなにか。日経フォーラム第26回世界経営者会議にて、日本の衛星通信事業をけん引するスカパーJSATの米倉英一社長が、宇宙ビジネスの未来と目標実現のための戦略について語った。
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衛星データで社会課題解決
「未知を、価値に。」をスローガンに、宇宙という未知の空間を利用して、安心・安全な社会を創出することが当社のミッションです。
民間企業として日本で初めて人工衛星を打ち上げたのは1989年でした。その後も宇宙への挑戦を続け、現在は17機の通信衛星を保有。アジア最大規模の通信衛星事業者として、アジア太平洋地域にとどまらず世界中に向けて、バックボーン回線や移動体向けのブロードバンドインターネット回線を提供しています。
広範囲の観測が可能な衛星から取得したデータは、世界的な社会課題の解決に貢献します。例えば、気候変動による災害。地表や構造物を定点観測することにより、災害に備えた予防保全を効率的に行えます。地震や水害などが発生した場合にも、宇宙からの観測画像によって被害状況を迅速に把握し、救助や復旧・復興の際に適切な支援が可能となります。
世界的に増大する地政学的リスクに対する安全保障の手段としても、衛星の重要性は高まっています。宇宙から軍事的行動を観測することが抑止力として働くためです。当社は陸海空の移動体向けに衛星通信を提供するサービスをはじめ、防衛通信衛星「きらめき3号」のオペレーションなど、運用面でも安全保障領域に携わり、日本の安全・安心を支えているといえるでしょう。
高速通信に向けたインフラ構築地球を周回する観測衛星の急増や観測機器の性能向上により、宇宙から取得できるデータ量は急増していますが、そのデータを最大限活用していくためには、宇宙空間に構築する通信インフラの大容量化と効率化が必要です。
宇宙を統合した新たなICTインフラの実現を目指し、当社はNTTとともにSpace Compassを設立しました。現在、地球低軌道(LEO)衛星が取得した観測データは、その衛星自身が地上へと送信することが一般的です。しかし、LEO衛星は地球を周回しているため、地上局へ送信できるタイミングが限られ、送信できるデータ容量にも制約があることが課題です。
Space Compassが構築を目指す宇宙統合コンピューティング・ネットワークでは、LEO衛星の観測データを上空36000キロメートルにある地球静止軌道(GEO)の光データ中継衛星を経由して地上に送る仕組みにより、準リアルタイムの高速転送が可能となります。同時に、宇宙データセンタを構築し、宇宙空間でのエッジコンピューティングによる処理の効率化を視野に入れています。
宇宙データセンタは、サステナビリティにも貢献します。大量の電力を消費するデータセンタは、地上にある限り温暖化ガス(GHG)問題と切り離せません。一方で、強力な太陽光がある宇宙空間であれば、CO2を排出しない持続可能な運用が可能となります。

帝国ホテル 東京で行われた世界経営者会議の様子
『圏外のない社会』へ現在、世界的にデジタルデータを活用した超スマート社会を実現する機運が高まっています。日本政府はSociety 5.0を提唱し、ビッグデータやAI(人工知能)などの最先端の技術を活用し、経済発展と社会課題の解決を目指しています。デジタル社会において求められるのが、いつでもどこでもつながるネットワークの確立です。当社は、独自のコンセプトである、いつでもどこでもつながる革新的な通信ネットワーク、「Universal NTN」(NTN:Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)の事業化によって、Society 5.0の実現に寄与すべく取り組んでいます。
当社が保有する17機の衛星は、すべてGEO衛星です。それらに、LEO衛星およびLEOより低い成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(HAPS)など、異なる高度の通信インフラを組み合わせ「Universal NTN」を構築し、あらゆる空間が一体化したネットワークサービスの提供を目指します。これにより、多様な通信ニーズを持つユーザーが、時間や場所を問わず、適切な容量・速度で通信できる『圏外のない社会』を実現できることでしょう。
宇宙事業への投資を加速世界各国がしのぎを削る宇宙開発分野にも、日本は積極的に参画しています。地球観測領域では、当社の出資先でもあるQPS研究所が2028年5月末までに24機体制、最終的には36機体制でのコンステレーションを目指しています。また、経産省は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」にハイパースペクトラルセンサー「HISUI」を搭載し、全球規模を高分解能で観測することを実現しました。
ハードウェアにおいても、日本には優れた技術があります。例えば、ISSに無人で物資を補給する「こうのとり」や宇宙で稼働するロボットアームなどです。産官学が連携し共創することで、欧米に匹敵する国際的な競争力を確立できるでしょう。
パートナーシップ強化のため、当社は宇宙事業へ2500 億円規模の投資を行い、事業推進やM&A(合併・買収)を行っていきます。また、2024年3月には、100億円の枠を設け、国内外の宇宙関連スタートアップや宇宙系ベンチャーファンドへ投資することを決定しました。
当社の強みは、顧客のニーズに合わせて国内外を問わず衛星を調達し、ロケット打ち上げサービスをアレンジし、運用できる一気通貫性にあります。日本唯一と自負するノウハウや技術を生かしながら、未知に挑戦するスタートアップの精神を持ち、人々の生活に豊かさをもたらす社会を創造するサービスプロバイダーを目指します。
SDGs×宇宙 特別セッション
衛星データビジネスの未来
~宇宙からのDXによる価値創造~
宇宙から実現する
サステナビリティー
衛星通信は、教育、医療、ビジネスなどの各分野で活用されている。山間部や船舶といった地上回線での対応が難しい状況での通信を可能にする上での重要なインフラだ。社会課題を解決し、持続可能な開発目標(SDGs)達成のためには、衛星通信やデータの有効活用が欠かせない。衛星通信事業のリーディングカンパニー、スカパーJSATが見据える宇宙活用の未来を講演から解き明かす。
スカパーJSAT
新領域事業本部
スペースインテリジェンス事業部
第2チーム アシスタントマネージャー 兼
投資・協業推進CFT
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耐障害性・広域性・
同報性を持つ衛星通信スカパーJSATは、地上3万6000キロメートル上空の静止軌道(GEO)で、17機の衛星を運用するアジア最大の衛星通信事業者です。1989年、日本の民間企業として初めて通信衛星の打ち上げに成功。CS放送「スカパー!」の運営や、企業の拠点間通信や地上回線のバックアップ手段として衛星通信の提供を行ってきました。運用衛星の増加や通信に対する需要の変化に伴い、地上回線が未整備のエリアや航空機・船舶などへのブロードバンド回線の提供などの事業を展開しています。
通信衛星の特徴は耐障害性・広域性・同報性であり、地震や水害などで地表に障害が発生しても、広いエリアに同じ情報を宇宙から届けることが可能です。例えば、2011年の東日本大震災では、被災によって固定電話回線約190万回線、携帯電話基地局2万9000カ所が利用不可能になりました。また、安否確認のための通信需要の増加により、交換機の処理能力を超えるアクセス集中が発生しました。そのような状況下、スカパーJSATは通信衛星回線を提供し、救援・救命から復旧・復興までのサポートを行いました。
現在、衛星通信は、BCP(事業継続計画)をはじめとして、災害時にも社会活動を継続するためのインフラとして活用されています。さらに地上の通信インフラが未整備の国や地域に通信環境を届けることで、世界的な課題である情報格差の縮小にも貢献しています。
地盤、インフラの
変動を観測スカパーJSATが注力する事業領域の一つが、「スペースインテリジェンス事業」です。同事業では、衛星から得られた画像(リモートセンシングデータ)を、人工知能(AI)や外部データを用いて分析。意思決定に用いることが可能な高度な情報(インテリジェンス)として提供することを主な目的としています。
地上を観測するセンサーとして注目されているのが、合成開口レーダー(SAR)です。SAR衛星は自らが地表に向けて照射し、地表の形状や性質を画像として取得します。マイクロ波は雲を透過する性質を持つことから、天候に左右されることなく、昼夜を問わずに観測可能とします。
SDGsの目標の一つとして、レジリエントなインフラの構築による「住み続けられるまちづくり」が設定されています。日本においても、老朽化が進行するインフラの改修や、防災・減災を目指す国土強靱化が社会課題となっています。SAR衛星を活用し、それらの課題を解決するためのソリューションが「LIANA」です。
LIANAは、当社とゼンリン、日本工営が共同で開発・提供するサービスです。SAR衛星で観測した画像を独自の解析アルゴリズムで分析し、利用者が確認したいエリアの地盤や、インフラの経年的変状を1センチメートル水準の精度で把握。その情報をゼンリンが持つ詳細な地図データおよび、建設コンサルタントである日本工営の知見をもとに、解析箇所の提案から、危険性評価まで行うことも可能です。山奥などの人が赴くのが難しい場所を容易にモニタリングすることが可能で、広範囲のリスクを可視化することができます。
衛星データで
海洋の環境保護当社は「LIANA」をはじめ、衛星データを活用し、サステナビリティーに関する課題を解決する研究開発を行っています。2023年には伊藤忠商事と共同で、カタールの環境省に対し「海洋のオイル漏れ検知サービス」を提供しました。SAR衛星が検出したオイルの位置を、船舶自動識別装置(AIS)の情報と組み合わせて解析することで、流出元である船舶を特定することも可能です。着岸前にオイルを処理することで、湾岸の環境保護に役立ちます。同サービスは、第6回宇宙開発利用大賞で環境大臣賞を受賞しています。
宇宙そのもののサステナビリティーも、今後の重要な課題です。宇宙ビジネスの拡大とともに衛星の数は急速に増え、2022年には単年で2300機以上の衛星が打ち上げられました。それに伴い問題となっているのが、衛星から脱落した部品や、故障した衛星がゴミと化した宇宙デブリの処理問題です。デブリは宇宙を高速で移動し、運用中の衛星に衝突すると甚大なダメージを与えかねません。宇宙の安全利用にとって喫緊の課題であるデブリ問題を解決するスタートアップとして、Orbital Lasersを設立しました。回転するデブリを止める装置を開発・実証し、2029年度には宇宙デブリを除去するサービスの開始を目指しています。
宇宙からSDGsを実現するためには、オープンイノベーションで宇宙関連企業同士が繋がることも欠かせません。当社は、2016年より多数の宇宙企業への投資や協業を推進しています。例えば「QPS研究所」とは衛星コンステレーション(複数衛星を軌道上に展開し、協調して観測・運用するシステム)を活用した事業の拡大への取り組みを開始しており、また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が認定する宇宙ベンチャー「天地人」にも出資を行ってきました。2030年に向けて、宇宙関連ベンチャーに100億円規模の投資を行う方針です。
今後もスカパーJSATは、宇宙をはじめとしたあらゆる空間を活用し、SDGs達成をはじめ皆様の暮らしを支えるべく事業に取り組んでいきます。
0912 宇宙の日 特集 成長基盤を拡充 挑戦の舞台整う

宇宙開発・利用を巡る環境は大きく変化し、市場は活況を呈している。2023年のロケット打ち上げ数は212回と過去最多を記録。衛星データはもはや我々の生活に欠かせない。日本が世界の宇宙産業をリードするために必要なことについて、内閣府に設置された宇宙政策委員会の委員を務める慶應義塾大学の白坂成功教授に話を聞いた。
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科
委員長/教授
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エコシステム構築が
開発を加速国内宇宙産業の技術面を評価すると、小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」の月面着陸や大型基幹ロケット「H3」の打ち上げ成功など、費用対効果の高い、幅広い技術開発に成功しているといえます。ただ、米国のスペースXをはじめとした世界各国の研究開発を取り巻く状況も大きく変化しています。継続的に日本が宇宙産業で力を発揮できるよう、成長基盤となるエコシステムの早期構築が課題です。
宇宙開発といえば、スタートアップに注目が集まりがちです。一方で、スタートアップの技術を下支えするのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとした研究機関が開発してきた技術や人材です。そこで生まれた技術をもとに、企業は技術を発展させます。産業面の裾野が広がれば、技術、アイデア、人材が循環するエコシステムが構築され、宇宙産業の発展が加速します。宇宙開発分野以外にも自動車や工業機械など、優れた産業を複数持つ日本は大きなポテンシャルを秘めているといえます。
最先端技術の開発には、宇宙工学を志す学生を増やす必要がありますが、宇宙産業の成熟度が高くなかったこともあり、社会人として働ける場が限られていました。宇宙産業が急拡大している今では、宇宙工学の学生に限らず、宇宙産業を目指す人の拡大が急がれます。
米国が主導する月探査プログラム「アルテミス計画※1」では、人類の月面滞在を予定しています。近い将来、宇宙空間は民間人も滞在するスペースとなることでしょう。日本航空宇宙学会が公開した「JSASS宇宙ビジョン2050(増補版)」によると、50年代には旅行者を含めて年間で約1万人が宇宙へ旅立つと予測されています。これにより生まれるのは、食料や飲料、家具、自動車など、宇宙活動で必要なあらゆるものに対する需要です。
製品使う場所
宇宙も前提にこれからの宇宙ビジネスで求められるのは、既存の製品、サービスが使われる場所、「仕向け地」の前提を地球だけでなく宇宙も含める発想の転換です。地球を仕向け地として、宇宙で得られたものを地球に持ち帰ることも重要です。例としてCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化 炭素回収・貯留)を挙げます。地球上での使用を前提で技術開発が進むCCSは大規模で、インフラ構築に必要な建築資材を宇宙に運ぶのは非現実的です。宇宙ステーションで試みられている、小型の個体に二酸化炭素を吸着させる技術を確立すれば、地上の脱炭素社会の実現に資する技術となります。宇宙と地球のビジネスは地続きであると念頭に置き、今後は宇宙産業と非宇宙産業によるオープンイノベーションが重要な課題です。
政府の戦略基金
産業創造を後押し宇宙産業の構造は大きく変化しようとしています。研究開発から実用化までを一社が行う垂直統合型から、各社がテクノロジーによって繋がり、ビジネスを展開する水平分業型へ移行するでしょう。
そのような転換点において、政府が宇宙技術開発を支援する「宇宙戦略基金※2」が設置され、今後産業を活性化する上で、重要な役割を果たすと期待されています。民間企業や研究機関の区別なく、基礎研究からマネタイズまで幅広い技術開発に対して交付される同基金は、宇宙ビジネスへの参入障壁を下げ、新規参入業者によるイノベーションを創出します。
従来の官主導の宇宙開発は、「失敗」への恐れによる停滞を招いていました。「税金のムダ使い」と批判されるからです。しかし、状況は変わりました。宇宙戦略基金が示すように、宇宙開発の主体は、官から民への移行が急速に進んでいます。
政府の宇宙基本計画※3に「失敗を恐れず」という言葉が4回も出るほど、挑戦への気運は高まりました。月面利用や宇宙旅行など宇宙に関わるテーマは、夢物語でも遠い未来のことでもなく、近い未来に実現することです。
宇宙に興味をもつ企業や学生の皆さんには、身近なビジネスとして宇宙産業を目指してほしいと思います。
【キーワード解説】
※1 アルテミス計画
米航空宇宙局(NASA)が主導する、地球外での人類の活動範囲を広げることを目的とした国際プロジェクト。持続的な月面探査に向けた月周回有人拠点「ゲートウェイ」を建設するほか、最終段階では月を足がかりとした有人火星探査を行う予定だ。※2 宇宙戦略基金
民間企業や大学などによる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するため、政府がJAXAに設置した基金。「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野で10年間1兆円の支援を予定。本年度から始まった第1期では、3000億円の資金提供を行う。※3 宇宙基本計画
内閣府の宇宙開発戦略本部に策定された、宇宙政策の方向性を示す計画。宇宙産業の基盤強化と利用拡大を実現し、宇宙利用大国となることを目指している。直近では2023年6月に改定された。新たな計画では、アルテミス計画への参加や宇宙安全保障の強化などが盛り込まれた。制定から32年
「宇宙の日」とは1992年9月12日、毛利衛宇宙飛行士が日本人として初めてスペースシャトルに搭乗、宇宙に飛び立った。毛利宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトル「エンデバー」号は9月20日に地球に帰還。同年、科学技術庁(現・文部科学省)と宇宙科学研究所(現・宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)により9月12日は「宇宙の日」と制定された。
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©JAXA/NASA
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身近な経済圏へ 新時代の幕開け
人類が夢見た宇宙は、もう遠くない。宇宙産業は拡大を続け、新たな経済圏として注目されている。技術革新や新産業の発展が経済全体に与える波及効果は計り知れず、2040年には140兆円の市場規模まで成長すると予測される。非宇宙企業が多数参画し、宇宙産業エコシステムが形成される中、見えてくる新時代とは。宇宙産業の今と未来を探る。
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©JAXA
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2024年7月1日12時6分(日本標準時)、「だいち4号」を搭載した「H3」3号機が、種子島宇宙センターから打ち上げられた。ロケットは計画どおり飛行し、打ち上げから約17分後に「だいち4号」を正常に分離。現在、初期機能確認運用が行われている
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日本の技術力
世界を牽引宇宙開発を巡る国内技術の進歩が著しい。2024年1月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が、世界5カ国目となる月面着陸に成功。着陸範囲の誤差を100㍍以内に収めるピンポイント着陸を、世界に先んじて成功させた。同年7月には、次世代大型基幹ロケット「H3」3号機が前号機に続いて打ち上げに成功。先進レーダ衛星「だいち4号」を予定の軌道へ投入し、日本の主力ロケットとしてデビューを果たした。だいち4号は世界最高レベルの解像度を持ち、観測範囲を2号機の4倍まで拡張している。地球全体の定期的な観測により、火山活動や地盤沈下、地すべりなどの異変の早期発見や、災害時の状況把握など、減災への貢献が期待されている。
日本の技術力は、国際プロジェクトでも存在感を放つ。月面の水資源を調査すべく、インド宇宙研究機関(ISRO)などと共同で行っている月極域探査機(LUPEX)プロジェクトでは、日本が月面探査車(ローバー)の開発を担う。打ち上げにはH3ロケットを使用する予定だ。日本はロケット、衛星、宇宙探査の全てを自前で行える自立性を有している。宇宙技術分野のさらなる飛躍で、世界を牽引していきたい。
LUPEXローバーのミッションイメージ ©JAXA
産業多角化
非宇宙企業集う3月に政府がJAXAに設置した宇宙戦略基金の後押しや、技術の進歩でコストを抑えた小型人工衛星の製造が可能になったことが起爆剤となり、大手重工や電機メーカー以外にも、独自の技術を有する中小企業やスタートアップが宇宙産業へ多数参画。宇宙空間での食・医療の課題解決を目指すサービスや宇宙旅行、民間宇宙ステーション(CSS)、微小重力下で行われる創薬研究、打ち上げ時のリスクを補填する保険ビジネスなど、多様なビジネスモデルが展開されている。
国内に設置されたスペースポートは、射場としての役割を超えて、地域経済の活性化への貢献が期待されている。観光資源としての活用や雇用創出、地域企業との連携が進むことで、地方創生の新たなモデルケースとなり得る。
国内企業は通信、工学、医療などの分野で高い技術力を保有している。宇宙プレーヤーの共創や政策支援、技術革新が、宇宙産業の発展を加速させるだろう。
国際協調進め、
社会課題解決へ宇宙産業は、地上が抱える様々な社会課題の解決に貢献し、SDGs(持続可能な開発目標)達成に寄与している。人工衛星の地球観測により、地球全体の温度変化や温暖化ガス(GHG)濃度の変化、海面水位の変化、森林の増減などのデータを収集できる。各国の政策決定にも役立っている。
衛星通信技術の進歩で、インフラが未整備な地域にもインターネットを提供できるようになり、教育の機会を拡充。医療機関が不足している地域では、遠隔で専門医との相談が可能となり、診断や治療の精度が向上する。自動運転技術が確立されれば、交通事故件数の低減や労働力不足の改善に寄与するだろう。
人工衛星の運用の障害になる、スペースデブリ(宇宙ごみ)の対策も、持続的な宇宙利用には欠かせない。国内の民間企業では、デブリ除去技術の開発・実証が進められている。
宇宙の利活用は、社会の持続可能性を探る上で欠かせない。SDGsを共通言語とした国際的な協調の中で、日本がリーダーシップを発揮していきたい。
種子島宇宙芸術祭LIGHT FESTIVAL 2024
2024.11/1Fri~12/8Sun
種子島・南種子町の市街地や種子島宇宙センターにて、「未知を愛そう。」をスローガンにしたライトアートイベント「種子島宇宙芸術祭 ライトフェスティバル2024」を開催します。参加アーティストは16組、作品総展示数23点を予定。宇宙×アートという、唯一無二の幻想的な世界をお楽しみいただけます。
種子島宇宙芸術祭について、詳しくはホームページでご覧いただけます。
次世代通信サービスで
インフラ提供
スカパーJSATは、17機の衛星を保有するアジア最大の衛星通信事業者だ。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、持続可能性と強靭性を備え、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会「Society 5.0」の実現のため、衛星を使って情報、通信をより広範囲に提供できるようにする「Universal NTN」構築を目指す。
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17機の衛星保有
アジア最大の衛星通信事業者地球を周回する衛星は増え続け、衛星通信市場の規模が急速に拡大している。米国グランドビューリサーチ社の調査によれば、世界の衛星通信市場の規模は年間10%のペースで伸び、2030年にはおよそ160億米ドルに達するという。そんな衛星通信市場においてグローバルに存在感を放つ企業が、CS放送サービス「スカパー!」を提供するスカパーJSATだ。
1989年に日本の民間企業として初めて通信衛星の打ち上げに成功した同社は、インド洋~太平洋においては世界最多の静止衛星を運用するアジア最大の衛星通信事業者だ。創業以来、放送や企業の拠点間通信、地上回線のバックアップ手段として衛星通信サービスを提供。運用する衛星の増加や宇宙利用の変化とともに、山間部や過疎地などの地上回線の整備が進んでいないエリアや航空機・船舶などへのブロードバンド回線の提供、災害対策・BCP(事業継続計画)のためのソリューション提供など事業範囲を拡大してきた。近年は、衛星画像などのリモートセンシングデータを活用するスペースインテリジェンス事業も急成長中だ。
地球のあらゆる空間で
高速通信実現政府が提唱するスマート社会Society 5.0。ビッグデータや人工知能(AI)、あらゆるモノがネットにつながるIoTなどの最先端の技術を活用して様々な知識や情報を得られるようにし、経済発展と社会課題の解決を目指す未来社会の姿だ。その基盤として、いつでもどこでも利用できるネットワークの実現が欠かせない。
Society 5.0の実現に寄与すべく、スカパーJSATが開発に取り組む通信ネットワークが「Universal NTN」だ。NTNとは、「Non Terrestrial Network(非地上系ネットワーク)」の略で、地上以外のあらゆる空間での通信を指す新しい言葉である。「Universal NTN」は、多様化する通信に対するニーズに応えるため、NTNのテクノロジーを活用し衛星や空からの通信を一体的に取り扱う同社独自のコンセプトによるシステムだ。
現在、スカパーJSATが保有する17機の衛星は、すべて36,000キロメートル上空にある静止軌道衛星(GEO)だ。複数の静止軌道衛星を連携させてひとつのネットワークとして運用することで、帯域制御などの回線の柔軟性が増すとともに、より障害や混信などに強く信頼性の高い仕組み「GEOコンステレーション」を計画している。さらに、他社が運用するGEOやGEOより低い高度を周回する低軌道衛星(LEO)、LEOより低い高度20キロメートルの成層圏を飛行する高高度プラットフォームシステム(HAPS)と、それぞれ異なる高度の中継装置を組み合わせた通信インフラを構築すれば、通信の能力をGEOだけのネットワークより大幅に高められる。「Universal NTN」として、あらゆる空間を一体化したネットワークのサービス提供を目指す。
この次世代通信サービスがもたらすのは、いつでもどこでも通信を利用可能にする「圏外」のない社会だ。現在、携帯電話の標準化団体「3GPP」は、5Gの規格に衛星通信なども活用するNTNを標準規格として策定を進めており、一部実用化され始めている。「Universal NTN」がこの規格に準拠することで、ユーザーは世界中で市販される端末であらゆるニーズに応じたネットワークを享受できる。さらには地上の携帯電話ネットワークとの互換性ももたらされ、同じ端末が携帯電話ネットワークの圏外になったことに気づかずにいつのまにか衛星通信を利用しているような、いつでもどこでも繋がる、「圏外」という言葉を忘れてしまうような社会が到来するだろう。
フルデジタル衛星2機を
打ち上げ予定プラットフォームの構築と同時に、最先端の通信衛星の投入によってスカパーJSATは「Universal NTN」の実現を推進する。今後打ち上げ予定の「Superbird-9」と「JSAT-31」は、フルデジタルの通信機器を搭載した高速・大容量の通信衛星だ。両者の特徴は、Software-Defined Satellite(SDS)であること。従来の通信衛星は、電波のカバー範囲や周波数帯がほぼ固定されており、打ち上げ後の細かな調整ができなかった。一方、SDSは、デジタル制御によって衛星のサービスエリアや利用する周波数帯域を打ち上げ後にも柔軟に変更可能だ。この機能により、災害発生により需要が急増しているエリアにリソースを手厚く配置するなど、効率的かつ持続可能な運用を実現する。
「Universal NTN」は、静止軌道衛星(GEO)や低軌道衛星(LEO)、地上に近い成層圏を飛行する高高度プラットフォームシステム(HAPS)を、多層的につなげる通信インフラだ。実現すれば情報格差を解消し、安定的な通信サービスを提供できる。
共創によるイノベーションで
課題解決スカパーJSATは、宇宙空間における新たなICTインフラ基盤の構築を目指し、NTTとともに合弁会社「Space Compass」を設立。同社が取り組んでいるHAPSを用いた低遅延通信サービスを、「Universal NTN」に統合することを目指す。さらに、LEO衛星事業者との連携についても強化していく。先行策として、Amazonが手掛けるLEOコンステレーションによるインターネットサービスプロジェクト「Amazon Project Kuiper」との戦略的協業に合意した。GEOにおいても、グローバルアライアンスの強化を推進する。
オープンイノベーションも積極的に進める。「Universal NTN」を推進するための「NTNオープンイノベーション活動」を始動。ビジョンや技術を共有しながらディスカッションを進め、アイデアの実用化を計画する。また、民間のみならず政府などの公的機関とも議論を重ね、少子高齢化や人手不足、経済安全保障、災害激甚化などの社会課題を、「Universal NTN」を通じて解決すべくアクションプランに取り組む。
同社は2030年に向けて、宇宙事業へ2,500 億円規模の投資を行い、既存の設備を活用した事業推進やM&A(合併・買収)をはじめとしたパートナーシップの強化を予定している。衛星を使った通信のシームレスな統合を目指すスカパーJSATの挑戦は、市場に大きなインパクトをもたらすだろう。
「月面着陸の日」特集 「月面経済圏」構築へ
人類初の月面着陸から半世紀。米国のアルテミス計画を筆頭に、月面探査・開発に向けた取り組みが推進されている。国内では民間の宇宙産業支援を目的とした「宇宙戦略基金」が設置され、非宇宙企業を含む様々な先駆的企業が、月面での技術実証や関連サービスなどの分野に参画している。産業面の裾野が広がり、成長分野として市場拡大の機運が高まる中、政府は2024年3月に「宇宙技術戦略」を策定。来るべき月面経済圏構築に向けて鍵を握る技術分野を定め、開発のロードマップを示した。国際的な競争力の確保に向けて、求められる重点技術とは何か。月面戦略の現在地を探る。
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高精度着陸技術を確立月面の長時間太陽が当たらない場所には、水資源の存在が示唆されている。このような太陽光発電を活用できない環境の調査では、誤差を最小限にして調査エリア近辺に着陸する技術が不可欠だ。2024年1月、日本の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が、着陸の誤差を100㍍以内に収めるピンポイント着陸に成功。着陸精度を従来の10倍以上に高め、世界に技術的優位性を示した。月着陸技術は、調査活動の自在性を高める上で中核を担う。今後は輸送能力や着陸の安定性を高め、月面への物資輸送技術などへ発展すると期待される。
小型月着陸実証機「SLIM」の着陸時に撮影された画像
国際的な枠組みに参画を月面通信を円滑にするには、地球間との大容量データのリアルタイム通信を実現する光通信技術や、コストを抑えたインフラ構築を可能にする、衛星の小型軽量化技術の進歩が欠かせない。また、月測位衛星システム(LNSS)が確立されれば、月面活動の運用性の大幅向上が期待できる。通信・測位技術を巡っては、欧米各国を中心にインフラや規格を共同利用する方向で研究開発が進められている。日本もその枠組みに参画し、優位にインフラの開発・利用に関われるようにし、独自性の高い技術を生み出して早期から貢献していきたい。
将来の月面基地のイメージ
©JAXA
広域探査を支える足広域かつ長期的な月面探査では、移動機能を担う技術の発展が欠かせない。既に多数の非宇宙企業が参画している分野であり、地上の産業振興の面でも大きく期待されている。2031年に予定されているアルテミス7ミッションでは、JAXAが開発している有人与圧ローバーが使用され、以降10年間運用される予定だ。日本の技術力を世界に示すこととなるだろう。
有人与圧ローバーのイメージ
©TOYOTA
急がれる水資源の発見月面を活動拠点とするためには、水資源を代表としたエネルギー源の確保が重要だ。日本はインド宇宙研究機関(ISRO)などと共同で、月面の水の量と質に関するデータ取得を目的とした、月極域探査(LUPEX)ミッションを行っている。十分な水資源が発見されれば、飲料水はもちろん、植物の生育やロケット燃料の原料としての活用が期待できる。
無人月面探査(水資源)のイメージ
©JAXA
宇宙誕生の秘密に迫る2024年5月、JAXAは月面天文台を月の裏側に設置し、宇宙観測を行う方針を発表した。月面環境では大気や電波の影響を受けないため、高精度な観測が可能となる。JAXAは地上からは難しい周波数の電波観測を通して、ビッグバンが起きた後の暗黒時代を探り、宇宙誕生の謎を追求する。早ければ28年度から観測を開始する予定だ。
月面に設置した月面天文台のイメージ
©JAXA
「燃料」を効率的に使用持続的な月面活動の実現に向けて、月資源の効率的利用に関する研究が進んでいる。2022年10月に国際宇宙探査協働グループ(ISECG)が公表した「国際宇宙探査ロードマップ追補版2022」では、月面の砂(レゴリス)を原料に生成した燃料を、月軌道に浮かぶゲートウェイと月面拠点間を往復する宇宙機に使う構想が掲げられた。国内ではスターダストプログラムの一環として、無人建設技術や、食料生産技術、資源再生技術の研究開発が進められ、資源循環型食料供給システムの実現を目指している。
ゲートウェイ補給機(左)とゲートウェイ(右)のイメージ
©JAXA
月面農場(100人規模)のイメージ
©JAXA持続的な電力供給を月面への長期滞在や火星探査に向けた、発電技術や蓄電技術、送電技術の研究開発が進む。日照と日陰が2週間ごとに変化する月面環境では、日陰時の寒冷を乗り切る保温・断熱技術や、効率的な発電技術が求められる。現在の月面活動は、日照時の発電が前提条件だ。今後、日陰時の発電技術や無線送電技術が確立されれば、永久影の探査など、月面活動の運動性向上につながる。国内では非宇宙企業が多数参画して研究開発が進んでいる。高い技術目標への挑戦を通し、地上の技術力の底上げも期待したい。
地球の大気圏外に広がる果てしない宇宙空間。そこは探求心を刺激し、人類を挑戦へと駆り立てる。2024年1月、宇宙研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」は、驚異のピンポイント月面着陸で宇宙史に新しい足跡を残した。続く次世代ロケット「H3」2号機の打ち上げ成功は、失敗から学び、1年かけてあらゆる再発防止策を施しての偉業達成だった。月に基地などのインフラを造り、輸送、資源活用、情報・通信、農場での食物生産、旅行などを目指す活動が本格化している。宇宙・月面産業をめぐる国際競争で、日本の宇宙開発を担う切り札となるだろう。
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1968年に月を周回したアポロ8号の乗組員、ウィリアム・アンダースは「我々は月を探査するためにここまで来たが、最も重要な発見は地球そのものだった」と語った。宇宙への挑戦とともに、地球上の社会課題解決にも宇宙の利活用が注目される。衛星データの活用により、高精度な災害関連情報の共有、地球環境や温暖化ガス排出量のモニタリング、森林の変化状況の管理、漁業や畜産業への応用などが可能となった。国際宇宙ステーション(ISS)では、地上の医療にも寄与する医学実験が進む。
宇宙ビジネスには無限の可能性が広がる。SLIMが再起動、H3ロケットが失敗から再起したように、諦めずに挑戦し続ける熱意が、宇宙領域と地球の未来を切り拓いていくに違いない。
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©JAXA
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©JAXA
2024年2月17日(日本時間)に「H3」2号機が打ち上げられた。予定されていたミッションを完了し、初号機の失敗を乗り越える大躍進を果たした。性能向上と低コスト化を両立し、日本の宇宙開発利用の新たな主軸を担うと期待される。6月30日には地球観測衛星「だいち4号」(右)の打ち上げに使用される予定だ。
©JAXA
JAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が、2024年1月20日(日本時間)に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を果たした。日本初、世界では5カ国目の成功となった。
©JAXA/NASA
国際宇宙ステーション(ISS)から撮影された地球と月
撮影日:2024年2月21日(日本時間) -
宇宙市場 経済成長の源泉へ
宇宙にかける人類の開拓者魂はとどまることを知らない。宇宙開発は、今やビジネスの最前線。世界での市場規模は2040年には150兆円まで成長すると期待されている。また、米国のSpaceXによる世界初民間有人宇宙飛行の成功を皮切りに、民間主導の動きが本格化。国内では23年に宇宙基本計画が閣議決定され、国内市場規模を20年の4兆円から30年代早期までに、2倍の8兆円まで拡大する方針が示された。宇宙ベンチャーが多数参戦し、成長産業として注目が集まる中、1年間で関心を集めたトピックを紹介する。
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2023.04.01宇宙プレーヤーをつなぐ クロスユー活動開始

日本橋を中心に、非宇宙企業の参画を推進するオープンプラットフォームが始動。会員数(企業・団体・個人)は1年間で250を超え、多種多様な業界のプレーヤーの共創による、宇宙産業のさらなる活性化を図る。
2023.06.13日本 宇宙基本計画を改訂宇宙開発利用に関する基本方針「宇宙基本計画」の改定が行われた。注目すべきポイントはJAXAの機能強化だ。民間事業者やアカデミアの技術開発への資金供給機能が強化された。産学官の結節点として働き、国内の技術力の底上げを担う。
2023.06.29ヴァージン・ギャラクティックが商業宇宙飛行に成功ヴァージン・ギャラクティックによる同社初の商業宇宙飛行が行われ、6人のクルーが宇宙空間へ到達した。離陸から約70分後に無事帰還。2024年1月には6度目の商用宇宙飛行に成功。宇宙旅行ビジネスの先駆けとして注目される。
2023.08.23インド 世界4カ国目の月面着陸成功インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が、月の南極付近に降り立った。月面着陸の成功は米国、旧ソ連、中国に続く世界4カ国目であり、南極付近への着陸は世界初となる。
2023.10.07Amazon 通信用の試験衛星の投入に初成功Amazonは地上で場所を問わず高速通信が可能になる衛星通信網「Project Kuiper」の構築に向けた、試験的な人工衛星の打ち上げに成功した。2024年には一部サービスの提供を見込み、29年までには衛星3200基余りを低軌道に投入する予定だ。
2023.11.18SpaceX「Starship」 2回目の飛行試験を実施SpaceXは全長120㍍の次世代大型ロケット「Starship」の2回目の飛行試験を行った。1回目では失敗した第一段エンジンの分離には成功したものの、打ち上げから8分後に機体が爆発する結果となった。
※24年3月14日に3回目の飛行試験が行われた2024.01.20日本 世界で5カ国目の月面着陸成功
©JAXAJAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が日本初となる月面着陸に成功した。世界ではインドに続く5カ国目となる。また、着陸の誤差を100㍍以内に収める「ピンポイント着地」を世界に先駆け達成。日本の技術力を世界に示す快挙となった。
2024.02.17JAXA H3ロケット2号機打ち上げ成功
©JAXAJAXAは次世代大型ロケット「H3」2号機の打ち上げに成功した。小型衛星2基を所定の軌道に投入し、ロケットの性能確認用の模擬衛星の分離も成功。初号機の失敗(2023年3月7日)を乗り越える形となり、日本の国際競争力確保に向けた大きな前進となった。
2024.02.23米企業 世界初の民間月面着陸に成功米インテュイティブ・マシーンズの月着陸船「Nova-C」が、月面着陸に成功した。民間企業の月面着陸の成功は世界初となる。本プロジェクトは月面に貨物を輸送する商業月面輸送サービス(CLPS)計画の一環として行われた。
(2024年3月28日現在)
数字で見る2023 Topics
212回宇宙開発競争の激化により、世界的にロケットの打ち上げが活発化。2023年の打ち上げ本数は前年比18%増となり、過去最高を示した。シェアの半数近くを米SpaceXが占める結果となり、日本の打ち上げ本数は2本に留まった。
3社月面探査を計画する「ispace」、衛星データ分析サービスを提供する「Ridge-i」、衛星コンステレーションを構築する「QPS研究所」の3社の宇宙ベンチャーが上場する年となった。民間主導の時代を迎え、今後さらなる国内宇宙関連企業の上場が期待できる。
12回目2023年8月からおよそ半年間にわたって、古川聡氏がISSに長期滞在した。日本人宇宙飛行士では12回目となる。ISSでは月探査に向けた水の再利用に関する実験や、高品質たんぱく質結晶の生成実験、微小重力下での固体材料の燃え方を調べる実験などが行われた。
2024年も
注目のイベントが多数国内民間初 月面着陸へ再挑戦宇宙ベンチャー「i space」は、独自開発した着陸船による月面探査プログラム「HA KUTO-R」のミッションを2024年冬に実施予定だ。月への挑戦は2度目だが、着陸に成功した場合、国内初の民間月面着陸の達成となる。
中国 月面探査機「嫦娥6号」打ち上げ中国国家航天局(CN SA)は、世界初となる月の裏側からのサンプル回収を目指し、「嫦娥6号」の打ち上げを発表した。着陸予定地点のクレーターは巨大な衝突によって深く削られており、調査することで月の内部構造の解明に近づくと期待される。
「だいち4号」打ち上げを計画JAXAと三菱電機で共同開発された地球観測衛星「だいち4号」は、観測にレーダーの反射を用いるため、夜間や悪天候でも観測できる特徴を持つ。また、3㍍の物体を識別できる高精度レーダーで、災害時の状況把握や地殻変動の観測による防災・減災への貢献が期待される。
日本の宇宙ビジネスに貢献する
スカパーJSAT
メディア事業だけでなく宇宙事業に取り組み、多数の衛星を運用するスカパーJSAT。衛星通信事業者の根幹ともいうべき衛星管制センターを取材した。
17機の衛星を保有
アジア最大の事業者
スカパーJSATは、17機の衛星を保有するアジア最大の衛星通信事業者であり、サービス提供範囲は、アジア太平洋地域を中心に世界の大部分をカバーしている。中核事業であるメディア事業の放送電波の送信をはじめ、船舶や航空機へのネットサービス、災害対策などの幅広いサービスを提供している。
サービス提供に欠かせない衛星を管制する中心的な拠点が、神奈川県横浜市にある「横浜衛星管制センター(YSCC)」だ。1989年に同社初の通信衛星「JCSAT-1」が打ち上げられたが、その2年前の87年から稼働を開始した。現在では運用する衛星を365日、万全の体制で管理している。
約1万㎡の広大な敷地には、直径4m以上の大型アンテナが29基立ち並ぶ。
運用対象は日本上空にある静止軌道衛星12機と低軌道衛星1機
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監視技術を合理化
横浜衛星管制センター今年3月、YSCCの関係者向け見学ツアーが開催された。YSCCは、大きく2つのエリアに分かれている。1つは衛星の状態監視と軌道調整を行う「YSCCサテライトポート」だ。管制室では、衛星が発信する自身の状態情報「テレメトリー」の監視および、衛星の軌道上の位置調整を行う。24時間体制のシフト制業務で、時間帯ごとの管制員はわずか2~3人と、合理化された監視技術に見学者は驚きの声を上げた。
もう1つのエリア「YSCCテレポート」では、同社が運用する衛星通信を利用したサービスシステムおよび、電波品質の管理を行っている。回線運用部では、海外の顧客対応のために英語が堪能な担当者が常駐するなど、世界的な需要の高さがうかがえた。
また、拠点の安定運用にも力を入れている。YSCCテレポートエリア内の地下に、巨大な非常用発電燃料タンクを増設。6万㍑の燃料が備蓄され、万一災害などが起こり電力が遮断されても約2週間の運用が可能だ。再生可能エネルギーへの切り替えなどで、環境負荷低減にも取り組んできた。
同社はYSCCを拠点として、衛星データを活用したソリューション開発、光通信技術の研究開発、宇宙ゴミの除去など、未来を見据えた事業を展開してきた。同社宇宙技術本部の石毛佑季氏は「30年以上、YSCCで培ってきた衛星の管制、運用などの技術を、新たに宇宙を目指す企業の皆様に活用してもらいたい」と語る。
スカパーJSATが民間独自で切り拓いてきた技術や経験が、今後の日本そして、世界の宇宙ビジネスを支え、発展に導くだろう。
YSCC見学ツアー参加者は衛星運用について説明を受け、
管制員がモニターを監視する様子なども目にすることができた重要性増す衛星運用管理
神武 直彦 氏
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科
教授衛星は日常生活に欠かせないインフラとなった。地球上どこへでも通話やインターネット接続を提供する通信衛星はデジタルデバイド(情報格差)を解消し、測位衛星はスマートフォンなどのナビゲーションや時刻補正に活用されている。災害対策や農業生産の安定化などの社会課題解決にも衛星が利用されている。近年は衛星の数も質も飛躍的に向上し、そこから得られる多様な衛星データを活用した共創のフェーズに突入した。スカパーJSATが取り組む衛星の運用管理は、ますます重要性を増していくだろう。
宇宙ビジネス羅針盤 Vol.04 月面ビジネス
宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。
月面利用へ民間の参入加速
2024年1月20日、日本の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」がミッションに成功しました。他にも有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」、日本とインドが共同で挑む「月極域探査ミッション(LUPEX)」など、月関連のプロジェクトが進められ、月面ビジネスに注目が集まっています。
月面に関する市場では、研究者や民間人を月まで運ぶ打ち上げサービスなどの月輸送、月面で活動する上で欠かせない月データ・宇宙資源の活用が期待され、他にも通信、自動車、建築・インフラ、旅行、農業などへ分野が拡大。コンサルティング大手PwCは、2040年までに市場規模が1700億ドル(約25.6兆円)に上ると試算しています。「SLIM」搭載の「SORA-Q」を開発したタカラトミーをはじめ、自動車、建設、食品、保険などの民間企業が宇宙事業に進出。参入を検討する企業は100社を超え、今後も拡大するでしょう。
民間主体で月面産業を創造していくことで、従来の官主導から民主導への転換が進み、宇宙開発事業でのイノベーション創出が期待できます。

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FRONTLINE
月面着陸に成功した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」。100㍍精度のピンポイント着陸を世界で初めて達成し、これまでより軽量な月惑星探査機システムを実現した。小型プローブにより自機の写真を撮影して地球へ転送。着陸時の飛行データ取得や、月面の詳細な観測も成し遂げた。
変形型月面ロボット(LE V-2)「SORA-Q」が撮影・送信した月面画像
©JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学
宇宙ビジネス羅針盤 Vol.03 ダイバーシティー
宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。
多様な人材 発展のけん引役に
政府の宇宙基本計画では、2030年代早期に宇宙産業の国内市場規模を8兆円とすることを目指しています。衛星や地上設備から観光、衣食住など、その裾野は確実に拡大しています。また必要な人材は、宇宙飛行士やエンジニアはもちろん、宇宙服デザイナーや天文台ガイド、宇宙関連企業の広報など多岐にわたります。
市場の裾野が広がってきたからこそ重要なのは「ダイバーシティー(多様性)」。宇宙産業では、過酷な宇宙環境を想定した新たな発想力や、月などへの長期滞在を想定した場合の女性ならではの視点など、理系文系隔てなく各分野を横断したアイデアを結び付ける必要があり、多様なグローバル人材が欠かせないといえます。
宇宙ビジネスが多様な人材を受け入れる鍵は教育にもあります。科学、技術、芸術などを横断的に学ぶSTEAM教育は、宇宙教育の観点からも注目されており、国や教育機関もグローバル人材の育成を推進しています。教育とダイバーシティーがつながることで、今後も持続的な宇宙産業の成長、発展に期待できます。

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宇宙ビジネス羅針盤 特別編
衛星データ活用術
ラグビー × 衛星データで
ケガを防ぐ
衛星データを様々な分野のビジネスに役立てる取り組みが活発化している。宇宙システムを用いた数多くのプロジェクトを手がける神武直彦氏に、ラグビーと畜産への活用事例について聞いた。

神武直彦 氏
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。大学院修了後、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)入社。2009年より現職。日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部アドバイザーなどを歴任。慶応キッズパフォーマンスアカデミー代表
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地球を周回する人工衛星の数が急速に増え、天気予報や災害監視、衛星放送といった様々な目的で利用されています。その中で皆さんにとって最も身近な人工衛星の一つは、米国の全地球測位システム(GPS)や日本の準天頂衛星「みちびき」に代表される測位衛星でしょう。ほぼ全てのスマートフォンには測位衛星からの電波を受信する機能が付いていて、皆さんは行きたい場所への検索やナビゲーションを行うことができます。
陸上競技やサッカー、ラグビーなどの屋外スポーツでも測位衛星は利用されています。例えば、つい先日まで開催されていたラグビーW杯では、各選手のジャージの背中上部あたりに測位衛星受信機が装着されていました。それによって選手の動きや体への負荷を把握できるので、戦略の立案やケガの予防、個々に合わせたトレーニングメニューの作成などが可能になります。この取り組みは、日本代表やプロチームだけではなく、学生・地域スポーツでも徐々に取り入れられつつあります。また、国内外で行われている放牧において、牛の運動量や場所の把握、体調管理に活用されるという新たな広がりも生まれてきています。

Project Recipe
ラグビー編
<材料>
► 練習や試合時の選手に装着したGPS(GNSS)受信機を介して得られる測位衛星の信号からの緯度・経度・高度・時刻データ
► 練習や試合時の選手の動きを撮影した映像データ
<調理方法>
► 選手ごとの緯度・経度・高度の変化を時刻データによって分析することで速度や加速度を算出し、選手の動きのスピードや、動き出しの速さを数値やグラフで表示(相手よりもいかに速く、優位なプレーにつなげることができるかの分析と練習メニューへの反映、戦略立案に活用)
► 分析結果を取りためた練習や試合時のデータから、選手ごとに一定期間のトレーニングの負荷を算出し、数値やグラフで表示(腿裏やふくらはぎへの負担によるケガを予防するなどトレーニング負荷のコントロールに活用)
► 上記のデータと映像データを組み合わせて表示(実際の練習や試合時の動きと、そのときの数値を対応付けて確認)
宇宙は創造の空間
1992年9月12日、毛利衛さんは日本人として初めてスペースシャトルに搭乗し、宇宙に向かった。それから30年。多くの日本人宇宙飛行士が宇宙滞在を経験し、民間の宇宙ビジネスも急成長を始めている。これからの宇宙開発、そして宇宙産業に期待することは何か。毛利さんの初フライトを記念して制定された「宇宙の日」に合わせて、話を聞いた。


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喜びよりも次につなぐ責任感
1983年にスペースシャトルに搭乗する初の日本人宇宙飛行士の募集がありました。日米共同実験プロジェクトのテーマはFMPT(第1次材料実験)。大学で宇宙のような超高真空空間を再現したチェンバーを使い、核融合や材料の表面解析などの研究をしていた私は、宇宙空間そのもので実験ができないことにもどかしさを感じていたこともあり、夢を実現できるチャンスと捉えてこれに応募しました。
85年に私を含む3人が選考を通りましたが、一番年長で、プロジェクトに一番近い材料研究者でもある私が最初の一人に選ばれるだろうと感じていました。しかし、直後のチャレンジャー号の事故で、いつ宇宙に行けるのか分からなくなり、全国の研究機関を巡り、訓練を続ける日々となりました。私が本当に選ばれるのか分からない状況のまま、オリンピックの最終選考に臨むような思いで、米国での訓練を経て、日本に帰国。打ち上げ予定一年前の90年に最終決定が下されました。
もちろん個人的にはうれしかったのですが、後に続く2人に有人宇宙飛行のチャンスを確保するためにもプロジェクトを成功させなければいけないという責任感の方が強かったと思います。宇宙服の両肩にはそれぞれ日の丸と星条旗が付いています。米航空宇宙局(NASA)のミッションに協力し、成功に導くことに注力しました。
さらに燃料タンク漏れのトラブルもあり、実際に宇宙に向かったのは92年9月12日でした。NASAの搭乗訓練は素晴らしく、打ち上げ直前には、必ず大成功すると確信を持つほどの自信をつけてくれました。ところがミッション初日にいきなり、電気炉の冷却水が水漏れを起こすトラブルに見舞われました。喜びが一気に吹き飛び、日本の実験がすべてだめになる、次につなげることができないのでは、と宇宙で恐怖を感じたのを覚えています。
日本語で世界初の宇宙授業
宇宙と地上とで図面を合わせながら修復作業に取り組み、2日目には何とか水漏れを止めることができました。結果的に5つの電気炉で半導体関連を中心に34の実験テーマに取り組むというミッションをすべて成功裏に終えることができました。
それ以上にうれしかったのは、宇宙からNASAのプログラムとして初めて日本の子供たちに向けて宇宙授業ができたことです。宇宙の公用語は英語のみですが、この時初めて日本語で話すことができました。私の宇宙からの映像を見てワクワクしている子供たちの様子が忘れられません。私の宇宙飛行が後に続く若者に影響を与えたこともうれしいことです。その多くの一人として、宇宙ゴミ除去のアストロスケールホールディングスを創業した岡田光信氏がいます。起業したきっかけも私が書いた「宇宙は君の活躍するところ」という色紙だったそうです。
宇宙からの帰還後、有人宇宙活動推進室長に就任しました。私自身が最初に宇宙に行った際は「ペイロードスペシャリスト」という資格でしたが、国際宇宙ステーション計画に本格的に参画するには宇宙飛行士として様々な活動に従事できる「ミッションスペシャリスト」を増やす必要があると考えました。責任者である私も資格を取得する必要があると考え、98年に取得。2000年には再びスペースシャトルに搭乗し、レーダーで地表の凹凸を観測し、高精細な3次元データを整備するSRTMというミッションを担当しました。宇宙のビジネス利用が盛んになるきっかけとなったミッションにかかわることができたことがとても幸運だったと感じています。
宇宙開発で地球の持続性を
こうしたデータ収集はアメリカ国家の利益のためだったのですが、14年に米オバマ大統領が詳細なデータを無料で民間に開放したことが起点となり、宇宙ビジネスが一気に加速します。軍事に使われていたテクノロジーが民間に開放されることで、ビジネスが活発化するというオープンデータイノベーションのお手本を米国が示してくれたのです。日本でも「Tellus(テルース)」と呼ばれる衛星データプラットフォームの整備が進んでいますが、データを増やし、無料で民間の使い勝手を高めることが重要です。
地球上の人口が指数関数的に増え続けている中、人類は持続的に生き残れるかどうかの岐路に立っています。宇宙開発は人間を含む地球生命を持続的に守るためにあるのです。かつて色紙に書いていた「宇宙は創造の空間」という言葉を改めて伝えたいと思っています。

着陸後関係者に手を振る毛利衛宇宙飛行士。1992年9月20日(日本時間)
©JAXA/NASA
エンデバー号着陸(ケネディ宇宙センター)
©JAXA/NASA宇宙の日 30年史

エンデバー号の打ち上げ 1992年9月12日10時23分(現地時間)
©JAXA/NASA
人工衛星の進化 市場を拡張
人類初の人工衛星が宇宙に飛び立ってから65年。人工衛星は進化を続け、活躍の場は通信や放送、位置情報にとどまらない。地球の状態を精緻に観測できるようになってきたことで、幅広い分野に及ぶ。近年では人工知能(AI)技術との高い親和性により、用途は加速度的に増加している。宇宙ビジネスをけん引する人工衛星の現状を探る。

技術試験衛星9号機(ETS-9)
商用衛星市場でシェアを獲得すべく開発されている技術試験衛星。宇宙産業や科学技術基盤の維持・強化を目的とし、25年に打ち上げが予定されている。
©JAXA
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技術革新で参入企業増加
衛星ビジネスをめぐる環境は大きく変化している。宇宙産業は莫大な費用がかかるため、これまで参入は各国の政府機関、一部の大企業に限られていた。しかし、技術革新による人工衛星の小型化・高性能化が可能となったことにより、製造・打ち上げにかかるコストが大幅に減少。政府によるスタートアップ補助金や、衛星の打ち上げを金銭的に補償する宇宙保険の登場もあり、新規企業が参入しやすい環境が整った。
現在、国内には宇宙スタートアップは100社近く存在している。様々な宇宙プレーヤーの登場が共創を呼び、ビジネスの広がりが期待されている。
広がる活躍の場
軌道上から見渡した情報を提供する衛星データは、リモートセンシング(対象物に触れずに形や性質を計測する技術)により、農作物の生育予測や魚群探知、災害リスク測定まで活用の場が広がる。また、環境保護への貢献も期待されている。2009年に打ち上げられた「いぶき」は温室効果ガス観測技術衛星で、世界各地の温室効果ガス濃度分布を観測可能だ。いぶきが収集したデータは各国に無償で配布され、地球温暖化対策に役立てられる。人工衛星は地球の未来を守る重要な役割を担っている。
次世代通信 実装進む
技術革新を背景に、複数の小型衛星を一体的に機能させる、衛星コンステレーションが注目を集めている。地球近くを周回する低・中軌道の非静止衛星を使用するため、静止衛星と比較して低遅延・高速通信が可能だ。また、地表を網羅するように配置されることで、世界全域の陸海空でサービスを受けられる。すでに米国のGPSを代表に、社会に不可欠なインフラとして存在している。
国内では測位に役立つ準天頂衛星システム「みちびき」や、通信ではハイスループット衛星通信技術の確立に向けた技術試験衛星9号機(ETS-9)などがインフラとして整備が進められている。拡大を続ける宇宙ビジネス。人工衛星が人類を次のステージへ導くに違いない。
国産衛星測位システム確立へ
位置情報サービスの提供を目的とし、日本・アジア太平洋の上空で稼働している準天頂衛星システム「みちびき」。日本のインフラとして整備が進められ、現在4基が稼働中だ。センチメートル級の高精度な測位が可能であり、測量や自動走行、ドローンなど活用の場は幅広い。25年には7基体制での運用を予定。実現すれば他国の人工衛星に頼らない位置情報取得手段(RNSS:地域的衛星測位システム)を確立できる。

準天頂衛星初号機「みちびき」衛星CG
©JAXA
衛星データで地上を守る
スカパーJSAT
スカパーJSATは、衛星データを地上で活用するソリューションビジネスを展開している。
スペースインテリジェンス事業部に話を聞いた。
アジア最大級の衛星通信事業者
スカパーJSATは、16基の静止衛星を保有・運用するアジア最大級の衛星通信事業者だ。その事業領域は2つに分けられる。一つが有料多チャンネル放送「スカパー!」を運営するメディア事業。もう一つが宇宙事業だ。航空機や船舶へのインターネット接続環境の提供、映像の伝送、災害時のバックアップ回線など、幅広い通信サービスを展開する。今後、同社初のフルデジタル通信衛星の打ち上げも予定しており、日本をはじめとする東アジア地域における一層の事業拡大と競争力強化を目指している。
従来の衛星通信事業にとどまらない、新しい事業領域への取り組みにも積極的だ。2018年にはスペースインテリジェンス開発部(当時)を設置した。国内外の低軌道衛星事業者が運用する地球観測衛星のデータを取得し、解析・活用したサービスを提供する。近年、低軌道に多数の衛星が打ち上げられ、得られるデータソースが大幅に拡充した。そこに同社が保有するデータや、独自のAI技術を組み合わせ、操作性を高めたアプリケーションとして届けることがミッションだ。

宇宙とメディアの2本柱で、事業領域を拡大。社会と会社の持続的成長を目指す。
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広範囲の災害リスクを可視化
同社は22年に、企業・自治体向けのサービス「LIANA」(リアーナ)の提供を開始した。衛星データの活用により、斜面やインフラの変動量をミリメートル単位でモニタリングし、予防・保全をサポートする。LIANAは3社が提携して提供する。衛星データをスカパーJSATが独自のアルゴリズムで分析し、変動量などをゼンリンの地図上に表示。総合建設コンサルタントである日本工営が、解析箇所への提案やリスク評価を行う。
解析に用いるのは、合成開口レーダー衛星(SAR衛星)が取得したデータだ。SAR衛星は雲を透過し、太陽光が必要ないマイクロ波を利用するため、天候や時間に関係なく観測ができる。用途としては地震や津波など災害に備え、斜面や盛り土などの土構造物を監視する。また社会課題である老朽化インフラについて、改修時期を判断する際に活用できる。広範囲のリスクを可視化することで保守作業を省力化。労働力不足の解消にも寄与する。「LIANA」は、国内のみならず海外展開も視野に入れている。
スカパーJSATでは、従来の通信事業に力を入れながら、宇宙分野の新技術活用と事業領域拡大を目指して、2030年までに1500億円以上を投資予定だ。業界の垣根を越えた共創が、宇宙ビジネスの進化を加速する。

ユーザー画面イメージ。斜面の赤は隆起傾向、青は沈下傾向を表す。
時系列で変動傾向を示し、危険度を評価する。
「アマテル-III」衛星によるSAR画像(横浜)。
民間SAR衛星で国内最高の分解能・画質を誇る。
©iQPS.inc
宇宙ビジネス羅針盤 Vol.02 宇宙教育
宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。
人材育成は発展の柱
大幅な成長が予想される宇宙産業では今後、多くの人材が求められます。日本で航空宇宙産業に携わる人材が約8500人(2020年)であるのに対し、40年代後半には少なくとも16万人以上の人材が必要になると宇宙政策委員会は試算します。これまでの宇宙産業は、政府主導のもと、大型ロケットなどの研究開発を軸に発展してきました。しかし今後は、民間企業による参入の加速、月面を含む人類の活動領域の拡張などにより、産業の拡大と多様化が急速に進みます。そこでは、あらゆる産業分野から優秀な人材を呼び込み、育成することが不可欠となります。
そこで今、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は学校や地域と連携した教育支援活動を実施し、大学は宇宙産業界で活躍する人材育成に力を入れています。人材の流動性を高め、より戦略的な人的基盤を確保するには、各機関の連携によるコミュニティー強化も重要です。
これらの取り組みを通じて多くの人材を育てることが、今後の宇宙産業のさらなる発展につながるのです。

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FRONTLINE
JAXAは、05年に宇宙教育センターを設立。小中高校生を対象とした独自の授業や、学校教員、指導者の育成・支援などを行っている。宇宙開発フォーラム実行委員会(SDF)は、法律やビジネスなどの文科系的な視点が今後の宇宙開発にとって不可欠であるとし、様々な分野の学生や社会人が集うフォーラムの開催などを通じた啓発に取り組む。


昨年9月に開催された「宇宙開発フォーラム2022」の様子
©宇宙開発フォーラム実行委員会
月面産業革命
好機をつかめ
日本の月への挑戦が再始動する。8月26日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月探査機「SLIM(スリム)」などを搭載したロケット「H2A」47号機が打ち上げられる。豊富な資源の存在が明らかになり、2040年代には民間開発の爆発的な加速が起こると見られる月面。人類の新たな時代を切り拓く可能性が秘められている。

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民間が大転換の起爆剤に
「日本は宇宙開発において、大いに活躍できるだろう。高い品質の維持と低コスト化の両立を実現するには、日本のものづくりの力が不可欠だ」。ハーモニック・ドライブ・システムズの清澤芳秀フェローは、このように語る。
宇宙産業が目覚ましい成長を遂げる中、次世代の発展の鍵として注目されるのが月だ。各国が月面開発を加速させる背景には、月の価値の急上昇がある。月面での資源開発が現実化しつつあるのだ。実は約50年前のアポロ計画以降、人類が着陸機を月面に送り込んだ回数はごくわずかで、月には未知の点が多い。しかし、近年の探査は、豊富な水資源の存在を明らかにした。さらに、太陽光パネルの素材となるシリコンや、未来の発電エネルギーを担う希少元素、ヘリウム3が多く存在することも分かってきた。これらの資源をエネルギーとして利用すれば、地球からではなく、月面から地球周回軌道上に向けた、より低コストな物資輸送を実現できる。
注目すべきは、「月面産業革命」と呼ぶべき大転換が起こり得ることだ。米国によるアルテミス計画や中国による嫦娥(じょうが)計画等、現在の月面開発の多くは国家主体で推進される。しかし、官民の相互連携によって、2030年代に民間活動が拡大。40年代に民間が主導する開発の爆発的な加速が起こると予想されている。月が従来の宇宙開発の主戦場である地球周回軌道と大きく異なるのは、重力と地面を持つ天体であることだ。様々な産業の技術やアセットが投入され、有人滞在拠点の建設、資源探査等の活動が進む。やがて月面で創出された産業とエコシステムは、月と地球の生存圏・経済圏が一体となった新たな時代を生み出す—— 。
*月面産業ビジョン協議会「月面産業ビジョン協議会 —Planet 6.0時代に向けて—」を参考に、一部を加工・追記して作成
日本の強みを生かせるか
宇宙先進国である日本にも注目が集まる。日本政府による月面開発・利用の年間予算は140億円(20年)で、米国の9200億円(21年)の2%にも満たない。一方で、月輸送分野における日本のシェアは30年代後半に中国を抜き、米国に次ぐ世界第2位に成長するとPwCコンサルティングは試算する。日本の強みは、既存産業の裾野が広く、各産業が競争力の高い技術を有する点だ。さらに、建設、自動車、食品、保険等の様々な分野の企業が月面開発に取り組み始めており、その数は100を超える。世界的に見ても群を抜く水準だ。
これまで数々のフロンティア開拓で諸外国の後塵(こうじん)を拝してきた日本。この新しい産業領域におけるリーダーシップ発揮の分水嶺は、官民の適切な役割分担やルールの整備をいち早く進め、民間の参入を加速することにある。

宇宙ビジネス羅針盤 Vol.01 スペースポート
宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。
人をつなぐ新たな拠点
スペースポートと聞いて何を連想しますか——。中にはアニメや映画で見たフィクションの世界を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし今、急増する人工衛星の打ち上げや、探査・輸送を担う宇宙産業の重要拠点として、各国が整備を加速させています。日本では、アジア初の民間向け商業宇宙港として北海道スペースポート(HOSPO、北海道大樹町)が2021年に開港したほか、スペースポート紀伊(和歌山県串本町)、下地島空港(沖縄県宮古島市)などが宇宙旅行向けの拠点を目指しています。周辺には今後、企業の研究開発拠点、国際会議や展示会といったMICE、ホテル・商業施設や観光イベントが集積。経済効果を年100億円規模とする米国の試算もあり、地方創生の観点からも期待が高まっています。
地球上のあらゆる場所を1時間以内で結ぶ「宇宙旅客機」は、早ければ30年代にも実現すると予測されています。宇宙の玄関口が日常生活とつながる少し先の未来。世界で最も遠い場所とは、スペースポートのない都市を指すことになるのかもしれません。

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FRONTLINE
スペースポートは、将来的に宇宙輸送のハブとしての役割を期待されています。宇宙と地球の境界とされる高度約100kmを飛ぶ「サブオービタル飛行」。これを含む様々な飛行法により、地上を短時間で移動する二地点間高速輸送は、2040年に日本の発着だけで5.2兆円の市場を生み出すと文部科学省は試算しています。

スペースウォーカー(東京・港)のサブオービタルスペースプレーン
*写真はイメージ
©SPACE WALKER
北海道スペースポートの完成予想図
*写真はイメージ
©SPACE COTAN
挑み続ければ道は拓かれる
宇宙ビジネスは、限られた企業のものではない。
衛星データの利活用は、地球上のあらゆる産業領域で拡大している。
月面探査や資源開発、輸送から宇宙旅行まで——
宇宙が身近にある未来は、目前に迫っている。

人類のイノベーションは、
いつの時代も未知への挑戦から始まる。
探査機「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」。
その名前の由来となった
「宇宙開発の父」故糸川英夫博士は、
1955年に戦後初のロケット実験に挑んだ。
戦後復興の乏しい中、試行錯誤の末に造り上げた
「ペンシルロケット」の全長は23cm。
試射は成功を収めた。
それから約70年。
不断の努力は、
日本の宇宙産業に目覚ましい発展をもたらした。
今や宇宙ビジネスは、医療や農業、林業、漁業など
あらゆる領域に広がり、私たちの生活を支えている。
人類が生み出してきたイノベーションの歴史とは、
すなわち挑戦の歴史だ。
長い時間の中で、実現を疑問視する
多くの声もあったに違いない。
しかし、挑まなければ、変化は起こらない。
大切なのは、けっして諦めないことだ。
成功までの険しい道のりへ挑む人々とともに
未来への歩みを進めよう。
宇宙開発は「競争」から「共創」へ
一般社団法人 クロスユー 設立

(左から)三井不動産取締役専務執行役員 植田俊氏、同・代表取締役社長 菰田正信氏、クロスユー理事長 中須賀真一氏、JAXA理事長 山川宏氏、クロスユー事務局長米津雅史氏
2月13日に日本橋三井タワーで、三井不動産による「宇宙領域の産業創造に関する記者説明会」が行われた。
会見の中で同社は、新法人クロスユー(東京・中央)の設立を発表。
日本橋を拠点に、宇宙産業領域の活性化と共創の加速に取り組むという。
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菰田 氏
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植田 氏
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中須賀 氏
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山川 氏
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米津 氏
日本橋を起点に産業発展
三井不動産は、2022年9月にクロスユーを設立し、4月より宇宙産業におけるオープンイノベーションの推進に向けた活動を本格始動する。同社は、「日本橋再生計画」の重点戦略に「産業創造」を掲げる。「場」の提供や「機会」の創出によるビジネスマッチングのほか、産官学によるサポート体制の提供を通じて、日本橋を起点とした産業発展を目指す考えだ。
宇宙分野においては、2019年より「X-NIHONBASHI(クロス・ニホンバシ)プロジェクト」を主導。日本橋には宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめ、30社以上の宇宙企業・団体が集まり、国内外の宇宙関係者が主催するイベントの累計来場者数は4万人を超える。日本橋は、宇宙産業の集積地として生まれ変わりつつあるのだ。
三井不動産社長の菰田正信氏は、「日本全体の産業競争力の強化のほか、地球上の社会課題の解決にも繋がる」と宇宙産業の意義を説明。また「産官学の垣根を越えた協力が産業の発展を促す。イノベーションには、人間関係の構築や交流のためのリアルな場が不可欠」とし、三井不動産とクロスユーの活動を通じて、産業コミュニティーの構築やエコシステムの活性化を今後も全面的に支援していくという。
6本目の街道は宇宙へ
クロスユーの設立に先立ち、三井不動産は2016年にLINK-J(東京・中央)を設立した。その目的は、江戸時代に薬種問屋が軒を並べ、今でも多くの製薬系企業が集う日本橋の地の利を生かし、ライフサイエンス領域でのオープンイノベーションを促進することだ。同社取締役専務の植田俊氏は、日本橋が起点とされる五街道に加えた新たな6本目の街道を「宇宙に繋げたい」とし、LINK-Jを通じて培った産業デベロッパーとしてのノウハウを、宇宙領域にも応用していく考えを示した。
クロスユーの理事長を務めるのは、東京大学大学院工学系研究科教授の中須賀真一氏。中須賀氏は、「現代の宇宙事業において重要なのは、競争ではなく共創だ」と述べた。アポロ11号が人類史上初めて月面に着陸したのは、今から約50年前にあたる1969年7月20日。当時の宇宙開発は、アメリカと旧ソ連による、国の威信をかけた競争のもとで進められた。
一方、現代の宇宙開発においては、民間の果たす役割が大きい。2022年12月11日にアメリカのスペースXのロケットによる打ち上げに成功し、月面着陸を目指すispace(東京・中央)の月探査プロジェクトはその最たる例だろう。

日本橋には「X-NIHONBASHI TOWER」と「X-NIHONBASHI BASE」の2つの宇宙ビジネス拠点が設置され、既にJAXAやispaceが居を構える。
非宇宙の参入が発展を促進
中須賀氏は、「世界の宇宙産業は年率5%で成長を続け、2050年の市場規模は200兆円に達すると予測される。その50%は、非宇宙企業が生み出す付加価値によるもの」と説明。様々な非宇宙企業による参入が、宇宙産業発展の推進力になると強調した。
来賓として登壇したJAXA理事長の山川宏氏は、JAXAとクロスユーが2022年12月26日に連携協定を締結したことを発表。クロスユーと共に、宇宙産業以外の関連領域との連携やエコシステム形成に取り組むと述べた。
クロスユーの事務局長を務める米津雅史氏は、同社の特別会員制度について説明。制度を通じて、業種を超えたコミュニティーを創出していくという。
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カンファレンススペース(X-NIHONBASHI BASE)
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カンファレンススペース(X-NIHONBASHI TOWER)
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スタジオ(X-NIHONBASHI TOWER)
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バーラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)
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ワークラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)
クロスユーは、宇宙関連ビジネスのイノベーションの創出を目的として、4月から特別会員制度を開始する。同社は、「場」と「機会」の提供を通じて、国内外・産学官など様々なプレーヤーたちと共に、最新の知・情報が集まるエコシステムの構築と共創に取り組む。
特別会員に対しては、日本橋エリアのカンファレンススペース、コワーキングスペース、バーラウンジ、スタジオといった施設の利用や割引のほか、ビジネスマッチング、イベントなどを通じて、非宇宙領域も含めた様々な交流機会が提供される。共創フェーズでは、アクセラレーターやVCなどを交えたビジネスの加速も期待できる。さらに「宇宙ビジネス創出の促進に関する連携協定」を締結するクロスユーとJAXAの両社が、海外企業とのパートナーシップ促進をはじめとする効果的な施策を提供していくという。
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月を拠点に 広がる領域

©NASA/JSC
衛星データの活用などが活発化する宇宙分野。その新たなビジネスの舞台として、月が注目を集めている。ロケットの打ち上げ、資源開発、滞在などの拠点となり得るのだ。関連機器の開発のほか、保険や食品、エンターテインメントなどの多領域から参入が期待される。
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宇宙産業、市場規模2倍に
宇宙ビジネス市場が、かつてない盛り上がりを見せている。宇宙産業における現在の日本の市場規模は約1.2兆円。政府はこれを2030年代に、現在の2倍となる2.4兆円まで拡大させる目標を設定した。
なかでも宇宙ビジネスの新たな拠点として、注目を集めるのが月だ。月面ビジネスの市場は、30年代後半には1兆円規模に成長すると見込まれる。背景には、月の商業的価値がある。月の重力は地球の約6分の1。また近年の調査によると、月には豊富な水資源が存在し、これをロケット燃料などに利用できる可能性がある。月のメリットを生かせば、地球よりも少ないコストでロケットを打ち上げられるのだ。月は宇宙開発を進める上での、重要な打ち上げ拠点となり得る。
各国が政府主導の取り組みのほか、民間企業や大学による月への進出を本格化。PwCの予想では、月への貨物輸送は36~40年の5年間の合計で最大4.8兆円に拡大。月の水資源開発などに関連する市場も最大で7000億円規模になると見込む。
発展の鍵は共創
米国、日本、欧州などの各国協力のもと、月面探査プログラム「アルテミス計画」も進む。アポロ11号による初の有人月面着陸から約半世紀。新たに有人月面探査や月面基地の建設などを目指す計画だ。
日本にも月面探査に取り組む民間企業がある。ispace(東京・中央)は、「HAKUTO-R」ミッション1にて、昨年12月に同社のランダー(月着陸船)を打ち上げ、4月末の月面着陸を目指す。成功した場合、民間企業による世界初の月面着陸となり得る。
月面ビジネスに着目する企業は、自動車、建設、エネルギー、保険など幅広い。映画やゲームなどのエンターテインメント領域でも今後、宇宙データの利用が進む見通しだ。民間により宇宙産業の裾野が広がる動きを、米国では「ニュースペース」「スペース2.0」などと呼ぶ。月面経済圏の構築において、多領域からの参入が大きな役割を果たす。
これまで宇宙関連産業の支援に力を入れてきた三井不動産は、クロスユーを設立。日本橋を拠点に、宇宙産業のコミュニティーの構築と共創をさらに加速させる。
レーダーや観測衛星、月面開発、月面探査機などの分野に強みを持つ日本。世界的な競争力を強化することが期待されている。
クロスユーサポーターからの
メッセージ
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授
白坂成功 氏
“宇宙”を仕向地にする場
宇宙産業には、ロケットや人工衛星の製造や打ち上げなどが含まれています。しかし、近い将来、宇宙にいる人の飲食を支える飲食業など、単に“宇宙を仕向地とする”ビジネスが現れてきます。もちろん、無重力など宇宙特有なところもあります。今後、こういった分野を支えるのは非宇宙産業となります。このためには、宇宙産業に属する企業と非宇宙産業に属する企業とが、単に場を共有するだけでなく、相互作用をおこすことで専門家バイアスを超え、新たなビジネスを“宇宙”で実現することが必要になります。クロスユーが、このようなプレーヤーを生み出す場になることを期待しています。

Space BD
代表取締役社長
永崎 将利 氏
パートナーシップ強化で
宇宙を日本の次期基幹産業へ当社はX-NIHONBASHIプロジェクト発足当初より、日本橋エリアに拠点を構え、宇宙産業のエコシステム構築に向けた連携を三井不動産と進めてきました。以来、様々なマッチングイベントやカンファレンスなどを通じて多くのビジネスマッチングを創出することができています。これにより、自社の事業拡大はもちろん、コミュニティー内の強固な横のつながりを実感しています。宇宙産業が活性化するためには、産業の垣根を越えて連携していくことが必須です。今後も、クロスユーのサポーターとして、宇宙産業を日本の次期基幹産業にすべく取り組みをより加速していきます。
オリオン帰還、アルテミス計画が一歩前進

太平洋に着水した「オリオン」
(©NASA/Josh Valcarcel)
米国主導の有人月面探査「アルテミス計画」が順調に滑り出した。1号機となる無人宇宙船は月の周回軌道に到達した後、昨年12月11日(米東部時間)に地球に無事帰還。約半世紀ぶりに人類が月面に立つ日が一歩近づいた。
無人飛行に成功した宇宙船「オリオン」は最大4人乗りで、米ボーイングが開発した新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」を使い、同年11月に米航空宇宙局(NASA)により打ち上げられた。今回の成功により、2024年にはオリオンに宇宙飛行士が乗り込み、月の周回軌道で飛行するミッションを実施。25年以降に打ち上げ予定の3号機で女性を含む飛行士が実際の月着陸を目指す計画だ。
アルテミス計画には日本や欧州、カナダなどが加わっており、月面輸送サービスの委託などを通じて民間企業も参画する。半世紀前のアポロ計画との最大の違いは、アポロ計画では月着陸がゴールだったのに対して、アルテミス計画では月着陸を有人火星探査のスタート地点と位置付けていることだ。「月面で暮らし、人類を火星に送る方法を学ぶために向かう」(NASAのビル・ネルソン長官)。28年には月の周回軌道上に宇宙ステーション「ゲートウエー」を建設する計画で、月面にも基地を設ける。
昨年11月にはゲートウエーに日本人宇宙飛行士が滞在することやゲートウエーの居住棟へのバッテリーや生命維持機器の提供、月面への物資輸送などを日本が担うことが決まった。
スカパーJSATが取り組む宇宙のSDGs

スカパーJSATがレーザーを使った宇宙ゴミ(デブリ)の除去技術の開発を加速している。持続可能な宇宙環境を維持するため、理化学研究所などと組み、2026年の実用化を目指す。
「デブリに遠隔で力を与えることができるのが最大のポイント。除去するために近づく際の障害となる回転を止めることができるオンリーワンの技術だ」。19年に社内スタートアップ第1号案件として計画を立ち上げ、プロジェクトリーダーに就任した福島忠徳氏はこう話す。連携する理化学研究所の衛星姿勢軌道制御用レーザー開発チームでもチームリーダーを務める推進役だ。
使用するレーザーは「皮膚の表面の角質だけを取るシミ取りレーザーなどに使う技術を応用したもの」(福島氏)。物質にレーザー光を高エネルギーで照射した際に物質のごく薄い表面をプラズマ化して放出するレーザーアブレーションという現象を利用してデブリに推力を与える仕組みで、当てる場所や時間を調整することで回転を止めたり、狙った方向に動かしたりすることが可能となる。
レーザー利用の優位性はこれだけではない。デブリの外側の物質自体がプラズマ化し推力の燃料となるためコストパフォーマンスが良い。これに加えて、200メートル先から照射することもできるためデブリに近づく必要がなく、安全性も高いという。
「社会全体で宇宙ごみビジネスによるエコサイクルをつくれるかが課題」。宇宙のSDGsに向けて実用化を急ぐ。
