コンテナ船

決済を起点に、取引プロセスと顧客体験価値を再設計

コンテナ海運大手ONEが踏み切ったB2B決済の“構造転換“

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日本の消費者取引におけるキャッシュレス決済は大きく普及が進む中、企業間(B2B)取引は、いまだ銀行振込を前提とした「人手・紙・突合せ」に依存する決済構造から抜け出せていない。その結果、回収確認に時間を取られ、不明瞭な入金に対応し、決済の遅延がサービス品質にまで影響する──本来、競争力にならない業務に経営リソースが奪われている。
この構造に、真正面からメスを入れたのが、川崎汽船・商船三井・日本郵船のコンテナ船事業を統合した世界有数のコンテナ海運会社Ocean Network Express(ONE)だ。ONEは、カードで取引を完結させるという決済設計へ転換。決済そのものをデジタル化・即時化・支払い保証付きにすることで、サプライヤーであるONE側の業務負荷を下げると同時に、荷主(ONEの顧客)の資金繰り・業務効率・取引体験を引き上げるようにした。
決済は、もはやバックオフィスの話ではない。取引量、新規顧客獲得、そして選ばれる理由を左右する“フロントライン”になりつつある。B2B取引においても、カード決済が当たり前になる――ONEの意思決定は、その未来を先取りしたものだ。

道田 賢一氏
  • 道田賢一
  • Ocean Network Express Pte. Ltd. エグゼクティブバイスプレジデント
細谷 淳司氏
  • 細谷淳司
  • ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 法人ソリューションズ ディレクター

決済が遅い企業は、選ばれない

―― ONEでは、多国間・多通貨取引において、従来の決済プロセスにどのような課題がありましたか。

道田:海運業界では、請求・精算において依然として紙や手作業に依存するプロセスが残っています。複数請求の合算支払い、入金差異、支払い名義の違いなど、突き合わせに相当な工数がかかっていました。問題は、それがオペレーション効率だけでなく、貨物の引き渡しや顧客対応スピードにまで影響する点です。決済確認が遅れれば、当然サービス品質も揺らぎます。

細谷:物流業界全体が人手不足や業務効率の課題に直面する中で、「決済が非効率であること」は看過できない課題です。ONEの荷主にとっても、決済のDXは業務改革の中核テーマになっていたと感じています。

写真:道田 賢一氏
Ocean Network Express Pte. Ltd. エグゼクティブバイスプレジデント 道田 賢一氏

―― カード決済の導入を検討・決断するに至った決め手は何ですか。

道田:とくに中小の荷主へのサービス向上です。輸出入業者は、支払いから売り上げが立つまでのキャッシュサイクルが長く、航路によっては1~2カ月もかかります。こうした荷主にとって運転資金の管理は大きな課題ですが、昨今の円安や金利高、さらにドル決済という前提がキャッシュフローを圧迫しています。そこで、後払いが可能なカード決済を導入することで、ファイナンス面からも荷主をサポートできると考えました。また、Visaのワークショップを通じ、B2Bにおけるカード決済の仕組みや顧客企業目線でのメリットについて洞察を得られたことも導入の決め手になりました。

細谷:ワークショップやその後の対話では、「Visaとして何ができるか」ではなく、「ONEにとって、どういった付加価値が提供されるのか」に、徹底的に向き合いました。結果として、カード決済が取引そのものの質を引き上げるポイントになると整理できました。

コストで止まるか、収益で前に進むか

―― カード決済サービスの導入でどのような変化がありましたか。

道田:荷主向けに「ONE Finance」というデジタルプラットフォームを運用しています。これは請求から支払いまでをワンストップで完結できるポータルサイトです。ここにカード決済機能を実装したことで、エンドツーエンドの仕組みが完成しました。荷主にとってはカード決済によって資金繰りの柔軟性が高まり、さらに支払い確認の即時化によって貨物受け取りの迅速化という実利を享受できます。この差別化は当社の大きな優位性となり、新規の中小荷主の獲得、売り上げ増、継続的な取引増加につながることを期待しています。

細谷:当社では、2025年8月に「B2Bカード決済導入の価値、取引から変革へ~アジア太平洋地域の大手サプライヤー調査報告」を公表しました。その調査では、カード手数料を考慮してもB2B売り上げが平均2.14%増加する可能性が示されています。コストだけの議論ではなく、「収益機会の話」に転換することが重要です。

写真:細谷 淳司氏
ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 法人ソリューションズ ディレクター 細谷 淳司氏

――業務効率やリスク管理はどのように改善されましたか。

道田:カードによる支払いデータを経理システムと連携させることで、自動的に突き合わせできる仕組みを構築しています。経理業務の効率化を図ることで、本来注力すべき業務に人員を配置できます。また、カード会社による決済保証が入ることで、未回収や支払遅延リスクの減少が期待できるだけでなく、予定どおりに入金される確実性は、キャッシュフロー・経営の安定化にも寄与します。

細谷:さきほどの調査によると、銀行振込などでは、請求・回収関連で売り上げの4.7%相当のコストが発生しているという調査結果もあります。これは見えにくいですが、確実に効いてくるコストです。カード決済の導入によってこれらの負担を軽減できます。

写真:ONE

一部の業界・先進企業だけの話ではない

――海運以外の業界においては、とくにどのようなメリットがありますか。

細谷:建設や物流のように支払いサイトが長い業界では、カード決済によって資金繰りの柔軟性を高め、プロジェクト遂行力そのものを底上げすることが可能です。飲食業界では、小口・高頻度取引が経理部門の負担となっていましたが、決済と突合せを自動化することで、バックオフィスの構造改革につながっています。

農業分野では、「収穫後に支払う」という商慣習をカード決済で補完する動きも出てきました。これは単なる支払い手段ではなく、事業サイクルに合わせた新しいファイナンス手法とも言えます。今後は、医療・介護のように未回収リスクが経営を直撃する分野や、旅行代理店とホテル間の仕入れ取引のように多拠点・多通貨・短納期が求められる領域で、「カードを前提に取引を設計する」動きが加速すると見ています。B2B取引におけるカード決済は、業界を問わず 資金と業務の流れを同時に変えられる(数少ない)打ち手です。もはや効率化の話ではなく、事業モデルをスケールさせるための基盤になりつつあります。

――今後の決済業務についての展望を聞かせてください。

道田:ONE Financeはグローバルなプラットフォームとして設計されており、電子決済自体はすでにいくつかの国で実装されています。今回の日本でのプロジェクトを起点にVisaの広大なネットワークを活用してカード決済を世界規模で展開していく考えです。当社は世界120カ国以上でサービスを展開しており、このソリューションを広げることで業務改善とお客さまの利便性向上を同時に目指します。

細谷:決済は取引に付随するものではなく、取引全体を変革する起点になり得ます。今後も業界ごとの課題に踏み込み、サプライヤーとバイヤー双方の成長を支えていきます。